第34話 神獣
夕暮れと夜の境目になった刹那、
眩い光を放ち今、この空間に突如として降臨する
炎のような
金色の鶏冠、首は龍のように蒼く、脚は鶴のように長く、尾は孔雀色の五彩、美しい翼は炎のように燃えていた。
圧倒的な存在感にみながひれ伏す。
「任務完了か?」
「長も帰られてしまわれた」
待機していた聖獣隊がホッとしたのも束の間、地鳴りを肌で感じた。上空を見上げると黒い陰が見えた。
「しまった!
「駄目だ。このままだと民が巻き込まれる」
「くそう」
待機していた聖獣隊員が戦闘機に向かって攻撃する。空中爆発した破片が飛び散る。
「これではけが人がでるな。避難させよう」
空襲警報が鳴り、住民は防空壕へ急いで避難する。戦闘機は次々と〈東の地〉に攻撃しようと焼夷弾が降ってくる。
すると、異界から戻って来なかった聖獣隊が聖獣の姿で次々と空から現れた。四方八方に散り散りになり戦闘機に突っ込んでいく。
「みんな……戻ってきてくれたのか」
歓喜に沸く中、聖獣隊が次々と戦闘機に結界を張り爆発させる。機体が民家に飛び散らないためだ。その後、聖獣隊の姿が見当たらない。
聖獣隊が戦闘機とともにチリとなって消えた。
「通常であれば聖獣隊が戦闘機を破壊などできない。霊力を最大限に高めるために異界に戻ったとすれば―」
「……何という事だ。聖獣隊が犠牲になった。長になんと報告すればよいか……」
日ノ国軍も反撃に出ようとするが焼夷弾を落とされ軍事施設は火の海になる。皆、消火に当たっている。
戦闘機が墜落し、その破片が飛び散り、爆風で街が破壊される。
「僕には神剣がある。戦闘機を破壊できる。それにあと数機だ」
蒼翼が戦闘機に向かおうと飛ぶと反対から麒麟の麟太郎が、麒麟の姿で蹄を蹴り、空を駆けあがって現れた。
「麟太郎さま……?」
すると炎の波を放つ、灼熱が蒼翼の尾から後頭部あたりまで衝撃が走る。激痛で顔を歪め、裂傷で霊力が低下した蒼翼は
「ううっ……」
体勢を崩しながらもどうにか着地して、肩から血が流れ手で押さえながら、叫ぶ。
「何をするおつもりか! 麟太郎さま。気でもふれたか」
圧倒的な力を見せつけ金色の髪をなびかせ麟太郎は満足そうに蒼翼を見下ろしながら言い放つ。
「蒼翼殿、壱ノ国の邪魔立てするな」
「壱ノ国? ……麒麟は、我らの味方ではなかったのか?」
蒼翼は頭の中が混乱していた。そんなはずはない。
「まさか妖魔になっている?」
後方にいた聖獣隊が叫ぶ。
「違う!」
麒麟は灼熱の炎の風で誰も手出しできない。
(本当に妖魔に? 妖しい気配は微塵も感じなかったが……)
蒼翼は頭から血を流し朦朧としながら考えた。零ノ国で聖獣隊を迎えた時は、琥珀さまが剣を預かっていて、麟太郎さまが別の航海経路を案内してくれた。聖獣探しも協力してくれていた……。
「……あなたは半獣ではない。神獣であらせられるのか」
すると麟太郎はにやりと笑った。
「そうだ。常世に生きる聖獣の麒麟だ。
「霊力がないとか、嘘だったのか……。なぜそんなことを……日ノ国に恨みでも?」
「恨みもないが、理由もない」
麟太郎はあっさりいう。
「なに?」
確か、聖獣村の長である鳳凰と麒麟は対立していると聞いた事がある。麒麟は自分こそが長だと。しかし、急に冷静になった。
麒麟は神獣だから、半獣の僕からしたら考えられないが、良くも悪くも現世は神の気まぐれにより作られた世界だ。長は帝と契を交わしているから日ノ国を守ろうとしてくれるが……。麒麟にとっては―どうでもよい、ということだ。
元々、常世とは
寂しい氷黒の心の隙に入り込み、理性を奪われ悪神獣の妖魔にまでするなど僕には到底理解もできぬ、本当に大して理由もないのだろう。ならば僕が日ノ国の民を守るしかない。
「そこをどいてください」
剣の先端を麒麟の前に突き出し蒼い妖気を波のようにうねらせ泡立たせた。
「蒼翼殿、悪く思うな。壱ノ国と契約しているのでな。
太陽のような燃え滾る鬣を妖しく風になびかせ、麟太郎は蒼翼に稲妻を走らせた。
「っつ……熱い」
間一髪、避けた蒼翼は術を唱え手に力を込め海水を巻き上げ稲妻に投げつけた。息を切らしながら霊力を戻すため時間をかせぎたい、再び蒼翼は問う。
「麟太郎さま……何故そこまでなさるのだ?」
「鳳凰が気に食わない。それだけだ」
「それだけのために?」
「そうだな……。もうひとつあるとすれば、平和な世の中なんざ退屈さ。国同士が無意味に争い死ぬ、私は四百年前の日ノ国の乱世時代がたまらなく好きだ。戦火を見るとたまらなくてゾクゾクするなぁ。もう一度、常世のような荒々しい荒廃した業火の美しい世に戻したいと思っているのだよ」
「なんて勝手な……人間を何だと思っているんだ!! あなたのつまらぬ思想で何の罪もない民が犠牲になっていいわけがない!」
「だまれ! 我は神だ! 神は何をしても許されるのだ」
「やはり、裏切り者はお前か―麟太郎よ」
後ろから声がした。蒼翼たちが振り向くと、馬のようであり鹿のような獣。額には角があり、体には目がいくつもある、鬣は白銀の美しい神獣が現れた。
「くっくっく……。実は私も半獣ではない。麟太郎の裏切りを知っておった。面白そうだから泳がせていたのだ」
琥珀は扇子で口元を隠し笑う。
「ふん、余計なことを。ならば」
麒麟と白澤が海岸の空中で火花を散らす。麒麟が火を噴き、白澤が雲を操り強い雨を降らす。すると視界が悪くなった。
朱翔が叫ぶ。
「常世での醜い争いを現世に持ち込むな! どうせ常世で頂に立てなかったから現世へ来ただけだろうが!」
朱翔と共に〈東の地〉の聖獣隊が駆け付け一斉に麟太郎に飛びかかる。麟太郎は体から炎を放ち隊員に襲い掛かる、力尽きてバタバタ倒れる。そんな中、朱翔は炎玉が直撃するも平気なよう。
「なんだ―それだけ? なら炎のお返ししなくちゃ」
ドゥン。人差し指を銃口のようにして放つ。すると大砲のような速さと威力で俊炎が麟太郎に当たり衝撃を受け体制を崩す。
「お前ら……この世も炎で消えてしまえばそれで終わりだ」
「オレがさせるかぁ―――っ!!」
朱翔が怒り叫ぶ。
あの世とこの世が交わるこの時間。今しかない。玄少佐と兵太大将が闇の円を描き常世の門を大きく開けさせる、閉じてしまう前に麒麟を異世界に引き戻そう。地鳴りがした。
「帰るのだ、麟太郎よ。そこで地獄を見るがいい」
白澤の琥珀が手を広げ黒雲を大きく作り煙のように漂わせ麒麟の首元を締め付ける。
「五月蠅い。常世など戻らぬ」
尚も抵抗し、大陸に逃げようと、海の上を飛ぶ。朱翔が追いかけ叫ぶ。
「待て―――っ」
逢魔が時―もうすぐ終わる
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