第18話 カツ丼

《西暦2061年5月28日・タクトの森》


 テドンたちが森に来てくれてから2週間が経過した。


牛丼

(それにしてもなぁ。)


 牛丼は、森の光景を眺めながら思う。


牛丼

(まさか、2週間で俺たちの家が全部完成してしまうなんてなぁ。)


 そう、たった2週間。


 このたった2週間で、テドンとその弟子たちは、5軒の家を建ててしまった。


 牛丼の家

 リコの家

 セイヤ、タツヤの家

 スライムくんたちの家

 テドンたちの家


 しかも、ちゃんと完成度が高い。


 すきま風1つもない家だ。


 逆に怖すぎる。


 ちなみに、現在テドンたちは、広場のようなものを造っている。


 どうせなら、村のようにしようという話になったからだ。


牛丼

(広場が完成したら、テドンたちの歓迎会でも開くか。)




――――――――



リコ

「本当に1人で大丈夫なんですか?」


牛丼

「1人で見ておきたいんだよ。」


 2週間も経過したので、牛丼の身体の傷もだいぶ治った。


 なので、今日はタクトの森を探索することにした。


牛丼

「まぁ、なにか起きたら逃げるから大丈夫。」


リコ

「それが大丈夫じゃないんですよ。」


リコ

「私も行きましょうか?」


牛丼

「リコはここで待っててよ。」


リコ

「ぶー。」


 そして、牛丼は森の探索を始めた。


牛丼

「わ! ここ崖なのかよ、危ないな。ケンタ、危険マークにしておいて。」


ケンタ

「了解。」


 タクトの森の大雑把な地図はユウホがきおくしているので、その地図により詳しい情報を書き加えていく。


牛丼

「お、ここは木の実が採れるのか。ここも話マークよろしく!」


ケンタ

「了解。」


牛丼

「ん? あそこには洞窟があるのか。後で行くか。もしかしたら、鉱石が採れるかもしれない。」


牛丼

「ケンタ、ここもマークしておいて。」


ケンタ

「了解。」


 そんな調子で牛丼は森の探索を進めた。


 そして、ある程度の探索を終え、帰ろうとした時だった。


―― カサカサ


 近くの草むらで物音がした。


 牛丼は、その音の方に近づいていった。


牛丼

「食える動物だと良いな。」


 牛丼は覗いて見た。


 すると、そこには動物はいなかった。モンスターでもなかった。


牛丼

「侍……みたいな格好してる。」


 弱った男がいたのだ。


牛丼

「ケンタ、この人を早く運ぶよ。」


ケンタ

「了解。」




―――――――――




???

「う……。」


 男は目を覚ました。


???

「ここ、は。」


牛丼

「お、目が覚めたみたいだな。良かっ良かった。」


???

「人……、家……、なん、で。」


 男は状況を冷静に分析した。


 すると、だんだんと冷静さを失った。


???

「なんで、なんでなんで。」


???

「森にいたはずなのに?」


???

「もしかして、王国に捕まった……?」


牛丼

「どうしたんだよ、ここはタクトの森だけど。」


???

「なんで、なんでだよ。」


???

「タクトの森には人がいないはずなのに。」


???

「なんでだよ!!!」


???

「おま、なんで俺を助けたんだよ!!」


牛丼

「は? 目の前で弱ってる人がいたら助けるのが当たり前だろ。」


???

「くっそ!!」


 男は寝かせていたベッドを飛び出し、家も飛び出し、森の中へと走って行った。


牛丼

「待てよ、名前くらい教えてよ。」


カツ丼

「カツ丼、それが俺の名前だよ。」


牛丼

「俺は牛丼! また、どこかで会おうな!!」


 牛丼は走って行くカツ丼の背中にそう叫んだ。


牛丼

(それにしても、かなり急いでたみたいだけど。)


牛丼

(何かあったのかな。)


牛丼

(ご飯くらいあげるべきだったか。)


 牛丼は、そう思うと自分の家に入った。


 そして、家に設置されたキッチンに火をつけた。


牛丼

(今日は、牛丼でも作っちゃおうかな。)


 牛丼は、料理に必要な材料を取りだした。


牛丼

(それにしても、あのカツ丼って人。俺と同じで名前に『丼』がついてるから親近感があって好きだな。)


 牛丼は、そんな事を思いながら料理を始めようとした。


 その時だった。


―― ドンッ!!!!


 遠くではあるが、爆発したような音がした。


牛丼

「なんだ?」


 牛丼は、家を飛び出した。


 そして、爆発が起きたのであろう方向を見た。


 すると、そこには大きな煙が発生していた。


 しかも。


牛丼

「カツ丼が行った方じゃねぇか。」


 牛丼は、煙が発生している場所は向けて走り出した。


牛丼

「大丈夫か! カツ丼!!」


 そして、煙の発生源までやって来た牛丼は、その光景に驚いた。


牛丼

「くっ!!」


 火事が発生していた。


 木が勢いよく燃えていた。


 その炎の真ん中には人がいた。


牛丼

「カツ丼! 大丈夫か!!」


 近づこうとした牛丼。


 だが、更に驚く光景を見てしまう。


牛丼

「カツ……丼。」


 カツ丼の背中から何かが生まれようとしていた。


 まるで、虫の脱皮のように。


牛丼

「なんだアイツは。」


 そして、そのカツ丼の背中から生まれようとしている者が、炎を作り出していた。


牛丼

「なんなんだよ、アイツは!!」


 次の瞬間。


 カツ丼から生まれている者が、牛丼の方を向いた。


 そして、右手を牛丼へ向けた。


 すると、真っ直ぐに炎が牛丼を襲った。


―― ドゴォォォォォォォォォォォ!!

―― キーンッッッッ!!


 だが、その炎は別の方向へと飛んでいった。


牛丼

「はぁぁ!!」


 炎と炎の間から、牛丼が飛び出して来た。


 そして、カツ丼から生まれている者に向けて斬りつけようとした。


 だが。


―― ドンッ!!


 牛丼の身体に何かが勢いよく激突した。


牛丼

「くっ!!」


 その何かによって牛丼の身体が勢いよく飛ばされる。


 牛丼の勢いを殺すものはなく、そのまま崖の下へと落ちていった。


牛丼

「カツ丼!!」


牛丼

「戦え! お前は強い奴だ!! だから、戦えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

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