第二章 美少女戦士は人の闇を知る

第13話 体育中の怪我


 湊川陽翔みながわはるとは登校すると、直ぐにスマートフォンを操作し始めた。

 通話メッセージアプリRINEを開いて、早乙女瑠麒さおとめるきに連絡する。


『リリカちゃんは無事に帰れたか?』


 メッセージを送信すると、直ぐに瑠麒からメッセージが返ってきた。


『はい。無事にお母様と会われました』

『そうか。ありがとう』

『いえいえ。私は陽翔くんの相棒ですから』


(恥ずかしいことを言うよな、こいつ……)


 陽翔が返信に迷っていると、瑠麒から追加のメッセージが送られる。


『昨晩、陽翔くんの変身姿が変わりましたけど、陽翔くんご自身は不思議に思いませんでしたか?』

『ちょっと』

『ちょっとですか!? 変身姿が変わった時も驚かないで、はしゃいでましたからね』

『レイナちゃんと同じ変身姿になれたんだから、当たり前だ』

『はぁー…… 陽翔くんは気になっていないようですが、一応説明します。陽翔くんの変身姿は陽翔くん自身の想念によって変化するのかもしれません』

『想念? また難しい言葉を。簡単に説明してくれ』

『心で思い浮かべたことに左右されるということです。美少女戦士のアニメのことは全く分かりませんが、昨晩の変身姿はそれをイメージしたものなんですよね?』

『そうだ! レイナちゃんだ!』

『…… そうですか。つまり、陽翔くんのイメージ次第で変身姿を変化させることができるんだと思います』

『なるほど。…… 瑠麒はいつも説明が後出しだな。初めから、ブレスレットのことも説明しといてくれよ』

『ごめんなさい。私は天使になりましたが、神のように全てを知っているわけではないのです。私が知っているのは天使になった時に得られた知識のみで、知らないことは推測するしかありません。ブレスレットは神に関係することなので、私にはブレスレットの知識がありません』

『そっか、そうだったのか。俺は瑠麒なら何でも知ってると思ってたよ。ごめんな。瑠麒も困ったことがあったら言ってくれ。一緒に頑張ろう』

『陽翔くん……』


(瑠麒に頼りすぎだな、俺……)


「おはよう、陽翔。真剣な顔をして誰とRINEをしてるの?」


 振り返ると、陽翔の友人、瀬野元基せのもときがいた。

 昨日は風邪で休んでいたが、今日は来れたみたいだ。


「おはよう。大丈夫なのか?」

「熱は下がったし、もう平気だよ。そうそう、噂で聞いたけど、陽翔は大変だったみたいだね」

「なんだ、もう知っているのか?」

「僕の情報網を甘く見ちゃ駄目だよ」


 元基は社交性があって、友達は多い。クラスの中心にいる人達とも友達で仲が良い。しかも、顔が広くて他のクラスにも沢山友達がいる。

 陽翔は元基のことをコミュニケーションの化物だと秘かに思っている。


「来たら分かるよな。俺のことを見てる奴らが多いから」

「最近、陽翔は人気者だね。もし、何かあったら、最小限の力を貸してあげるよ」

「いや、最大限貸せよ。ほら、ノートだ。せめて、ノートの分は俺を助けてくれ」

「ノートの分ね、軽いけど大丈夫?」


 昼休みになっても何も起きなかった。四組の中心人物の一人である吉川薫海よしかわくるみとモメてしまったので、陽翔は何かされると思っていた。


(気にし過ぎだな)


 午後の最初の授業は体育。

 男子はバスケットボールで、女子はバレーボール。

 女子は着替えるために更衣室へ既に移動している。

 教室で陽翔も着替えて、体育館へ向かった。



 体育の授業が始まり、担当教師の指示で準備運動を行う。準備運動後、出席番号順でバスケットボールのチームが決められた。


 バスケットボールは一チームが五人。四組の男子の人数は二十人なので、ちょうど四チームができた。

 体育は運動系の部活に所属している人たちの活躍の場なので、文化系の部活に所属している人や帰宅部には肩身が狭い。


 最初の試合を陽翔のチームはすることになった。

 陽翔のチームは運動系の部活に所属している人が一人、他は文化系か帰宅部。

 相手は運動系が4人、帰宅部が一人。

 その帰宅部は陽翔の友人で、相津一志だ。

 一志は一人ぽつんと立っていて、運動系の四人から離れて立っている。


(相津も大変だな)


 と陽翔が思って、目配せをしたが、一志に視線を逸らされた。偶々じゃない、目は合っていたから。


(俺、何かしたか?)


 教師が笛を鳴らして試合が始まった。


(疲れない程度にやろう)


 陽翔は体育の中でも、特に球技が苦手だ。チームに迷惑を掛けたくないので、できれば触りたくない。

 しかし、陽翔の元にパスが来た。


 ボールを手に取った瞬間、強い衝撃を受けて、陽翔は体育館の床に転んだ。


「痛っ」


 背を起こして怪我した部位を確認する。大きな痛みはないが、脛の部分の皮が少し捲れてしまっていた。体育館の床との摩擦で火傷をしたみたいだ。


 ぶつかった相手が陽翔に手を差し出す。


わざとじゃないんだよ。湊川が最近調子に乗ってるなと思って。だから、ぶつかったんだよ」


 相手をちらっと見ただけで、陽翔は何も言わずに立ち上がった。


 教師が心配して陽翔に駆け寄ってくる。


「湊川、大丈夫か? 怪我したんだな。取り敢えず、保健室へ行ってこい」

「はい」


 陽翔は素直に頷いて、保健室へ向かった。













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