第33話 氷黒
現在、〈東の地〉には現帝と皇后以外の皇族が住み、今のところ
空襲に遭って、日ノ国軍は戦闘を開始したが、
朱翔は街の巡回を終え本部に戻る。
婦人達はもんぺという歩きやすい服装に変わって働き始めた。空襲警報がなるとすぐ防空壕に入れるそうだ。
(東の民は適応力が高くて感心するな)
そろそろ美和に会いたいな―。でもあいつにサクッと振られているしどうしようか。美和の無事は確認済みだが空襲後は全く休みがない。
新聞で聖獣隊批判があったので心配していたが杞憂に終わった。民は特にオレたちには反発してこない。まあ、そもそも極秘隊員だし、ただの軍人にしか見えないよな。
(兄は今、どこにいる……。西の本部は護衛を外され、どこかに異動したようだが、下っ端のオレまで情報が入って来ない。美和は兄の居場所が分からなくて不安だろう)
その時、聖獣隊の一人が慌てて軍本部に入ってきた。
「大変だ! 悪神獣の
「なんだって!」
海の向こうから季節外れの台風がやってきた―。
小さい啓蒙が、ゆっくり台風と合わさって巨大化している。このままでは民が飲み込まれる。ムカデのような異形獣で足がいくつもあり、頭部が黒く穴になっていて海水も風も飲み込んでいった。
「何だ、あれは、ただの台風じゃない。
「いや、半獣の
「妖魔? だんだん大きくなってるぞ」
台風の目のような―あの黒い穴の中に吸い込まれたら二度と出られなくなる。どす黒い雲と雨を纏いながらゆっくりと〈東の地〉に向かって近づいていた。
東の民を一体どの位、避難させた方がいいのか、皆目見当もつかない。警報とともに空が荒れた。雷鳴が響き、轟々と風が凄まじく渦を巻く、巨大な竜巻がまだ上陸していないにもかかわらず強風で〈東の地〉の建物を簡単に破壊する。
「オレたちが突っ込んでもまるで意味がない。このまま手をこまねいているわけにもいかないし―」
(くそっ! くそっ!)
上陸するまでにはまだ時間がかかりそうだが、打つ手がない。西の隊員にも上が応援要請したけれど、いつになるか……。
やがて、東の聖獣隊が集結した。西も遅れてくるそうだ。
饕餮の氷黒は海水を纏いながら大きな竜巻の計蒙の妖魔になり果てた。
(さみしい……)
(食べても、食べても満たされない……)
(ああ……お腹空いた……)
妖魔となった氷黒が貪るように海水を巻き込み続ける。激しい雨が視界を遮り隊員達は対策を執れないでいた。それは津波のようにも見える。
「皆で円陣を組んで結界を張ってを止めよ!」
「しかし、いくら組んでも、計蒙の大きさには及びません」
「間もなく上陸するぞ――」
「氷黒の後ろ―あれは!」
豪雨の中から蒼く光る静かな龍
氷黒の背後から迫る竜巻は
(……もしも僕が十和に出会わなかったら僕も妖魔になったかもしれない)
だから饕餮の氷黒を助ける。
神剣を
空を切るように雷を纏った刀を振り下ろした。竜巻は真っ二つに割れたが回転する勢いはそのままに再び一つに戻り蒼翼に襲い掛かった。蒼翼の竜巻に覆いかぶさるように黒い竜巻は加速しながら蒼翼を飲み込んだ。巨大な竜巻と黒い積乱雲がうねりながらまた巨大化する。
波がどんどん高くなり風も強くなった。大きくなりすぎた竜巻は均衡が保てない。ぐらぐら揺れる。雨風が激しく周りが何も見えない。
「蒼翼が氷黒に飲まれた!」
「蒼龍殿―っ!!」
巨大化した竜巻の内側から雷鳴と同時に剣がまばゆい光を放ち、再び黒い竜巻を青光りの蒼龍が切り裂いた。雷を氷黒に落とし海面で踵を返し蒼龍は飛翔した。
「おおっ」
聖獣隊から歓声が上がる。蒼翼は計蒙の氷黒に妖術を施そうと呪を唱えはじめると、氷黒はそれを抵抗し巨大な足で蒼翼は弾き飛ぶ。
「危ない!!」
勢いよく地面にたたき落されそうになった蒼翼を数人の聖獣隊が下から支えた。
「ありがとう、助かったよ」
「なんてことはねぇさ」
「構わず急げ」
もう一度、体制を整え空高く舞い上がり、神剣を銜えると、細かい銀色の粒子が剣の尖端に集まると蒼翼の体が青く水のような透明の龍神になる。黒雲を纏った氷黒が空に広がる、もはやここは人間界なのか異世界なのか―。曖昧で歪んだ空間ができた。
「今だ!」
勢いつけて氷黒のお腹に衝突をした。その衝撃で氷黒の体が徐々に半透明になりピタリと動かなくなる。水が沸騰しているように泡が湧き上がる。
バシャン
水のようなものが海面に崩れ落ち、小さくなった饕餮の氷黒は人の姿で海に落ちた。
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