仲間集め

第一話 勇者と元・聖騎士長


「わかったわよ。話は聞くから一度この手枷取ってくれない?」


 いくら夢といえどこんなに頭を下げられて断るほど冷酷でもない。



 国王の指示で拘束を解いてもらった。それから場所を移動して、さっきの玉座のような場所から一人暮らしの大学生が住むような大きさの一室にきた。数人しか入れないような小さな部屋。


「狭くてすまないね。それで君は召喚されたんでいいんじゃな?」


「た、多分?」


 まあ設定としてはそうじゃないと合わないしね。


「リコちゃんだったかな? 勇者の件引き受けてくれるんじゃな?」


「うーん、よくわかんないけど、私にしかできないなら仕方ないでしょ?」


 正直乗り気じゃない。


 転生ならまだしも、そのままこの世界に来てもできることないし。ていうか、夢なんだから、この世界起きる前に堪能したいんだけど⋯⋯。


「ありがとう。早速だが、勇者と言われれば何をするかわかるかい?」


「そりゃあもう、魔王討伐でしょ?」


「そう、その通りじゃ。魔王を倒して欲しいんじゃ」


 眉を顰めて切羽詰まっているのがひしひしと伝わった。


「私、そんな力ないけど?」


「それはもうつけるんじゃよ」


 ホッホとサンタのように笑って、手を叩いた。すると、部屋のドアが開いた。


 そこから私より身長が10センチくらい高い175くらいの男性がきた。歳は同い年くらいだろうか。赤髪で軽装にすらっとした体格の男性だ。


「陛下、この方が例の?」


「そうじゃ、色々教えてやってくれ」


 コソコソと二人が話をして、私に目を向けた。


「よろしく。あなたのパーティの一員のアレックス=ボルディアだ。アレクとでも気軽に呼んで」


 アレクは紳士的に手を差し伸べてきた。私はその手を取る。


 私より遥かに大きな男性の手だ。イケメンだからちょっと顔を見れない。


「よ、よろしくお願いします」


 すぐに手を離した。噛んで自分がどういう人間か思い出した。


 友達がいないのに男子と話すわけないし、こんな陽キャを目の前にしたらそりゃキョドるよ。


「それでリコちゃん。早速じゃが、予言の仲間をあと二人道中で探してきて欲しいんじゃよ。他にももう一人見つけて、この街いるんじゃが、少々気が立っていてね。今は合わせられる状況じゃないんじゃ。だから明日改めて顔を見せるように言おう」


 気まずそうに話す国王に何か裏があると思わざるを得ない。


 私の推測だけど、ろくな奴じゃない。


「そういうことだからごめんね」


 まあアレクがどうにかしてくれるか。今会ったばかりの男なのになぜかアレクは信用できた。その甘いマスクが私のガードを緩めているのか! とか思った。


「早速じゃが、庭で手合わせでもしてみたらどうじゃ?」


「それはいい!」

 

 え?


 1


「好きなものを選んでくれ、本物だと怪我するから全部木製だけどね」


 そういって連れてこられたのは木製のものしかない武器庫だ。木製といえど、見た目がちゃっちいわけではないし、普通に当たったら怪我するタイプのやつだ。


 槍、鎌、片手剣、両手剣、大剣、太刀、中には日本刀のようなものもあって、数多に揃っている。


 飽くまで夢だ。ちょっと好きな格好したい。


「これで行きます」


 刀を両手に携えた。


「あ、あーいいと思う」


 当然何それみたいに思われたはずだ。でも、私はONE ◯IECEの◯ロが好きだからこれでいく。口に咥えるのは正直汚いし、あまり効率がいいとは思えないから、妥協して二刀流だ。


「じゃあ僕はこれで」


 アレクは迷わず両手剣を手に取った。異世界っぽいっちゃ異世界っぽい。


「じゃあ外、出ようか」


 2


「軽く手合わせするだけだから緊張しないで。話しながら楽しく交えようじゃないか」


「は、はい!」


 笑顔で余裕を見せるアレクを前に私はガチガチになってしまった。刀なんて握ったことないし、全然上手くできる気がしない。◯ロを思い浮かべながらそれっぽく構える。


「じゃあいくよ!」

 アレクがそう言った瞬間、足元の空気がアレクに集まっていく感覚があった。ビュッと音をたて、風がアレクを後押しする。瞬きをすればもう目前にアレクがいた。

「ちょっと待って!」


〈マニュアルモードONにしますか?〉

 時間が止まった。それが一番正しい表現だと思う。辺りを見渡しても何も動かないし、私も動けない。視界は夜に包まれたように暗がかっていた。ただ前にその文字が映し出されて、脳内に機械音が流れた。


 マニュアルってなんだろう。説明書? なんの説明書? 今この状況なら戦い方とか? 今さらそんなの聞いても意味ないよね。私の顳顬から数センチの位置にアレクの剣は迫っていて。どうしようもない。でも、


「はい」


 視界は一瞬で明るくなった。直感で動くタイミングがわかった。顳顬に近い剣。そのままガードしても遅い。スライドさせるように刀で流すイメージ。脳が誰かの手で改変されたみたいに取るべき最善策がわかった。これがマニュアルモードなのだろう。確かに頭に説明書を組み込まれたような感覚もあった。


「お! やるね」


 うまく捌くとアレクがそう言葉を漏らした。私は過度に息を漏らしている。アレクは楽しそうに私に剣を振るい続けた。でも私にはそんな余裕はない。頭でわかっていても体を動かしているのは私で気を散らしたら、動きが間に合わなくて一発くらってしまう。


「僕は昨日まで聖騎士長だったんだ」


 アレクは悠々と話し始めた。


「へ、へー」


「恩寵を授かっているから僕は強いんだ。その僕の剣を受けても捌いている君はやっぱり勇者なんだ」


 最後の言葉と同時に振り落とされた剣には重さが乗っかっていて、私は数メートル後ろへ飛ばされた。受け身のマニュアルも搭載されていたようでその通りに上手く衝撃を逃した。しかし前を見ると既に振りかぶっているアレク。二本の刀で衝撃を受け流す。鬼◯の刃の水の◯吸みたいなイメージ。


 楽しい。楽しいけど、忙しすぎる。痛いのは嫌だ。だからちゃんと体を言う通り動かさなければいけない。


「でも急に勇者パーティの一人だとか言われて、こんなことになって、今急に冒険者やらされることになったんだ。わかる? この気持ち」


 今度は愚痴のようなものを言ってきた。


「いや、まあ大変だ、ね!」


 よくこんな喋りながら剣振れるもんだ。


「今、までぇ積み重ねてきたものを! 一瞬でババァの言葉一つで剥がされた僕の気持ち!」


 え、やば、泣き出した。


 目の前で声が上ずったと思うと、アレクは顔を崩して、暴走していた。


「そ、そうだね、辛かったね」


 それでも受け切ることができるマニュアルはすごい。これが勇者の力ってことなのだろうか。


「そうなんだよ! 俺だっていっぱい練習したさ! 恩寵持ってるからとか、努力してねーくせにとか色々言われて、それでも頑張ってここまでのし上がってきたのによぉ!」


言いたいことがわからなくもない。今の私にはその言葉を言ってもいいのだけど、アレクの必死な感情を目の当たりにすると同情したくなる。努力をしてきた結果がこれだから、そんなことを言われたらそりゃあ辛いに決まっている。


 ていうかさっきから攻撃が破れかぶれだし、今までの余裕はどこに行ったのよ。


「うわぁあああああ」


 アレクの剣が地面に突き刺さる。地面はひび割れ、木剣はパキッと折れてしまった。


「⋯⋯終わりにしよう。悪い取り乱した」


 え、二重人格? こわ、怖いんだけど。


 さっきまでとはまるで別人のような表情だ。落ち着いて冷静な最初に見たアレクだ。


「とりあえずここで二、三週間組み合ってもらって、そしたら仲間探しと魔王殺し! あと王女の奪還と、女神の封印だな」


「え、いやなんかやること増えてない?」


 私の言葉にアレクは反応をしない。テクテクと王宮の方へ戻っていく。

 え、無視ですか。


 今はまだ気が付かなかった。アレクとこれから仲間になる人がどんな人物なのか。勇者? 英雄? そんなもの簡単になれたら苦労しない。


 この物語は女が勇者になったお話です。※仲間はポンコツです。

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