第9話 幼馴染の母親
自宅のマンションに向かっていると、陽翔のスマートフォンが鳴った。
瑠麒からの着信だ。
「もしもし」
『陽翔くんですか? 私は瑠麒です』
「分かってるって。名前出てるから」
『あ、そうでした。電話って何だか緊張しますね』
陽翔も少し緊張してしまう。
絆星姫となら何度も電話をしたことはあるが、他の女子と電話したことは全くない。
「で、どうしたんだ?」
『はい、すいません、少し気になることがあるんです』
「気になること?」
『天元町のことなんですが、この町は闇の力の大きさが日によって違うみたいなんです』
「この町で? 闇の力って、そんなに変わるものなのか?」
『いえ、本来なら差を感じるほどの変化はないと思うんですが、天元町は闇の力がとても大きくなる時があるんです』
「つまり、この町は他の所よりも魔物が出やすいってことか?」
『分かりませんが、その可能性はあります』
「分かった。頭に入れておくよ」
『お願いします。でも、もう少し調べてみます。分かったら、またお伝えしますね』
「ああ、分かった。よろしく」
『あ! 待ってください!』
「まだ何かあるのか?」
『魔物はいつ出現するか分からないので、そのつもりでいてくださいね。瞬間移動で迎えに行きますから』
「分かった。それじゃあ」
電話が終わると、マンションの近くまで来ていたことに気がつく。
(絆星姫に謝らないといけないのか)
陽翔は肩を落としてマンションに入った。
絆星姫の家のインターホンを鳴らす。
「なに?」
絆星姫の怒りの籠った低い声が返ってきた。
「絆星姫、ごめん。機嫌を治してくれ」
「別に機嫌は悪くないけど、しばらく陽翔とは口聞かないから。でも、陽翔は良かったんじゃない? 私と話すの嫌みたいだからさ。じゃあ」
陽翔が何かを言う前にインターホンが切られた。
どうしたものかと思い頭を掻いていると、陽翔は声を掛けられる。
「陽翔、どうしたの?」
「あ、ちょっと……」
陽翔の前に現れたのは金髪碧眼の外国人女性。スタイルが良いのでスーツがとても似合っている。
彼女は絆星姫の母親、ソフィアだ。
「もしかして、また喧嘩したの?」
「すいません」
「良いのよ。どうせあの子が悪いんでしょ」
「いや、その……」
「え? 違うの? まぁ、良いわ。ちょっと待ってて。直ぐに行くから」
ソフィアは自分の家に入り、服を着替えて戻ってきた。
「夕飯、まだなんでしょ? 作るから、一緒に食べましょう」
陽翔の家に入って、ソフィアは夕食を作り始めた。
美味しそうな匂いがしてくる。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
ソフィアが作ってくれたのはナポリタンだ。ソフィアの得意料理でいつも美味しい。
「ベーコンがなかったから、豚バラを使ったよ。また買っておいて。さ、食べよ」
「はい、いただきます」
フォークに巻きつけて、ソースと具が良く絡んだスパゲッティを口に運ぶ。
トマトの酸味とソースに使った赤唐辛子がピリッと舌に感じて、とても美味しい。
しばらく夢中になって、ナポリタンを口にしていると、ソフィアがニヤニヤした顔で陽翔を見つめる。
「それで? どうして喧嘩したの?」
陽翔は学校での出来事を話した。自分が絆星姫に学校では話し掛けるなとずっと言っていたことも隠さず話した。
聞き終えたソフィアは大きな声で笑う。
「ハッハハハハハ、なによ、それ。まるでラブコメね。ハッハハハハ、ごめん。笑いが止まらない」
「そんなに笑わなくても」
陽翔は不満げな顔をした。
「だって、高校生にもなって。いや、高校生らしいのか。二人とも青春をしてるんだね」
「別に青春をしたいわけじゃ」
「分かってる。謝ったんだから、絆星姫も直ぐに機嫌を直すはずよ。母親の私が言うんだから間違いない」
「そうだと良いんですけど」
絆星姫と良く似たソフィアの笑顔を見て陽翔は少し安心した。
母親を亡くした陽翔にとってソフィアは母親同然の存在だ。
すると、ソフィアがカレンダー見て言う。
「もうすぐね。来月か」
「あ、はい」
「大丈夫なの?」
「多分、大丈夫です。もう八回目ですから」
「そう。でも、何かあったら言いなよ。
「はい。あの日には帰るって、父さん言ってました」
「そっか…… さて、私は帰るね。絆星姫の愚痴を聞かないといけないから」
ソフィアは笑顔で帰った。
陽翔はカレンダーを見る。
カレンダーをめくると、十月十三日に赤丸がついていた。
その日は陽翔の母親、愛莉が亡くなった日だ。
八年前、東京渋谷で起きた、渋谷大火災。
渋谷の大通りが突然爆発し、その一帯に大火災が発生した。
犠牲者は五百人以上。愛莉は犠牲に、陽翔は生き残った。陽翔が発見された時、愛莉は陽翔に覆い被さって亡くなっていた。
その時の記憶が思い出されるのが怖くて、陽翔は首を横に振る。
気分転換しようと思って、陽翔はソファーに座り、テレビの電源を入れた。
時計を見ると、二十時過ぎ。つまらない番組しかやっていない。
「ホーリウィッチを見直そうかな」
ホーリウィッチを再生した瞬間、目の前が光った。
陽翔は思わず目を閉じる。
目を開けると、天使の姿をした瑠麒が立っていた。
「…… 今日もか?」
「はい、今日もです。魔物が現れました。行きましょう!」
陽翔は問答をする間もなく、瑠麒に手を掴まれて、一緒に光の中へ消えた。
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