第3話 大学進学

 夕ぐれの高校の教室。

 チャイムがなり、女子生徒たちが談笑だんしょうしながら帰りのしたくをしていた。

 ミチエも帰りのしたくをしている。

 教室をみわたすと、女子生徒たちは数人のグループにわかれていた。昨日見たドラマの話だの、恋愛の話だの、楽しそうにしていた。

 ミチエにはついていけなさそうな話題ばかりだった。

 みんなはつらつとした美人に見える。

 私はブスだから仲間に入れてくれないんだろうな。マスクは取っちゃったし。

 ミチエは少し暗い気持ちになった。 

 小学校から中学校まで、ミチエには友達らしい友達はいなかった。

 ミチエはかばんからケータイを取り出し、家で撮影さつえいした自分のブスな顔写真を見ようとした。

 無性むしょうに自分がブスなのを確認したい。

 すると、横からカンナに腕を軽くたたかれた。

「ミチエちゃん。部活いこ。今週のマタギン読んだ?」

 ミチエはその一言だけでパッと笑顔になった。

「読んだ!笑い止まんなかったんだけど」

 ミチエは無意識のうちにケータイをかばんにもどした。

 ミチエとカンナは楽しそうに話をしながら、2人一緒に教室から出ていった。

 

 美術室びじゅつしつでは、美術部員びじゅつぶいん油絵あぶらえだの、水彩画すいさいがだの、おのおの絵を描いていた。みんな自分の世界に入りこんでいる。

 一応美術部員であったミチエは、机の上で絵を描いていた。

 となりの席では、カンナは分厚ぶあつい漫画を読んでいた。

 近くでは楽器の音が聞こえる。すぐとなり音楽室9で、吹奏楽部すいそうがくぶが演奏をしているのだ。

 ミチエは吹奏楽部すいそうがくぶ音色ねいろをききながら、カンナに、

「カンナちゃんとり読んでるの?」

「うん。図書室で一気借りしちゃった。古いけど結構面白いよ」

「私も読んでいい?」

「もちろん」

 カンナからとりを受けとり、ミチエはパラパラとページをめくった。

 鳥の火はさまざまな時代をさまざまな主人公たちが生き、苦悩くのうし、戦う、有名な古典漫画こてんまんがだ。小学生の頃、図書室で一度読んだことがあり、とても面白かった記憶がある。

 だが、高校生の今読むと見方みかたが変わった。

 ミチエはどうしても、さまざまな時代のヒロインに注目してしまう。

「鳥の火のヒロインはみんな美人だよね」

「え?」

「鳥の火に限ったことじゃないけど。ヒロインが美人じゃない漫画とかアニメとか、映画とかドラマもだけど、見たことないんだよね。ちょっと不思議だなって」

「まあヒロインはかわいい方がいいじゃん」

「ブスはヒロインになっちゃいけないよね」

「ごめん。今何て言った?」

「何でもない。ごめん」

「あ。ミチエちゃんボリーン描いたの?」

「うん。下手だよね」

「うまいよ!私絵下手だからうらやましい」

「そう?」

 ミチエはうれしそうに笑った。

 漫画を閉じて、カンナとおしゃべりに花をさかせた。鳥の火のヒロインのことなどすっかり忘れた。

 

 加尾梨かおなし第二高校だいにこうこうの体育館では、卒業式がおこなわれていた。

 卒業する最終学年の生徒たちがずらりと並んでいた。

「……で、あるからして、卒業後もチミたちは勉学べんがくはげむべきであり……」

 校長先生の話にはあきあきし、生徒たちはみんなあくびをしていた。

 その中にミチエもいた。

 ただ、カンナはいなかった。

 ミチエはこっそり、制服のポケットの中のスマホを取り出した。最近スマホがはやっているので、親にたのみこんで二つ折りのケータイから変えてもらったのだ。

 ミチエはスマホの画面にタッチし、メールボックスを開いた。そして自分の指が太くなったことに気づいた。受験勉強中ストレスで食べ過ぎたせいだ。20kg太った。

 メールボックスには、カンナとのやりとりが。

 

『ミチエちゃん加尾良大学かおよしだいがく文化学科ぶんかがっかに行くんだ!頭いい( ・∇・)私もミチエちゃんと加尾大かおだい行きたいけど偏差値足りない(T ^ T)』

『カンナちゃんなら大丈夫だよ!一緒に勉強して加尾大かおだい行こうo(`ω´ )o』

『ありがと(^o^)がんばる(^q^)』

 

『ミチエちゃんごめん…私落ちたっぽい』

『え?大丈夫?後期こうき受けるの?』

『うん。私立しりつはお金ないから(T_T)後期で考古学科こうこがっか受ける(´ω`)ホントはミチエちゃんと同じ文化学科ぶんかがっかに行きたかった(ノД`)しばらく勉強でメール返せないかも。ごめん』

『がんばってね(;o;)応援してる!』

 

加尾大かおだい後期受けてきた。勉強のしすぎでインフルになったっぽい_| ̄|○』

『おつかれ!お見舞みまいいに行くよ(´;Д;`)』

『うつしちゃやばいから来ない方がいいよ(´;Д;`)卒業式も出られないなあ。つらみ』

 

「カンナちゃん大丈夫かな」

 急にミチエのスマホがふるえた。

 新着のメールの通知。

 

加尾大かおだい受かったああああああああああ٩( 'ω' )و٩( 'ω' )و٩( 'ω' )و٩( 'ω' )و』

 

「やったああ!」

 ミチエは叫んで飛びはねた。

 周りの生徒が驚いてミチエを見た。校長先生もミチエを見た。

 ミチエはわれに返り、赤面せきめんしてうつむいた。

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