第3話  入学式

「ねぇ母さんその服で良いの?似合ってるけど」


「これで良いのよ!これはゆう君の最初の一歩のお洋服なんだから…今日の為にカメラも買ったし準備はOKよ♪」


「そっか、俺のじゃなくて俺達のでしょ?でもその服それなりに疲れて来たから今度買いに行こうか?」


母さんが着てるくたびれたスーツ…

俺が最初のバイト代で買ったやつだ

折り目も無くボタンも付け直し、アイロン掛けてるのに折り目が見えないとっても疲れた仕事へ行くための服


始めて稼いだ給料は3万円だった

その茶封筒を握りしめ母さんを連れ出し服を選んだ

これは?あれは?と、悩みながら…


試着室で声を殺して涙したのを知ってる

カーテン越しに


俺はどうすれば解らなく

だって聞こえちゃうから

拳を握りしめ歯を食いしばり


笑顔を向ける為に‥‥‥『似合ってる』の一言を——


着替えが終わりカーテンが開く

メイクはボロボロでその瞳からは雨粒の水面


そして———俺の大好きな母の笑顔だった


改めて大好きなこの笑顔を守ると誓った日になった




「これはお母さんの大事な一張羅なのよ?いわゆる勝負服ね!だから今日はこれで良いのよ…これはお母さんの宝物なのよ‥‥‥私の—」


思い出したのだろうか?その時の想いを…


「そっか…今度その服メンテ出来る所探そうか?」


思い出って心?それとも想い?

それともその時のカタチ‥‥‥‥‥?







さて行ってきます

つっても徒歩10分だからすぐ着いちゃうんだけどね


この学校は知らなかったけど進学校?らしい

俺はバイトの都合で家から近い学校選んだだけだけど


母さんがいつも通り腕を絡めての


『おい、あのグラビアアイドル見た事あるか?』

『すごい!あのおねーさんめっちゃ綺麗!』

『ってか腕組んでるトコ見るとお姉さんか?』

『ってかあの人も凄く凄くすっごい‥‥‥』

『あの二人スペック高過ぎねーか?』

『何?あのイケメン‥‥‥‥‥』




「じゃゆう君写真は任せてね♪」


「まぁ母さんが喜んでくれるなら頑張るよ」

じゃ会場で‥‥‥


さて教室か?

ん~…どっかに案内在ったか?

まずそれ探すか


俺は1年1組だった

やはり出席番号は1番

まぁそれはどーでもいいか、教室に入り一番手前の席に就く


鞄から覚えた方が良いであろうプログラミングの本を取り出しそれを読む


会社に行っても会話に入れない事在るから覚えたいんだよね


本に夢中になってたら名前を呼ばれた

「蒼井君、新入生の挨拶をやって貰うからね!」


ん?今なんと


本から顔を上げればすでに教師らしき人が教壇に立っていた

その人は慣れないであろういかにも新品のスーツを着て肩に掛かる位の黒髪ボブカットの眼鏡をかけた作った感満載の小柄の女性だった


多分状況が追い付かなかったんだろう俺の顔は(??)になってるだろう…


「えっとね蒼井君。新入生代表の挨拶って入試で主席の子がする決まりみたいなのね、それでえっと君がそうなの」

と、恐る恐る伝えて来た


主席?俺が?ここ進学校?だよね?


「それでね。私担任受けるの初めてなの…ってゆーか教師1年目なのね…だから‥‥‥あの…その…ごめんなさい!!」

すげー勢いで謝られたけど

まだプチパニック中だよ!


ん~

1年目って…4月だよな?…で担任…えっ!?

って事は事情を知ったのは1週間前?で、偶々俺が居ちゃった??

恐らくそんな感じだろう‥‥‥


おーけー状況は理解出来た…が


「先生、ちなみにその挨拶文は有るんですよね?」


目を反らしやがったコイツ!?


「ねぇ先生…どんだけ無茶振りしてるのか解ってますよね?」

「はい…」

「1週間有ったら連絡くらい出来ましたよね?」

「‥‥‥はい」

「まさかとは思いますけど社会人歴1週間じゃないですよね?」

「‥‥‥」


マジかよ!?

こめかみを押さえながら久々に深い溜息がでた…

「ねぇ先生?」


ビクッっと肩が跳ね涙目で…っておい!


「念の為聞きますが、出来る女キャラ作って余裕ぶっこいてなんとかなるとか思って過ごしたけど、2日前くらいになってどうにもならなくなって慌てて如何にかしようと思って行動しようとしたけれども誰に何を聞いて良いか解らなく右往左往し、結局何も解決できず。今朝にになって微かな期待を込めて丸投げしたなんて事はないですよね?」


「!?—何で解かるの!!すごい!まるで見てたみたい」

ってスゲーキラキラな目で…

反省しろよお前!


解かるんだよ!

出来ない人の典型なんだよ!!


舐められない様に気合入れて自分で地雷踏んだのね


「あー状況は理解出来ました。先生も色々大変だったと思います。なので挨拶の方はなんとかしますので、そうですね…全ての予定が終わったら1時間ほどお時間頂けませんか?お話しましょう。ちなみに拒否権は有りません。いいですね」


ってかこの学校どーなってんの?

「はぃ‥‥‥‥‥」


ふむ…新入生代表の挨拶考えるのか‥‥‥これから!?

しかしホントマジすげ~無茶振りだよね!!


‥‥‥‥‥

‥‥‥


何とかした…何とかなったが正解か

母さんがニッコニコだったから満足

あちこちで写真を撮り、俺は少し用事があると伝え、先に帰って貰ったけど一緒に帰りたかったよ…



「ねぇ先生、報告・連絡・相談のほうれんそうって聞いたことありません?ちゃんと報告するこで相手は納得するんですよ!ちゃんと連絡することでお互いの意思確認が出来るんです、相談はそのまんまですが‥‥‥って聞いてます?」


今俺は教壇に立っている…そして目の前の机に目を落とし座ってるスーツを着た女性


「失敗は誰にでも有る事から強くは責めません、失敗から学ぶ事の方が多いのは確かに有ります、ですが先ほども言ったように伝える事は伝える。そして無理なら無理と言えないと…は、無理ですね…無理が言えないなら周りに相談する!これ社会人として基本ですよ!」


「蒼井君‥‥‥」

「はい?」

「お兄ちゃんって呼んで良い?」

「なんで!?急展開過ぎる?」

「あのね…私一人っ子で‥‥‥」


なんか語り始めたこの人は

ぶっちゃけ只の寂しがり屋でしかも親の勧めで教師を目指したと、でだ、いざ教師になったらはっきり自分の意思を伝えられない性格を今更ながら自覚したらしい…それで見た目だけでも頑張ってみたけど自分で色んなプレッシャーを感じ始め、それで思いっ切りの失敗。でもって無茶振りにも関わらずそれに対応し本人を救ったと?そして今、堂々と自分に説教してる俺に憧れたと‥‥


いや知らんがな!



「ねぇお兄ちゃん今度相談に乗って貰っていい?」


「‥‥‥ねぇ先生?…ポンコツ過ぎない?」


ポンコツは母さんだけでお腹いっぱいなの!







「ねぇ裕翔君。入学式どうだった?」

「あー原稿も無いのに新入生代表の挨拶させられました。そして担任を説教したらお兄ちゃんと呼ばれました」



え?

なにそれ!?

































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