第一章 美少女戦士のお仕事

第4話 幼馴染との夕食


 トントントン、と優しい音が聞こえた。


 陽翔はぼんやりとした目で寝返りを打つ。眠気が少しずつ覚めていく。


 ベッドから起き上がると、陽翔は自分の部屋にいた。


(あれは夢? 違う!)


 白シャツの袖を巻くると、手首に装身具ブレスレットがあった。

 装身具ブレスレットを見ると、色んな記憶がぼんやりと思い出される。あり得ない出来事だったが、あれは現実だ。


(キマイラを倒してから、俺はどうなった?)


 途中で記憶が途切れている。陽翔は自分がどうやって帰ってきたのか覚えていなかった。


(絆星姫きらりは!?)


 急いでドアを開けてリビングに出る。すると、キッチンで料理をするエプロン姿の絆星姫がいた。


「あ、陽翔、起きたんだ」

「…… ああ」


 いつもの絆星姫を見て陽翔の心は少し落ち着いたが、心配なので訊く。


「絆星姫、大丈夫か?」

「え、なにが? あ、でも――」


 絆星姫が包丁の手を止めて、何かを言い掛けた。


(やっぱり何かあったのか?)


「味噌汁に味噌を入れすぎたの。ちょっと濃いかも」


 陽翔はずっこけそうになった。


「そんなことかよ」

「そんなことじゃないよ。だって、陽翔、私が失敗したら直ぐ文句を言うから」

「あー、そうですか。絆星姫が作った飯なら何でも食べるよ」

「…… は、初めからそうやって言えば良いの」


 絆星姫の機嫌は良くなったみたいだ。なぜか分からないが鼻歌を歌い始めた。

 絆星姫は嬉しいことがあると、鼻歌を歌う癖がある。


(機嫌が良いならそれでいっか)


 食卓に夕食が並ぶ。

 味噌汁、野菜炒め、炊き立ての白米だ。美味しそうな匂いがする。


「今日はママの帰り遅いんだって。先に食べよう。いただきまーす」


 いつもは絆星姫の母親とも一緒に食べている。仕事で母親の帰りが遅い時は、今日のように陽翔と絆星姫の二人だけだ。


 先ず、味噌汁に手を伸ばす。

 湯気が少し昇っていて、仄かに出汁の香りを感じる。具材はなすとキャベツ。キャベツを口に運ぶと香ばしかった。絆星姫はキャベツを炒めて一手間加えたみたいだ。確かに味噌汁の味はちょっと濃いかもしれない。


(これはこれで美味しい)


 味噌汁を啜りながら、絆星姫の様子を見る。


「どうしたの? 私の顔になんかついてる? あ! もしかして気づいてくれた?」

「なにが?」

「やっぱりかー。ま、陽翔だもんね。見て、インナーにカラーを入れたの。ちょっとだけグレージュにしたんだ。可愛いでしょ?」


 絆星姫は髪の染めた部分を手で持って陽翔に見せる。

 染めた部分と染めていない部分を見比べるが、陽翔には見分けがつかなかった。


「本当に染めたのか? 俺にはどっちも一緒に見えるけどな」


 絆星姫は口を尖らせて言う。


「絶対に言うと思った。光の加減でチラッと見えるのが可愛いの。どうせ陽翔にはこのお洒落が分からないよ。もういい」


 絆星姫は不機嫌そうだが、いつもと変わらない会話が続いて陽翔は安心する。

 食事を終えると、絆星姫が温かいお茶を入れてくれた。


「そう言えばさ、今日私のこと無視したでしょ」

「忘れたのか? 学校では絆星姫と関わらないって言っただろ」

「ちょっとぐらい良いと思うんだけど。手を振るだけだよ?」

「ちょっともしたくない。学校で絆星姫に関わると、面倒な目に遭う」


(特に男関係とかな)


「ふーん、そんな態度を取るんだ。のぞみに言いつけてやろう」


 陽翔の顔が急に青くなると、絆星姫は意地悪な顔でニヤニヤする。


「嫌なら、今度からちゃんと手を振り返すこと。分かった?」

「…… 分かったよ」


 陽翔が渋々答えると、絆星姫は満面の笑みになる。


「よろしい! …… あ、もうこんな時間。私、帰るね」


 玄関まで送っていくと、絆星姫が怪訝な顔をする。


「どうしたの? いつもはここまで来ないのに。鍵閉め? 私も鍵持ってるの忘れたの?」

「分かってる、別に理由はないよ。なんとなくだ」

「そっか、なんとなくか。じゃあ、今度もなんとなくで見送ってよ。私が出たら鍵を閉めてね。陽翔、お休み」

「ああ、お休み」


 絆星姫が出ていくと、陽翔は玄関を少し開けて、絆星姫が隣室に入るのを確認する。

 絆星姫が自分の家に入る時、嬉しそうに笑って鼻歌をまた歌っていた。


(何が嬉しいんだか)


 そんな絆星姫を見たら、陽翔も思わず小さく笑ってしまった。


 陽翔がリビングのドアに手を掛けようとしたら、インターホンが鳴る。


(絆星姫、忘れ物か?)


 やれやれと思いながら陽翔が玄関のドアを開けると、絆星姫とは別の少女が立っていた。













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