第11話 幼馴染との帰り道


 放課後を告げるチャイムが鳴った。

 この教室から早く出たいと思って、陽翔は直ぐに立ち上がる。


 薫海くるみと陽翔が言い合いをしたことは既にこのクラスの皆が知っていた。もしかしたら、他のクラスにも話が広まっているかもしれない

 陽翔はまた話題の人物になってしまった。


 席を離れようとした時、陽翔はシャツの袖をクイクイと引っ張られる。

 引っ張った相手を見ると、絆星姫きらりがいた。


「陽翔、一緒に帰ろ」

「え!?」

「なに、その反応? 私達と一緒に帰るのが嫌なの?」

「別に嫌じゃないけど…… ん? 私達って?」

のぞみもいるよ」


 自分を睨みつける視線に陽翔は気がついた。希がじっと陽翔を見ている。

 希の視線から読み取れる言葉は。


『きーちゃんの誘いを断ったら潰す』


 陽翔は震えるように小さく何度も頷く。


「わ、分かった。一緒に帰ろう」


 一緒に帰ることが決まって、一気にクラスの視線が陽翔へ集まる。

 陽翔は正に注目の的だ。

 女子からは好奇の目を向けられ、男子からは嫉妬の感情が混じった目を向けられた。


(明日からも続くんだろうな……)


 陽翔は溜め息をついてクラスを出た。



「希、今週の土曜って空いてる?」

「うん、空いてるよ。どうしたの?」

「一緒に新宿行こうよ。新宿に服のショップが沢山入った新しいビルができたみたい。いい服が色々とあるんだって」

「あ、私も行きたい。必ず予定、空けておくね」


 陽翔は一歩下がって二人の会話を聞いていた。


(俺、いらないだろ)


 商店街を抜けると、希とは帰り道が別になる。


 希は絆星姫に挨拶をしていた。

 別の道へ行くのかと思ったら、陽翔の元に来る。

 陽翔は怪訝な顔をした。


 希はあの怖い表情になって、陽翔を見つめる。


「きーちゃんに手を出したら許さないから」


 陽翔は無言で何度も頷く。


「分かってるなら、良いよ。湊川くん、バイバイ」


 希の背中が小さくなっていくことに陽翔は胸を撫で下ろした。


「希は何て言ってたの?」

「お前に手を出すなって」

「ふーん、そっか」


 絆星姫は髪をいじりながら少し頬を赤らめる。


「…… 手を出すの?」

「は? お前、大丈夫か」

「馬鹿」


 と言って、絆星姫は陽翔の脛を軽く蹴った。陽翔を置いて、絆星姫は怒って早く歩き出す。


「絆星姫、待てよ」


 絆星姫に追いついて、陽翔は横並びで歩く。


(そう言えば、一緒に帰るのは久しぶりだな)


「ねぇ、陽翔」

「ん?」

「どうして一緒に帰ってくれたの?」

「絆星姫が誘ったからだろ」

「そうじゃなくて、前まで学校で普通に話してくれたことってなかったじゃん」

「それは悪かったよ。俺も考え直したんだ」


(本当は羽橋が怖いだけなんだけどな)


「でも、積極的に関わるのは無理だ。俺は目立ちたくない」


 すると、絆星姫はクスクスと笑い出す。


「なんだよ」

「だって、目立ちたくないを陽翔が言うなんて。今日の陽翔は誰よりも目立ってたよ」

「あ……」


 薫海との出来事を思い出して、陽翔は頭を抱えた。


(明日、絶対何かあるよな。あいつ、俺のことを睨んでたし)


「そんなに悩むんだったら、ずっと無視してたら良かったのに。陽翔は人を無視するの得意じゃん」


 絆星姫はニヤッと笑って陽翔を皮肉った。


「それを言うなよ、悪かったって。でも、吉川は無視できなかった」

「どうして?」

「だって、あいつは俺の大切な美少女戦士を馬鹿にしたんだぞ!」

「ビックリした。急に大きな声を出さないで」

「あ、ごめん」

「美少女戦士のことになると、陽翔って駄目だよね」

「駄目って言うな。美少女戦士は俺の憧れなんだ」


 絆星姫は急に頬を赤らめて、陽翔に聞こえるか聞こえないくらいの小さな声で言う。


「陽翔が美少女戦士が好きな理由って私があの時――」

「あ、着いたな」


 絆星姫の小さな声は陽翔の言葉で途切れてしまった。


「ん? 何か言ったか?」

「何でもない!」

「はぁ? 何でキレてんだよ」

「キレてない!」

「いや、キレてるだろ」

「あー、もううるさい! 陽翔の夕食は抜き! 陽翔のは作らない!」

「はい!? それは待ってくれ。俺が謝るから」

「どうしようかなー?」


 二人はマンションの中に入って行く。

 焦っている陽翔に対して、絆星姫は何処と無く楽しそうだった。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る