第15話 一緒に帰る理由


「湊川くん、ごめんなさい」


 放課後、陽翔は久本和ひさもとのどかに謝罪をされていた。


「急に謝れても。どうしたんだ?」

「ホーリーウィッチの円盤を壊してしまったの。ごめんなさい、弁償します」


 和の必死に謝る姿を見て、陽翔は直ぐに許す気になった。

 布教用の円盤は誰かに見てもらうものなので、何かの拍子に壊れることくらい陽翔の想定の範囲内だ。

 それに、布教用はまだ沢山残っている。


「そんなに謝らないでくれ。布教用の円盤なら、あと十枚は家にあるから問題ない。仮に布教用がなくなっても、保存用を布教用に回せば良いだけだ。弁償もいらないから、もう一度貸すよ」

「え? もう一度? …… 湊川くん、ごめんなさい。私に貸してくれないでいいから。本当にごめんなさい」


 陽翔が呼び止める間もなく、和は帰ってしまった。


(もしかして、ホーリーウィッチが嫌いになったのか?)


 和と一緒にホーリーウィッチの円盤を貸した 河田勇斗こうだゆうと相津一志あいづひとしが帰ろうとするのが陽翔の目に入った。


「河田、相津、ホーリーウィッチは見てくれたか?」


 陽翔は二人に声を掛けたが、河田と相津は陽翔と目も合わせずにその場を去ってしまう。

 一瞬戸惑ったが、体育の時の相津の様子を思い出した。


(やっぱり俺を避けているのか)


 避けられていることが分かって、陽翔が呆然としていると。


「ざまぁ、マジウケる」


 陽翔のことを嘲笑する声が聞こえた。

 声の先を見ると、嬉しそうに笑って帰る奴がいる。


(そういうことか。嫌な奴だよ)


「陽翔、一緒に帰ろうよ」


 陽翔が席に戻ると、元基が声を掛けてきた。


「あれ? 漫研は?」

「今日はサボった。だから、一緒に帰ろう」

「…… ああ」


 元基からやや強引に誘われて、陽翔は一緒に帰ることになった。



 元基は電車通学なので陽翔と一緒に帰るのは不死崎駅までだ。

 不死崎駅を経由すると陽翔の自宅マンションまで遠回りになるので、二人は今まで一緒に帰ったことがない。

 だから、一緒に帰る理由が何かあるはずで、陽翔はその理由をなんとなく分かっていた。


「河田たちのことか? どうせ吉川のせいだろ」


 帰る前に陽翔を嘲笑したのは吉川薫海よしかわくるみだった。

 陽翔は気にしないようにするつもりだったが、流石に苛立つ。


「周りに無関心な陽翔でもあれは気づくよね。陽翔はかなり吉川薫海に嫌われているみたいだよ」

「吉川に嫌われていても別にどうでもいい。それと、周りに無関心は余計だ。俺だって、ほんの少しは気にしてる」

「それは気にしてないって言ってるのと同じだよ。そんな陽翔に嫌なことを教えてあげよう。これからもっと面倒なことになるかもしれない」

「面倒なこと?」


 面倒なことと聞いて、陽翔は顔をしかめた。


「僕に嫌そうな顔をしないでくれ。面倒なことって言うのは、吉川薫海が周りに陽翔は調子に乗りすぎだって話をして、色々と煽ってるみたいなんだ」

「は? なんだよそれ。あー、だからか」


 陽翔は体育での出来事を思い出した。


海城うみしろに突き飛ばされたのもそれが原因か」

「間違いなくそうだね。吉川と海城って、一応仲が良いみたいだし」

「あー、めんどくさいな。ぼっちの俺をいじめてどうすんだよ。楽しいか、それ?」

「陽翔だけなら良いんだけど、ちょっと問題があってね」

「いや、俺も駄目だろ。まぁ良いけど、問題って?」

「河田と相津も男子からの当たりが強くなってるみたいで、久本さんも女子からの当たりが強くなってるみたいなんだ」

「…… だろうな、俺のせいだよ。河田たちは俺のとばっちりだ」

「それは違う!」


 大きな声に陽翔は驚く。

 元基の顔を見ると、何時に無く真剣な顔をしていた。


「悪いのは吉川薫海だ。陽翔が自分で悪いって言うのは無しだよ」


 陽翔はなんだか悪い気持ちになった。


「そうだな。ごめん」

「分かってくれたなら良いよ。正直、僕もこういうことは面倒臭いし、嫌いだ」

「俺も同じだよ」

「だから、外から日和見しているのは止めようと思う」

「何かする気なのか?」

「嫌なことは早く終わって欲しいから、僕は動くよ。河田と相津のことは僕が男子たちに根回しする。これ以上、男子から河田と相津にちょっかいを掛けられることはないと思う」

「…… じゃあ、久本は?」

「分からない。けど、白雪さんたちが頑張ってるみたいだよ」

「絆星姫が?」

「吉川薫海から周りの女子たちを離れさせようとしているみたいだ」

「そんなことして大丈夫なのか? 危ない気がするんだけど」

「僕にも分からないかな。女子はグループの力関係を重視するから難しいんだよね。僕も仲の良い女子たちと話をしてみるけど、多分役に立てないと思う。今回のことは吉川薫海が止めない限り、終わらないよ」

「俺が謝ってもか?」

「うん。陽翔が謝っても無駄だと思う。もしかしたら、逆にエスカレートするかもしれない。陽翔は大人しくしておくべきだね。河田たちと話すのも控えた方が良いと思う」

「そうか、分かった」


 得意に話す元基を見て、陽翔は少し羨ましいと思った。羨ましいが、陽翔に友だちが沢山いたとしても、元基のようにきっと行動することはできない。


(元基は凄い奴だ)


「陽翔、ここで良いよ。遠回りさせてごめん。でも、陽翔と話をするべきだと思って」

「聞けて良かったよ」

「陽翔、明日から頑張ってね。陽翔に何かあったら、最小限の力を貸すからさ」

「だから、最大限貸せよ」

「ハッハハハハ、考えておく。またね」


 























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