【短編】全然モテない俺が美女にキスされた瞬間彼女ができた!?

猫カレーฅ^•ω•^ฅ

幼馴染に恋人を

水音みおちゃんに、陽翔はるとの『悪いところ』を見つけてほしいの!」



幼馴染でもあり、大学の同級生でもある瀬内琴葉せうちことはが、その友達の竹森水音たけもりみおに両手を合わせて頼んでいた。


場所は、大学の食堂。

3人とも次の講義は休みなので、食堂でくつろいでいた。



「なにそれ?普通『良いところ』を見つけるんじゃないの?」



水音は、優雅にカフェオレのカップを片手に聞いた。

今日最後の授業は、心理学なので既に気は抜けてくつろいでる様子。



「聞いて!水音ちゃん!」



琴葉は真剣だった。

食堂の長テーブルで、水音のすぐ横に来て、なにやら力説していた。



「もうね、私の『友達の在庫』がないの!」


「なんだい、その物騒なワードは?」


「陽翔に友達の女の子を紹介したんだけど、次々フラれていくの!」


「ほほぉ」



ここで水音は少し話に興味を持ったみたいで、くいっとメガネの位置を正して琴葉の話を聞くことにした。






■幼馴染の二人

萩山陽翔はぎやまはると瀬内琴葉せうちことはは幼稚園からの幼馴染だった。


小学校、中学校は同じ学校だとしても、高校も同じ、あろうことか、大学まで同じ学校になった筋金入りの幼馴染。


二人は高校までそれぞれ部活に熱中しており、恋愛は二の次にしてきてしまった。

そして、晴れて大学合格。


二人とも見事、現役で志望校に合格したというわけだ。

入学から約半年、それなりにクラスの人間関係も固まったところで、気付いた。






陽翔『俺には彼女がいない!』

琴葉『私には彼氏がいない!』






そこで、二人は考えた。

それぞれ友達は少ない方じゃない。


それなのに、彼氏/彼女ができないのは、運が悪かっただけだと。

それならば、お互いの友達を相手に紹介し合えばいいのではないか、と。




しかし、陽翔→琴葉に男友達を紹介しても断られる。

逆に、琴葉→陽翔に女友達を紹介しても断られる。




これまでにそれぞれが紹介してきた人数は20人以上。

ここ2~3か月でこの人数なので、結構なペースだとご理解いただきたい。


大学では1クラス80人、それが2クラスあり、それぞれのバイト先の人間関係を含めれば相当数の人間がいた。


それなりに選別して、お互いが相手に合うであろう人物を紹介した結果だった。


それなのに全て轟沈。

紹介の席以上には駒を進めることができないでいた。






「陽翔はどこに出しても恥ずかしくない幼馴染よ!背も高いし、割とイケメンの方だと思うの!でも、どういう訳か、女ウケがよくないのよ!」


「琴葉……あんまりでかい声で言わないでもらえるかな?俺はそれなりに気にしてるんだから……」


「あ、ごめん」


「で、『友達の在庫』ってのは?」



水音が話を戻して聞いた。



「そう!私の友達から、陽翔に合いそうな人から紹介していったの!」


「ああ……そういうこと」



これだけで、水音は察したようだが、興奮した琴葉は話を続ける。



「色んなタイプの子を紹介したの!それでもダメだから、いよいよとっておきの4人も紹介したの!」


「四天王もダメだった、と」


「そう!それで!いよいよ、一番仲良くなった水音ちゃんしか残ってなくて!」


「私は魔王、と」


「でも、水音ちゃんでもダメだったら、陽翔の彼女は世界中にいないことになってしまう……」



『お前の世界は狭いな』と水音は思ったが、ツッコまずに泳がせた。



「だから、考えたの!水音ちゃんは、まず『見極め』をお願いしたいの!もちろん、陽翔のことが気に入ったら、付き合ってもいいよ?でも、まず、『見極め』を!」


「要するに、私が萩山くんと話をして、彼が女性ウケしない理由を見つけてほしい、と」


「そう!水音ちゃんは美人だから、陽翔には少しもったいないけど、背に腹は代えられなくて」


「それなら、一緒にいる時間が長い琴葉が見ればいいだろう?」


「だめなの。色々考えてみたけど、全く見つからないの!」


「ん?」


「陽翔は、背も高いし、割とイケメンだと思う。成績だって悪くないし、優しいと思うの!お金持ちじゃないけど、バイトもしているし、お金にも渋くない。モテない理由が全く思いつかないの!」


「はぁ……」


「琴葉だってそうなんだ。俺の友達からかっこいいやつとか紹介してみたけど、全滅だった……」



横から陽翔が入ってきた。



「萩山くんは、琴葉の何が原因だと思っているの?」


「顔立ちで言えば、かなり整っていると思うし、服のセンスもかなりいい。ただ、ちょっと髪が短いかなって。肩くらいまでしかないから、もう少し長い方が好かれるかもって……」


「そうね!その点は私も少し反省しているの。ずっと部活していたから髪は短い方が楽だと思っていたし。だからね、今は少しずつ伸ばしているの」


「あぁ……なるほどね。大体わかってきたよ」


「ほんと!?じゃあ、明日、合コンのていでお店を予約するから、そこに来て欲しいの!」


「えー、ちょっとめんどくさい……」


(ぱんっ)「お願い!助けると思って!こんなこと頼めるのはもう水音ちゃんだけなの!」



琴葉は、両手を勢いよく合わせて神社にでも参るかのようにお願いする。



「お店はどこ?」



心底めんどくさそうに水音が聞く。



「駅前のイタリアン・レストラン『ウチェンロブル』!」



たしか、イケメン店員が多くて、女性に人気のイタリアンだったか。

料理もおいしく、予約がいっぱいで3ヶ月先まで取れないのだとか。

水音は、地元の紹介雑誌で見たことを思い出した。



「よく予約が取れたなぁ」


「陽翔がそこでバイトしてるから、そのコネで!」


「ちょうどキャンセルになったって言ってたからおさえといた」


「なるほど、それで、支払いは?」


「もちろん、私と陽翔で払うから!」



水音は、長い髪のかき上げながらしばらく考えて答えた。



「わかった。何時にどこに行けばいい?」


「きゃー!ありがと!水音ちゃん!」


「恩に着ます」


「いや、ごちそうしてもらうしね。陽翔くんは、必ずハンカチかハンドタオルを持って来てね」


「え?はい……」


「私もおめかししていくから、オシャレしてきてくれたまえ」


「わかりました!」






■服選び

琴葉は、陽翔が最高にいい男に見えるように最高の服を選ぼうと思った。

陽翔は陽翔で、少し贅沢をしてでも良い印象の服を選び、現状を打破しようと考えていた。



「最高にかっこよく見えるように、新しい服で行こう!」


「そうだな、選んでくれるか?」


「もちろんよ!最高の服を選ぶわ!」


「さすが琴葉。頼りにしてるよ」



二人は明日の合コンに向けて新しい服を探しに出かけた。






■カット

カットも大切だと琴葉は考えていた。

清潔感は大事だ。


ただ、今日、もう会ってしまったので、そう印象は変わらないだろう。

ただ、『今日のためにカットした』という特別感が相手に伝わればいいと考えたのだ。



「髪もカットして行きましょう」


「念には念を入れてね」


「そう!」


「ツーブロックとかどうかな?爽やかに見えるし」


「確かに!高校では禁止されていたから、俺としても新鮮な感じ」



似合う、似合わないは多少あるだろうが、陽翔は割と整った顔立ちだったので嫌みじゃない感じでツーブロックも似合っていた。


『これだ!勝ったわ!』琴葉は思った。

彼女は何と勝負しているのか……






■話題選び

洋服を選び、カットも済ませたら、一緒に夕ご飯を食べながら明日の作戦会議をしていた。



「明日はどんな話をするの?」


「いや、考えてなかった」


「それじゃダメよ。水音ちゃんは美人だからモテるわ。普段から色々な男の人と話してるから、話題も豊富よ!」

 

「じゃあ、任せたらいいってこと?」


「それだと、話題が尽きたときに何を話せばいいのか困るわ」


「なるほど」


「だから、予めいくつか話題を準備しておいて、水音ちゃんが話す場合はよく聞いて、話題に困ったときは準備していたものから話すのよ」


「なるほど。じゃあ、どんな話題を準備すればいいかな?」


「わかったわ、一緒に考えましょう!」



食事が終わった後も、遅くまで作戦会議は続いた。






■決戦の場、イタリアン・レストラン「ウチェンロブル」

陽翔と琴葉の二人は、約束の場所、イタリアン・レストラン『ウチェンロブル』の前にきていた。



「全て準備したわ。オールグリーンよ!」


「ありがとう。少し自信が出てきたよ」



そう言うと、店の入り口でお互いの格好にスキがないかお互いにチェックして、待ち合わせの店に入った。



店は陽翔のバイト先。

事情も話していたので、店の中でも広めの席で眺めのいい席が準備されていた。



「いらっしゃいませ、お、陽翔!来たな!」



レストランのオーナーも協力ムードだ。



「はい!今日はよろしくお願いします!」


「今日こそ彼女ができたらいいな」


「はい!」



水音は先に着いていて、テーブル席に一人で座っていた。


ちょっとしたパーティードレスに長い髪。

このまま誰かの結婚式に参加することもできそうな装備。


その上、メガネは彼女を一層知的に見せた。

座っているだけで絵になる美人。

それが、水音。


ただ座っているだけなのに、二人は水音に目を奪われた。



「すごい、きれいだ」


「そうよね!陽翔には勿体無いかも」


「それを言うなって!」


「えへへ」



一方、琴葉はかわいい系。

いかにも大学生らしいオシャレだが、嫌味がない感じだった。

きっと多くの男子大学生は、彼女の横を歩きたいと一度は思ったことだろう。


陽翔も大学生のオシャレ着としては最高クラスだった。

背は高いが、細身の陽翔だったので、服でその細さをカバーして頼りがいがあるように見える事まで考慮されている。

カジュアルながらもネクタイを締めているのでキリッとした印象だった。



「お待たせしました」


「いいえ、私もちょうどさっききたところだ」



水音が余裕で答える。






テーブルは、6人は座れそうな大きさであるが、あえて4人席。

上座に水音を座らせ、下座に陽翔が座り、その横に琴葉が座った。



「今日は来てくれてありがとう。よろしく」



陽翔が男らしく挨拶をした。

それをスタートに今日の合コン(?)がスタートした。


とりあえず、お互いある程度知ってはいるものの、会の趣旨的に自己紹介から始まった。



「改めて、萩山陽翔です。高校時代はバスケ部に所属していました。好きな音楽は……」



噂にたがわない美味しい料理と、運んでくるイケメンが素晴らしい店だと水音は感じていた。

会も1時間を過ぎたら、お互いだいぶ慣れてくる。


元々、水音と琴葉は仲がよく、陽翔と琴葉はゴリゴリの幼馴染。

水音と陽翔も何度か顔を合わせていたし、他愛の無い会話程度はしていた。



「二人は、部活少年、部活少女だったのだろう?よくうちの大学に現役で受かったね」


「私は文系が得意で、陽翔は理系科目が得意だから、それぞれの得意な所を教えあったの!」


「それくらいじゃ合格ラインに到達しないだろう?」


「そう、だから、お互い引退した後は毎日お互いの家で勉強しまくったの!」


「あの時は、人生で一番勉強した……」


「それはすごいね」



水音は口元だけ笑った。



「陽翔くんの服、かっこいいね。センスがいい」


「はいはいはーい!私が選びました!」


「琴葉は服のセンスがピカイチなんです!」


「ん?その琴葉の服も新しいみたいだけど?」


「服を選んでくれたお礼に俺がプレゼントしたんです」


「いいって言ったのに……」



『話題も途切れずに楽しい雰囲気を保てた』陽翔はそう考えていた。


『陽翔と水音ちゃんも笑顔が絶えなかった。これはいい雰囲気!?』琴葉は考えていた。






■ジャッジメント


「エンモタケナワ(?)なんだけど、それでその……水音ちゃん……陽翔なんだけど……」



少しもじもじしながら、不安そうに琴葉が聞いた。



「うん、完璧にわかったよ」


「ほんと!?」


「解決策まで完璧だよ」


「さすが水音ちゃん!」


「あと、陽翔くんのことはとても気に入ったよ。よかったら、私の隣に座ってくれないかい?」


「あ、はい。喜んで」



陽翔が席を立ち、水音の隣に移動する。



「まあ!今までにない好感触!」



琴葉が両掌を合わせて、『いただきますのポーズ』で喜ぶ。

陽翔が水音の隣に座ると、水音は陽翔のネクタイをグイっと引っ張り、水音の方を向かせた。




次の瞬間、水音の唇は、陽翔の唇と重なっていた。




5秒、10秒……その後、静かに二人の唇は離れた。




「いやー、かっこいい彼氏ができて嬉しいよ。みんなに自慢できそうだ」



水音は髪をかき上げながら嬉しそうに言った。


呆気に取られている琴葉。

完全に固まってしまっている。



「うーん、そうだなぁ。なんなら同棲してもいいなぁ。24時間一緒に過ごしたいくらいだ」




琴葉の手がワナワナと震えたと思ったら、『ごめんなさいっ』と一言残して店の裏の方にかけて行ってしまった。


ここで、水音が髪をかき上げながら陽翔に言った。



「陽翔くん、ハンカチは持ってきてくれたかな?」


「え?は、はい……」



店の裏の方と水音を交互に見ながら落ち着きがない陽翔。



「そのハンカチを持って、琴葉のところに行って『俺が本当に付き合いたいのはお前だった』とかなんとか、殺し文句をぶちこんできたまえ」


「え!?」


「二人が戻ってくるまで、私はここでゆっくりワインを楽しんでいるから」


「すっ、すいません!」



陽翔が店の裏の方に走っていった。






随分時間が経って、陽翔と琴葉の二人がテーブルに戻ってきた。

琴葉は、陽翔のハンカチを持って、止まらない涙と鼻からも出てくる『乙女汁』を拭いていた。


陽翔は、琴葉の隣に座り、肩を抱いて慰めていた。


水音の前のワインはボトルが1本がほとんど空になっていた。






「もう、答えは分かったと思うけど、きみたちはお互いがお互いを邪魔していた。だから誰もOKしなかったのだろう」



ワイン1本程度では酔っていることも感じさせないくらい、落ち着いた雰囲気で水音が続けた。



「一番仲が良くて、一番長い時間一緒にいて、相性がいい二人を見て、誰がそこに入り込もうと思うか……」



陽翔は、ここにきてやっとハッとしたようだった。



「こっちからしたら、常に琴葉ことはと比べられながら付き合うとか……なんの罰ゲームか」


水音は空になってしまったワイングラスを光に当て、少し名残惜しそうに続けた。



「そして、二人になにか欠点があればいいのだけれど、それぞれイケメンとイケ女だ。そこに割って入っていく自信家は中々いないんじゃないかな?」



弄んでいたワイングラスをテーブルの置くと、水音は陽翔の方を見た。



「で?陽翔くんは私と付き合ってくれるのかな?」



水音が意地悪く聞く。



「すいません……俺は好きな人がもっと身近にいました……近すぎて今まで全く気付きませんでした」


「そうかい。じゃあ、フラれ女は潔くスカートの裾でも持って退散するわね。」



水音はすぐに立ち上がると、スクラッチ・バッグを持って店の入り口に向かった。



「ごめんね、ありがとう。水音ちゃん……(ぐずっ)」



琴葉がなんとか声をかける。




水音は店を出ると、外はすっかり暗くなっていた。

軽く伸びをしながら店の看板を振り返って見る。



「『uccello bluウチェンロブル(青い鳥)』って誰がこの店選んだのかしら?偶然かしらね?」

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