陰キャオタクなボッチ女の子でも勇者になれます! なお仲間はポンコツの模様。

夜空 青月

プロローグ

「勇者、この世界を救ってくれ」


 国王が私に頭を下げてきた。こんなに髭を生やして、威厳が滲み出ているおじさんが私に頭を下げながらこんなことを言ってきた。なんでこんなことになっているかは数時間前に遡る――。 いや、遡っても意味わからないんだけども⋯⋯。


 私はどこにでもいる女子高生。いわゆるJ Kってやつね。と言っても華のとかがつくわけではない。いわゆる陰キャかつボッチ。クラスでは言葉を一切発さない。コミュニケーションは首の振り方オンリー。はいまたはいいえ。でも喋れないわけじゃない。昔いじめられていたからクラスメイトの癪に障らないようになるべく端的に会話を終わらせるにはこれがベストだと思っている。いや、会話をしていないんだけども。


 こうして高校生活を誰とも接しないで過ごしていたら自問自答が多くなって心の声が激しくなり、今に至る。とは言っても人を笑わせることだってできる。自虐ネタと言う蜜を使えば多分大爆笑をかっさらえるはずだ。よく言うでしょ? 人の不幸は蜜の味って。自虐ネタも不幸とさほど変わらない。だから蜜なのだ。


 こんなに人と関わらないと学校にいても当然虚しくなるわけで、時々ズル休みをする。三週間に一回くらいだ。行っているだけ偉いと思ってほしい。私は元々勉強はできる方だし、休んでも教科書を見れば内容理解できるくらいには頭が働く。一応進学校でついていけているくらいだから大学も難なくそこそこのところはいけるだろうと思っている。


 でもやっぱり一人でいてもつまらないし、暇があれば娯楽を欲するのは当然で、そうなるとゲーム、ラノベ、アニメ、漫画、にハマりまくるわけだ。


 学校に行かなければ自宅警備員完全体の完成だ。一応腐ってもJKだからニートと一緒にしてほしくはない。魔法と剣の世界に憧れたり、中世の世界に憧れている時点でもう終わりなのかも知れないけど⋯⋯。周りにこんなことで話が盛り上がる人なんていない。JKなら尚更だ。


「あーおしまいだ」


 game over テレビの画面上にそんな文字が浮かび上がった。

 私の人生も崖っぷちまで来ている。一歩間違えばこの画面と同じ状況だ。リセットできればもっと周りに上手く溶け込んだのに⋯⋯。そんなこと思ってもやり直せないし、やり直せたとしても、多分何も変わらない。そんな気がする。自分の力でどうにかなるほどできた人間なんてそうそういないし、私は我慢強い方ではないから、結局楽な方へ逃げてしまうんだろう。要するに今のままギリギリ落ちないように耐えるしかないってこと。


「ご飯できたわよー」


 無言で下の階のリビングへ向かった。冴えない顔をした母親。40歳。周りの親と比べたら少し若いのかも知れないが、年齢よりも元の顔がアレだから意味がない。私の方がまだ可愛い。でも本当に少しだ。中の中の中の顔。人間は自分を過大評価するというけど、私は身の程を知っている。私の顔はその上で中なの。

 料理をしてくれるのは嬉しいけど、めっちゃ美味しいとか思ったこともない。私の性格がこんなんだからなのかも知れない。いや、別に暗いわけではなくて、こういう心の声を周りに見せられないからってことだ。


「ご馳走様」


 無言でご飯を食べ終わって、外へ出た。


 晩夏のこの頃、外に出るには薄着すぎた。ポケットには500円玉だけ入っている。


 お酒でも飲んでみようかな。


 周りで飲んでる人はそこそこいる⋯⋯ように聞こえる。挑戦してみようか。多分いけるはずだ。身分証明だって今はワンタッチだ。見せろなんて言われない。


「いらっしゃいませー」


 家の近くのコンビニ。いつもと違う声の人だ。若い声。

 新人かな。


 慣れている風を装って、アルコール飲料の場所へ行った。


 ほろ酔い、檸檬堂、梅酒、Asahi。何が違うんだろう。

 とりあえずいけそうなほろ酔いを取った。前を見ずにレジへ行く。


 大丈夫買える。


「年齢確認お願いします」


 画面上に出たはいを押した。


「ありがとうござ⋯⋯あれ? 大出さんじゃん」


「へ?」


 思わず前を向いたら、綺麗な同い年くらいの女性がいた。当然店員の服装をしている。私の名前を知っている。バレた。


「なんか静かな子だと思ってたけど、こういうことしちゃうんだ」


「あ、いや、あの」


 その子は揶揄うように私に言ってきた。


「警察に突き出したりしないから安心して」


 優しく微笑んでくれた。なんで関わりが何もない私にそんな優しくしてくれるんだろう。


「あ、ありが、とう」


 言えた。


 ただそれだけが嬉しかった。誰なんだろう。名前すら知らないその子。多分同じ高校の人なんだろう。


「大出さんってファンタジー好き?」


 え、なんで急に?


「あ、いや、その」


 そんなの今日知り合った人に打ち明けられるわけない。うちなる自分を出すのなんて恥ずかしくて死んでしまう。


「バイバイ」


 そして、彼の優しくて不適な笑みで私は気を失った――。


 1


「予言通りだ! 転生者が来たぞ!」


 ここはどこなんだろう。赤い装束に身を纏った兵士が数人。聖騎士のような人たちだ。


 格好いい。


 でもなぜか私を囲うようにして立っている。地面はレンガ造りになっていて、景色も見たことがない。中世ヨーロッパのような憧れていた風景だ。もしかして、転生? なんちゃって。夢だ。どこからが夢なのかわからないけど、妥当に考えるならgame over のところだろう。そうじゃなければ区切れ目がおかしい。部屋でゲームをしている時に寝てしまったのか。


 夢でもこんな望んでいた世界を冒険できるなら当然嬉しい。


「あの、そこ通してもらえませんか?」


 夢とわかって仕舞えば普通に会話もできる。


 目の前の兵士の間を指差して、退くように言った。


「捉えよ!」


「え?」


 背中にどつかれたような強い衝撃があって、私はそのまま倒れた。


「ちょっと何す――」


 手を掴まれ後ろへ回される。か弱い私を男たちが数人がかりで押さえ込みにかかる。一人でどうにかなる私をこんないじめみたいに⋯⋯。


「離して! ねえやめてってば! ちょっと! どこ触ってんのよ! あー! やめろーーー!」


 2


 そんなこんなでなされるがままに国王の元に連れてこられ、最初に言われたことが、


「勇者、魔王を倒してくれないか?」


 これだ。


「何を勘違いしてんのよ。私は勇者じゃないの。リコ! 大出リコ! 真達高校二年大出リコ! 人違いだから早く返して。目が覚めたらこの世界堪能できないでしょ?」


 明晰夢なんて滅多にない。楽しんでおかなきゃ損だ。それにしても勇者という癖に私の手を後ろで縛って跪かせるってどんな設定よ。


「とは言っても、予言がこうも的中して、外れているとは考えづらいんじゃよ」


「こんな華奢な女子が勇者なはずないでしょ?」


「⋯⋯確かに女性勇者は聞いたことがないが、予言はほぼ当たるんじゃよ」

「いやよ! 私死にたくないわ!」


 王宮内がその言葉で静まり返る。と思うと、国王が高座の椅子から降りて、同じ目線に正座になった。

「勇者、この世界を救ってくれ」


 平民に土下座したわ、この国王。


 それで、今に至る。

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