第28話 戦

 ここは日ノ国ひのくにの帝都〈西の地〉、歴史ある城下町で風情ある町並み。

 帝は何代にもわたりこの地を治めてきた。新たに即位した帝は改革派でありまつりごとにも積極的だ。まつりごとは主に〈東の地〉で行っていたのだが、数年前から現帝は東から〈西の地〉に移っていた。


 蒼翼と虎一が軍学校を卒業し、正式に帝に仕えるため〈西の地〉に配属されて間もなく、特殊部隊、別名―聖獣隊は、貔貅ひきゅうの兵太大将が蒼翼含め隊員を〈西の地〉にいるほぼ全員を集めた。その表情は硬く重苦しい雰囲気の中、壇上に上がり語った。


「聖獣隊全体の人数は百名程、内半数が帝の警護に配属され、残りは帝以外の皇族の任務に就いている。―が、数ヶ月前に壱ノ国で聖獣村出身の氷黒ひょうこく計蒙けいもうを出現させたとの情報が入ってから帝がご乱心召された。今は指揮を執る状態にない。現在、日ノ国軍が執り行っている」


「なんとっ……」


 集められた聖獣隊員が驚嘆する。

 中佐が不明な点を冷静に指摘した。


「計蒙は、妖魔でありながら神獣のような生き物で漆黒の闇に何もかも飲み込まれその先は誰も分からぬと聞く。それを出現させたと……半獣ではない氷黒ができるのですか?」

 兵太大将はため息交じりに首を振った。


「いや、実は氷黒は饕餮とうてつに覚醒していたようだ―」

「!!」

「他にも理由が、現帝は前々から聖獣隊の組織には懐疑的であったようだ」

「なに?」


 玄少佐が問う。

「確かに氷黒の件は大問題だが調査はこれからだろう、我らの何を疑っておられるのだ」

 両手で拳を握りしめ、覚悟を決めて兵太大将はいう。

「帝が、聖獣隊を恐れていると―」

「何……? 恐れているなど……我らとは信頼関係はなかったと申しておるのか?」

 

兵太大将は覚悟を決め報告する。

「本日をもって、帝の警護はすべて日ノ国の軍人のみ、聖獣隊は除外された」


「…………!」

「もう一度問う、帝が……どうして我々を恐れて……理解できぬ」


 兵太大将は慎重にゆっくり話す。

「代々、半獣である聖獣隊がいにしえの時代から帝をお守りする天命を受け、我々聖獣隊は誇るべき職務とし、今日まで至るが、新たに即位した帝は聖獣隊に囲まれ―。いわば囚われの身だと吐露されたとのことだ……」


「何という……」

 集まった隊員が絶句した。


「だから、聖獣のおさはお怒りになり異界への出入り口を閉じているのか?」

「聖獣隊を解体するつもりなのかもしれん」

 ざわざわ、皆が狼狽して平静を失う。


「その件は長に伺っていないのでまだ確定ではない。帝への信頼回復に努めるべく今はやるべき事だけを考えよ」

「しかし饕餮の氷黒はどうするつもりだ?」

「日ノ国軍の上層部の結論としては聖獣隊だけで解決しろと……」

「つまり―」

 貔貅の兵太大将は脂汗をかき苦悩に満ちた顔が窺える。


「饕餮の氷黒を捕らえるか、或いは討つ」


「我々に―身内でもある氷黒を……殺せと?」

「そういうことだ」

「もう一つ、決定したそうだ。日ノ国軍は戦争準備段階に入った」

「!」

 隊員たちがどよめく

「戦争か……」

「壱ノ国では霊化兵器を用いて戦うだろう、さすれば日ノ国軍も―。現在、日ノ国軍部内で兵器を開発している。強国である壱ノ国からの侵略を阻止するため、零ノ国から誘導飛翔体を導入するようだ」

 最後に兵太大将が告げる

「壱ノ国との戦争及び帝は日ノ国軍に任せるとして、今後、聖獣隊がどうなるか分からぬが、我々は氷黒が出現させたと思われる妖魔の計蒙を何としても封じさせよう。各班に分かれ、渡した巻き物に書いてある任務を遂行せよ!!」


「承知!」


 聖獣隊の間でも疑問とこれまでにない不安が襲ってきた。かつて、風神や雷神、雨嵐、数々の奇跡で日ノ国の帝や民を守ってきた誇り高き聖獣隊は足元から揺らいだ。人間と聖獣、帝との絆が無くなる。これから壱ノ国と戦闘態勢に入る前に、汚名を着せられ任務をはく奪され、異界に戻ればもう跡形もなく歴史から消え去るだろう。


 数日後、日ノ国新聞に載る


 偽りの聖獣隊

 長年、帝を拘束し政に口出しする悪しき半獣

 妖魔の計蒙を出現させた裏切り者


 それは突然だった、日ノ国軍の発表による聖獣隊への批判。これは長年、民に愛されてきた聖獣様のことを言っているのか、にわかに信じがたい内容だった。

 饕餮という半獣が計蒙を発現させ、日ノ国の民を飲み込むような怪物がもうすぐ〈東の地〉に現れるであろうと―。


 そして壱ノ国に宣戦布告

 日ノ国は戦争準備段階に突入

 日ノ国の青年よ今こそ立ち上がれ

 直ちに召集命令をかける

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