第10話 ギャルとの口論
翌日には絆星姫が何食わぬ顔で陽翔を起こしに来て、朝食まで作ってくれた。
陽翔は考え直したことがある。
学校の中で絆星姫と少しだけ会話をするようにした。絆星姫は少し驚いているようだったが、いつもの笑顔を陽翔に見せている。
陽翔が美少女戦士となってから一週間が過ぎた。
この一週間で魔物を十体倒した。
最初は変身して戦う度にとても疲れていたが、戦いを繰り返す度に体も慣れつつある。
今日も陽翔は絆星姫に起こされて登校した。
四組へ入ると、先に来ていた生徒からちらっと見られる。瑠麒と知り合いであることや絆星姫と幼馴染の関係を知られてから、こういうことが多くなった。
絆星姫と陽翔が話す場面は周りも慣れるようになったし、
最初はじろじろと見られていたので、今は落ち着いた方だ。何も起こらなければ、前と同じで陽翔に関心はなくなるだろう。
時計を見ると、八時十分。もう少しで担任の先生が来る。
後ろの席を見ると、元基はまだ来ていない。
すると、陽翔のスマートフォンにメッセージアプリRINEの通知が表示された。
連絡は元基からだ。
『ごめん。風邪で休む。ノート、よろしく』
「ノート、了解。頑張りすぎだ、ゆっくり休め」
最近、元基は漫画研究部の活動で忙しかった。おそらく、その疲れが出て、風邪を引いたんだろう。
もう少ししたら担任の先生が来るので、周りの人達がちらほらと自席に戻り始めた。
周りの動きを気に留めないで、大きな笑い声が響く。
この大きな笑い声を出しているのは派手な女子達のグループだ。
金髪や茶髪などに髪を染めて、制服もだらしなく着崩している。
四組には中心的なグループが三つある。
一つ目は絆星姫のグループ。三人だけのグループだが、絆星姫を筆頭に他の二人も人気があるので影響力は絶大だ。
二つ目は運動系の部活に所属する人達のグループ。学校のイベントではいつも中心になる。
そして、最後の三つ目がギャルグループ。メイクをガッチリとキメた派手な女子達だ。いつも悪目立ちをしている。
授業が始まり時間が過ぎていく。
話す相手がいないので、スマートフォンでアニメ情報を見ながら休み時間を潰す。
昼休みの時間になって、絆星姫が作ってくれた弁当を黙々と食べる。
(元基がいないと話し相手がいない。暇だ)
弁当を食べ終えて、雑談ができる友達の元へ移動した。
「俺も混ぜてくれないか?」
「これはこれは湊川氏。瀬野氏は休みでしたな。どうぞどうぞ」
陽翔が話し掛けたのは、三人のグループ。
陽翔と会話をしたのが少しぽっちゃり気味の男子、河田優斗。
その優斗といつも一緒にいるのが、
一志は高身長で眼鏡を掛けていて、話すときに眼鏡を手でくいっとずらす特徴がある。
和はこのグループの中の紅一点だ。色白で地味な顔立ちだが、とても優しくおっとりとしていて可愛らしい。
「何の話をしてたんだ?」
陽翔が訊くと、一志が眼鏡をくいっと動かす。
「『オタサン』だよ」
「ああ、『オタサン』ね。だから、河田はあんな話し方なのか」
和が小さく笑う。
「河田くん、好きなアニメに直ぐ影響されちゃうから」
「久本も見てるのか?」
「うん、見てる。とても面白いから好きだよ」
『オタサン』、正式名称は『オタクは三次元に恋しない』だ。
アニメや漫画、ラノベが大好き過ぎて、その大好きを追求しまくる男子高校生が主人公。『オタサン』はその男子高校生が初恋をする話。
かなりの人気で、リアルタイム中のネットはいつもお祭り騒ぎだ。
優斗、一志、和はアニメやラノベなどが大好きな三人なので、陽翔と話が合う。
そして、陽翔はこの三人に以前から美少女戦士系のアニメを薦めている。
「河田たちもさ、美少女戦士のアニメを見てくれよ。今見たら、きっと面白いからさ」
「湊川氏、僕たちは美少女戦士には興味ないですぞ。あの作品群は女児向けでは?」
「違うって。美少女戦士の魅力は男女関係なく見れることだよ。恋、友情、熱い心、ギャグまで、色んな要素が詰まってるんだ」
「湊川は美少女戦士の話になると、雄弁になるな」
「だって、好きだからな。好きな作品は皆に見てもらいたいから、布教したくなるだろ?」
「それは分かるけどな……」
優斗と一志は困った顔で難色を示している。
「湊川くん、私、見たいかも。湊川くんがそこまで言うのなら、見てみたい」
「久本…… 今日から、お前は俺の志を共ににする友だ」
「大袈裟だよ。二人も見てみない? 一緒に見ようよ」
優斗と一志はお互いに顔を見合わせて頷く。
「「和が言うなら」」
二人は和の言葉に弱いらしい。
陽翔は仲間ができたと思って、ガッツポーズをする。
「よっしゃーー!! 実は布教用でホーリーウィッチの第一シーズンの円盤を持ってんだよ。カバンに入ってるから持ってくる」
陽翔が自分の席に戻ろうとした時。
「キモすぎ、はしゃぐなよ」
誰かを蔑むような声が聞こえた。
クラスに聞こえるような大きめの声だった。
(誰に言った?)
「オタクってマジキモい。布教って、宗教かよ」
陽翔を馬鹿にしたのはギャルグループのリーダー、
明るい茶髪のロングヘアに髪の間から見える大きめの丸いピアス。スカートからは太股を露出していて、制服のシャツは上のボタンを外して胸元が見える。
陽翔を睨むつり上がった目尻は好戦的で怖い印象がある。しかし、顔立ちは整っており、かなりの美少女だ。
「美少女戦士って、小学生かよ。今も好きって、キモすぎ。良く学校で平気に話せるよな。しかも、男で少女趣味とか。ああいうのが犯罪を起こすんじゃねぇの? キモいを越して、マジコエーわ」
薫海の周りにいるギャルたちも同調して笑っていた。
嫌な雰囲気になって優斗たちは目を伏せている。
他の人達も面白がって様子を見ていた。
からかわれている陽翔は爆発しそうだった。いつもなら無視してやり過ごす。時間が経てば、興味をなくすから。
だけど、今回は駄目だ。
なぜなら。
(美少女戦士を、俺の新たな同志たちを馬鹿にしやがった)
「キィーキィー、うるせぇぞ。お山の大将」
気づいた時には口を開いていた。
まさか反撃をされると思っていなかった薫海は驚いた顔をして固まる。
陽翔の怒りは収まらない。
「人を馬鹿にすることしか頭にないのかよ。好きなことを好きって言って何が悪い。耳障りだから、そのまま黙ってろよ」
薫海はハッとした顔になる。
陽翔に反論されたことを理解できてなかったみたいだ。
「…… は? 何言ってんの、お前? 急に調子乗んな。ウゼェーから黙ってろよ」
「人を馬鹿にするような言葉しか出てこねぇのな。俺も話す気ないから、俺たちにいちいちちょっかい掛けてくんな」
その後、薫海たちは何か罵詈雑言を言っていたが陽翔は全てを無視した。
再び優斗たちと会話を再開したが、薫海がずっとこちらを睨んでいるのが気掛かりだった。
(やっちまったなー。何もないと良いんだけど……)
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