第4話 4月1日上手に嘘を吐くコツは真実を少し混ぜることです
私はどうしてこんなにも死にたいのだろう
「あなたはどうしてそんなに死にたいの?」
私はどうしてこんなに死にたかったんだろう
どうしてこんなに生きたくなかったんだろう
「大嫌いだからだ」
私を受け入れられない私が。約束を守らない友達が。嘘ばかり吐く親が。希望の見えないこの世界が。
ただここにいることが苦しい。
「私は好きだよ」
彼女の言葉がポンっと宙に浮かび、消える。
なにが、とは聞かなかった。
「その言葉も私にはきれいごとにしか聞こえないんだ。余命宣告を受けたヒロインが死ぬまでに人生で一番の恋をするようなラブストーリーだって私には茶番にしか思えない。『私の分まで生きて』『彼女の分まで生きようと思う』っていうセリフだって全部陳腐な戯言にしか思えないんだ」
「だからって心が冷たいわけじゃないよ。こころを絶対的に表せるものってないんだよ」
感情とか表情とかね、と彼女は言う。
「みんな目に見えるものと見えないものをイコールで結びつけることでこれはこうだって分けようとするけれど、世界ってそんなに簡単じゃないんだよ。もっと複雑で、」
その先が音となって私に届くことはなかったけれど、彼女の言わんとしていることのその雰囲気は伝わってきた。
本当に?
本当にそうだろうか?
「あなたの世界が苦しいのは苦しい世界だけを見ているからだよ。その世界に閉じこもって、出てこようとしないからだよ。助けてほしいと思っても現実にヒーローなんかいないんだよ。誰か助けて、じゃなくて私で私を助けないと。私が私のヒーローにならないと」
私がまだ六歳の時、父に「サンタクロースはお父さんだ」と言われたことを思い出した。
世界は残酷だ。子供に夢とか理想とか希望のたくさん詰まった世界を見せておいて成長するとともに現実はそうではないと、教える。
「すべては幻想だった」
「え?」
「でも私、まだその中にいたいんだよ」
まだ、諦めたくない。期待したい。それは、非難されなければいけないことなのだろうか。
「大人になれよって言われても、私はそんな大人になんかなりたくない。そう思って何とか生きてるんだよ」
私は、私を終わらせたくないんだ。
気がついて、彼女に会ってから感じていた違和感の正体がようやく輪郭を持った。
ゆっくりと息を吐いて、補給するように空気を吸う。
顔をあげて彼女の瞳をしっかりと捉えた。
「あなた、誰なの?」
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