第5話 継承

ラドリー

「あ……。グハッ!」


 コレルの剣により身体を貫かれたラドリー。


 ラドリーは、そんな剣を引き抜いた。


 すると、ラドリーの口からは黒いドロドロの液体を吐き出した。


ラドリー

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ、ハハハハハハハハハハハハハハ!!」


ラドリー

「ぶぐほぉッ!!」


ラドリー

「やっと、倒せた……。やっと、倒せたダネ!!」


 ラドリーは、転がっているコレルの死体に近づいた。


 だが、その目の前には牛丼が立ちすくんでいた。


ラドリー

「さぁ、早く回収しなくてはならないダネ。なので、早くどくダネ。」


 しかし、牛丼は、まるで声が届いていないのかと思うほどに、まったく微動だにしなかった。


ラドリー

「聞こえているダネ? 早くどくダネ!!」


牛丼

「……まれよ。」


ラドリー

「はい? もっと、ハッキリと喋るダネ!」


牛丼

「黙れよ。」


――ドンッッッ!!


 瞬間、ラドリーの身体が大きく吹き飛んだ。


ラドリー

「ッ!? いきなり、何をするダ……。」


 ラドリーが目の前を確認した時、そこには牛丼の姿はなかった。


 ラドリーの斜め上、そこに牛丼がいた。


 その牛丼の目は、確実に獲物を捉えている目だった。


――キィィィィンッッッ!!


ラドリー

「この勇者、強い!?」


 ラドリーは、身の危険を感じ、闇の力を牛丼へ襲わせる。


ラドリー

「闇の力は、ただの通常攻撃では破壊できないダネ! これで君も終わりダネ!!」


牛丼

「……【二段斬り】」


――キンッ! キンッ!


ラドリー

「な!?」


ラドリー

「いや、、まだダネ!!」


 更に多い数の闇の力が襲う。


 牛丼はもう一度【二段斬り】を使ったが、


 【二段斬り】が闇の力を斬り落とすことは無かった。


 剣が折れたのだ。


――ドォォンッ!!


 闇の力に吹き飛ばされ、牛丼はコレルの死体の近くに転がった。


牛丼

「う……。」


 その時、牛丼は目の前にある1本の剣が目に止まった。


牛丼

「師匠。」


 そう、師匠の剣。


 牛丼は、折れた剣を投げ捨て、コレルの愛用していたその剣に手を伸ばした。


  


 瞬間。


 牛丼は、おとぎ話の中にしか存在しないとされていた『魂の星域』という謎の世界に足を踏み入れていた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


  


 森の中。


 明るい世界。


 無数に広がる霧。


 目の前には、木の影しか見えない。


 なのに、空と地面には、星空が浮かんでいる。


 まるで、天の川の中にいるような。


 明るい世界なのに、なぜか星空が鮮明に見える。


牛丼

「どこだよここ。」


 牛丼の手元には、師匠の愛用していた剣がある。


 その時だった。


 目の前に人影が見えた。


牛丼

「待て!」


 牛丼は、その人影を追いかけた。


 しばらく、追いかけていくと森を抜けた。


 草原だった。


 そして、そこにとある1人の男が立っていた。


牛丼

「師匠……。」


コレル

「よぉ、牛丼。」


牛丼

「俺……。」


コレル

「ごめんな、お前に辛い思いさせちまった。」


コレル

「ただ、この空間もそう長くは持たない。」


コレル

「手短に話すから、俺の話を聞いてくれ。」


コレル

「その剣、ぜひお前が使ってくれ。」


コレル

「それと、【ボルケイノ】をよろしく頼む。お前なら、出来るだろ?」


コレル

「継承なんざ、しなくてもな。」


コレル

「【ボルケイノ】ってのは、代々受け継がれてきたんだ。」


コレル

「始祖の勇者、リエルの時からな。」


コレル

「だから、お前に【ボルケイノ】の未来を任せる。」


コレル

「あー、そうだ。【ボルケイノ】には4つの奥義があるんだが……」


コレル

「第肆奥義【乱れ打ち】しか現代まで受け継がれてきていない。」


コレル

「でも、どうやら第参奥義は突き技らしい。」


コレル

「あと、何か言うことなかったかな。」


コレル

「あー、そうだ。牛丼!」


コレル

「お前は、立派な勇者になるよ。」


コレル

「そして、俺の立っていたこの場所まで登ってこい。」


コレル

「『真之勇者』までな。」


コレル

「おーっと、もう時間か。」


コレル

「じゃあな、牛丼。あとは、任せたぜ。」


 コレルが話し続けていた間。


 牛丼は、何も声を出すことが出来なかった。


 言いたいことも、伝えたいことも何も喋れなかった。


 そして、偉大だった、愛していた、尊敬していた、師匠の姿が。


 その大きな背中が、深い霧の中へと消えていった。


 同時に、牛丼を包んでいた星も霧も何もかもが視界から消えた。


 直後に現れたのは、憎い存在。


 ラドリーとラドリーが召喚したと思われる魔物たちだった。

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