第48話 空の上で
俺たちは空の上にいた。
正確には空を飛ぶミストルティアの背中の上だ。
「思っていたよりも快適ですね」
「快適っていうか、結構なスピードで飛んでいるのに向かい風が全くないよな? ミストルティア、何かしてるのか?」
疑問に思って尋ねると、
「おにーさんたちが落ちたらいけないから、風除けに防御結界を発生させてるんだよー」
そんな答えが返ってくる。
「なんだ、意外と気が利くんだな」
「意外言うなし! おにーさんのいじわる! そんなおにーさんにはこーだ!」
俺の軽口でへそを曲げてしまったのか、突然激しい暴風が吹き込んできた。
「ちょ、おいこら! おまえ今、防御結界を弱めただろ!」
「おにーさんがいじわる言うからだもーん」
「っておい! 今度は逆さ向きに飛ぶんじゃない! 俺はいいけどリュスターナが落ちたらヤバいだろう!?」
「ふふーんだ! リュスターナさんには重力制御の術をかけてるから落ちないもーん。落ちるのはいじわるするおにーさんだけだもーん」
「くっ、こいつってばやることなすことマジで有能すぎるんだが!?」
「なはははっ、今さら気付いたの?」
「ふふっ、ふふふふふふっ」
俺とミストルティアのコントさながらのやり取りがツボにでもハマったのか。
リュスターナが笑い出す。
「おいミストルティア。リュスターナに笑われちゃっただろ。どうしてくれる」
「いじわるなこと言ったおにーさんが悪いんでしょー」
「俺はミストルティアを褒めたんだよ」
「『意外と』のどこが褒めてるし!」
「褒めてる褒めてる。めっちゃ褒めてる。意外と」
「むきー! 褒めてないってーの! てやっ!」
「いてっ!? お前、翼で殴りやがったな!?」
「殴ったんじゃないもーん、当たっただけだもーん」
「こんにゃろ……!」
「ふふっ、2人は本当に楽しそうですね」
リュスターナの言葉に、
「あ、悪い。最終決戦前にちょっと不謹慎だったか……?」
俺はしまったと思い至った。
陽動部隊はもうとっくの昔に戦闘を開始している。
なのになにを遊んでいるんだとでも思われたかもしれない。
だけどどうやらリュスターナの意図はそういうことではないようだった。
「いいえ、まさかです。実を言うと私、昨日ぐらいからずっとすごく緊張していたんです。ですが2人の楽しいやり取りのおかげで、それがいい感じにほぐれちゃいました。ありがとうございます勇者様、ミストルティア」
「そう言ってくれるとありがたいかな」
「メリハリは大事だよねー」
「ふふっ、ですね」
そんな感じで空の旅は最初こそピクニック気分でワイワイやっていたものの。
北方山岳地帯を超えたあたりで、ミストルティアが打って変わって真面目な声で言った。
「そろそろドラゴンの支配領域に入るから、おしゃべりするならバレないように小さな声でね。ドラゴンは下っ端でも感覚がかなり鋭いから気付かれちゃうから」
「オッケー、分かった」
「かしこまりました」
俺とリュスターナはそろって首を縦に振る。
「それとおにーさんの周囲に≪認知阻害結界≫を張るね。おにーさんの勇者の力は近づけば嫌でも分かっちゃうから」
「一応バレないように限界まで抑えてるつもりなんだけどな」
「どれだけ抑えていても元の力が強大すぎるからね。限度はあるよー」
「山の頂上に布をかけて『山を隠したぞ』って言ってるようなものですもんね。傍から見たらバレバレです」
「さすがリュスターナさん、例えがわかりやすーい」
「ふんふん、なるほどな」
どうやらそういうことらしかった。
「ってわけだから≪認知阻害結界≫発動!」
ミストルティアがその言葉を発するとともに、俺の周囲に黒色の
「ふわぁっ! 隠しきれない勇者の光の力を、ドラゴンの魔力で上辺だけ中和しているんですね。すごいです、ぱっと見は全然感じ取れなくなっちゃいます」
それをしげしげと眺めながら感心したように呟くリュスターナ。
俺は結界の細かい理論とかはさっぱりなのだが、どうやらすごいことをしているようだ。
さすがドラゴン。
さすドラだ。
……なんか朝ドラ(NHK「連続テレビ小説」のことな)みたいだな、なんちゃって。
「ボクが魔力を高めすぎると逆に不自然になっちゃうから、ギリギリ隠してるだけどね。上位種ドラゴンなら気付くだろうけど、残っている雑兵ドラゴンならなんとか誤魔化せるはずだよー」
こうして。
俺たちは準備万端でドラゴンたちの住まう領域――ドラゴンズ・ハイランドへと侵入した!
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