第20話 氷の国の半獣
零ノ国から隣国である
広大な土地となだらかな平地、気候や海に恵まれ、海産物や農産物も豊富だ。金が採れるので貿易も盛んで豊な国である。その上、零ノ国に侵略しようとここ数年、争いが絶えない。そして隣国より先に日ノ国を手中に収めようと争いを吹っかけてくる。不穏な動きの中で壱ノ国が聖獣を利用しようとしているのではないか、との噂もある。
大陸共通語を学校で習う傍ら、行方不明の半獣を捜索しているが、なかなか見つけられないでいた。
「ああ寒い。氷の国だ。人もまばらで一体、どこ探せばいいんだ。蒼翼、今日は遠くへ行ってみるかぁ?」
「そうだな。あまり目立たぬように途中から二手に分かれようか。それに僕はちょっと例のあの場所……入り口に行きたい。はっきりと場所を確認したいから」
「お、何だ。婚約者から手紙が来ていないか寄る気だな」
「……」
(ダンマリか、正直な奴め)
「この前、会ったんだけどさ。彼女は僕の事をただの恩人としか思っていない。あ―僕、余計な事を言わなければよかった」
「恩人だろうが何だろうが親が決めた婚約者だろ。恩人で別に良くないか? むしろそれで威張れ、堂々としていろ! 情けないな~」
「別に僕は彼女に感謝とか恩があるから義理で結婚して欲しいわけじゃなくて、同じくらい想ってもらえたら嬉しいけど。こればっかりは僕のわがままだろうか……」
はぁとため息をつく蒼翼。
(こじらせているのか? なんか腹立つな)
「はっ、俺には微妙な男女の気持ちはわからん―」
虎一は、ふと何かを思い出し蒼翼を見る。
「そういや先日、お前は婚約者と会った時、何者かが銃を撃ってきたそうだな。こっちも調べているが何も掴めていない。どうしたことだろう」
「そうだ、銃を向けていたのは訓練された、おそらく軍人だ。でも特殊部隊〈聖獣隊〉じゃない。だとすると日ノ国軍人しか考えられないのだが、僕らと軍人と接点なんてないのだが……」
「やはり、俺ら半獣はあの噂が出てから信用されていない気がしてならねぇ。知っているか? 我ら聖獣隊は、帝の警護が軍隊にだんだん取って代わられていると聞いた」
「何だ、その話は。なら信頼回復にはまず証明しないと。何としてでも消息をつかまないといけないな。国内が一枚岩でない上、大陸からも狙われている最悪の状況だ」
焦る気持ちを抑え、サーベルを帯刀し防寒用のコートを身に纏い、極寒の地らしい毛皮の防寒帽を被り足早に外へ出る。
零ノ国は友好国ではあるが日ノ国軍を警戒しているので、外出するたび国の機関からつけられている。思うように捜査はできない。
「今日もまくか?」
「余計に警戒されるだけだ。代わりの人を用意しよう」
そうして二人は各々、髪を一本抜き、ふうと吹けば虎一と蒼翼の複製の出来上がり。
「複製のお前達は今日一日、図書館で調べものをするのだ」
複製は答える『承知しました』
蒼翼は蒼き龍に
(雪原の中、どうやって入り口を見つけたらいいのか)
常に吹雪く、視界は悪い。空高く舞い上がり深い森は木に積もった雪が凍って氷の山になっている。今日は森の奥に行ってみようと思い、意識を森へ向ける。森の奥から感じる。龍の姿でふわりと降り立ち、しばし入り口を探す。立ち止まったそこは年中風が吹きすさぶ鋭い剣山のような岩山に囲まれた湖だ―。透明感のある淡い群青色の湖面を覗くと湖の底から霊気を放っていた。
(まさか、湖の中に入り口があるのか?)
バシャン
速度を強め勢いつけて湖へ潜った。霊気を感じる場所まで深く潜っていくと湖底洞窟を発見した。中に入り口があった。
(ここなら誰にも見つからないな)
入り口に眼を光らせる。すると上半身人間で下半身が魚の姿をした聖獣が手紙と巻物を持ってきた。金色の長い髪の美しい女の―人魚だ。
「ありがとう」と眼で
湖から出て、一度ブルっと首を振る。すると何者かに見られていると感じる。霊視すると聖獣だと判る。
(あれは消息不明の貿易関係の仕事をしていた二人)
辺りを気にしながら、蒼翼はまわりの雪を回転させながら纏わせ人の姿に戻る。
「やあ、蒼龍の蒼翼殿、驚かせてすまない。この国いると監視されて命を狙われているかもしれないから、連絡もできず悪かったね」
「やっとお会いすることができました。隊員一同心配しておりました。元聖獣隊、
麟太郎は体が大きく武人のような空気を纏い、琥珀は扇子で口元を隠し、つかみどころのない妖しい美丈夫だった。蒼翼が跪くと白澤の琥珀が扇子をパタリと閉じ、
「頭を上げてください。私たちはしばらく日ノ国に戻れそうもないです。異界へも。もう私たちの霊力は強くないです。
「琥珀さま承知しました。ではこの巻物とお二人が無事であることをご報告いたします」
白銀の髪をなびかせ白澤の琥珀は静かに言う。
「蒼翼殿、日ノ国は近いうち、大変な事態に陥るだろう」
蒼翼はハッとして、顔を上げた。
「それは戦争の話ですか?」
「……」
「私達は貿易の仕事をしていました。そこでつかんだ情報ですが、零ノ国の隣国である壱ノ国は、聖獣の力ですら止めることのできない巨大な禍々しいモノを生み出した。他国に売りつけるため、壱ノ国はそれを試したいのだと。あと、日ノ国軍にも気をつけなさい」
「日ノ国軍? ……心に留めておきます」
「では、いずれ会おう」
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