第19話 何もかもから逃げ出した男の末路

牛丼

「【水操作】!!」


 牛丼は、水を生み出し崖の下でうまく地面に着地しようとしたが、失敗した。


 ある程度の勢いは殺せなものの、完全までとはいかなかった。


牛丼

「ぐわぁぁ!!」


 牛丼は、剣を支えに立ち上がる。


 そして、崖の上から何かが降りてきた。


牛丼

「誰だ、てめぇ。」


 恐らく、この降ってきたやつが、俺を攻撃したやつだ。


牛丼

「誰だって、聞いてるんだよ。」


???

「私たちの邪魔をするな。」


牛丼

「邪魔?」


―― ドン!!


 次の瞬間。


 牛丼の右頬を小石が通り過ぎた。


牛丼

「そっちがその気なら、俺もその気だ。」


 そして、牛丼と謎の刺客の戦いが始まった。




―――――――――




 牛丼と謎の刺客の戦闘が始まった頃、生まれようとしていた者が、丁度カツ丼の背中から完全に分離した。


カツ丼

「イフリート……。久しぶり。」


 カツ丼から生まれたのは、炎の精霊イフリートだった。


イフリート

「……。」


―― ドンッ!!


 イフリートはカツ丼の顔を見ると、いきなり飛び出した。


 そして、カツ丼の顔目掛けて拳を送り込む。


 カツ丼は、寸前のところでその攻撃を避けていく。


カツ丼

「やめろ! イフリート!!」


カツ丼

「やめてくれ!!!」


―― ドンッ


カツ丼

「ッ!?」


 イフリートの拳が、カツ丼の腹を襲う。


 カツ丼の身体は、木々をなぎ倒しながら遠くへと飛んでいった。


カツ丼

「やめ……ろ。」


カツ丼

「やめて……くれ。」


 しかし、イフリートは一踏みでカツ丼の目の前へと近づき、そしてその右拳をカツ丼へ放とうとした。


カツ丼

「俺が弱い奴って事くらい知ってるだろッ!!」


 イフリートの動きが止まった。


 そして、カツ丼は気がついた。


 イフリートの目からは、涙が溢れている事に。


 直後。


 イフリートはカツ丼を殴ろうとしていたその拳で、イフリート自身の顔面を殴り飛ばした。


カツ丼

「イフリート!?」


イフリート

「に、げ、ろ。」


カツ丼

「!?」


 カツ丼は、その場から走り出した。


 ……


 ……


 ……


 ……


 ……、俺はなんでこんなに弱いんだ。


 なんで、戦うことが出来ないんだ。


 俺に才能がないから? 俺に力がないから?


 そうだ。きっと、そうに違いない。


 俺は、雷を扱う侍の家系に生まれた長男だった。


 当然、父さんは俺に家を継がせるために稽古をしてくれたが。


 俺は、一向に雷を使うことが出来なかった。


 父さんや母さんは、当然のように俺を侮蔑した。


 そんな時、弟が生まれた。


 すぐに弟を育てたが、弟は雷こそ使えるものの、逆に刀を扱うことが出来なかった。


 そして、2人目の弟が生まれた。


 その弟は、余裕で俺たちを超えて行った。


 父さんたちは、俺たちを見捨てた。


 だから、俺は弟を連れて家を出た。


 弟を別の世界に行かせ、俺はこの世界をさまよった。


 気がつけば、俺は王国の実験道具になっていた。


 そして、そこで俺はイフリートと出会った。


 イフリートも俺と同じように、何の能力も持たない奴だった。


 だけども、イフリートは王国の能力開発によって、炎を操れるようになった。


 そんなイフリートは、炎を暴走させ逃げ出そうとしたが失敗し、最終的に俺の体内に封印させられた。


 俺にもっと力があれば、イフリートも助けれたかもしれない。


 俺にもっと才能があれば、弟を苦しめなくて済んだかもしれない。


 いや、違う。


 力が無いから、才能が無いから俺の居場所が無くなったんだ。


 いや、それも違う。


 力が無いから、才能が無いからって事を言い訳に、逃げ出しただけだ。


 そして今も。


 今も俺は逃げ出した。


 手を伸ばせば、救えるかもしれない。


 イフリートを元に戻せるかもしれない。


 初めて出会ったあの頃のように。


 力が無くとも、才能が無くとも、立ち向かわぬくちゃいけないんじゃないか。


―― 戦えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!


カツ丼

「!?」


カツ丼

「……、ぎゅう……どん。」


―― 戦え! お前は強い奴だ!! だから、戦えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!


カツ丼

「俺は……強い……?」


 強い。


 俺が。


 強い。


 力が無くとも、才能が無くとも、俺は強い。


 俺は……


 俺なら……


 俺でも……


 戦える……?


 ……


 ……


 ……


 ……


 ……


カツ丼

「……、スゥー」


 カツ丼は、自身の肺に残る空気を全て外へ吐き出した。


 そして、自身の腰にある刀に手を伸ばした。


カツ丼

「イフリート……。」


カツ丼

「今、助ける。」


 瞬間。


 カツ丼を追いかける為に走って来ていたイフリートの身体の身動きが止まった。


 重力によって、その場で押し潰されているのだ。


 強く押しつぶされたイフリートの身体は、次第に地面と共に下へ潜っていく。


カツ丼

「許せよ……、イフリート。」


カツ丼

「我流奥義【卵とじストラッシュ】」


 壊滅的なネーミングセンスのスキルを発したカツ丼。


 刹那。


 元居た位置にカツ丼の姿は無かった。


 そして。


 イフリートについていた首輪が斬り落とされた。

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