第4話

 古書塔が傾いた。

 電子書籍が勝ったのだ。

 町の人は便利な。そして、新しいものを選んだ。

 半分どころではない。古書塔のお客が全員選んでしまった。

 

 電子書籍を足を延ばして、一軒一軒と熱心に広めた私にも責任があるのかも知れない。

 町の人は古いものしか知らなかったのだろうか?

 実際はこんなつもりじゃなかった。

 古書塔にくるお客がいなくなり。

 かわりに小熊は更に小さくなった。

 食べ物もろくに食べずに、古書塔の店内を歩き回り。寂しそうな目で無くなった新刊コーナーを見つめていた。


 雪は学校へ通いだし。

 私も勉強の毎日を送った。


 そんなある日。

 雪が私の机の上に座った。

 皮肉を言いたそうだったが、なんとか飲み込んでいた。

「なあ、このままでいいのか?」

 私は俯いた。

 確かに小熊を放っておくわけにはいかないし、町の人々も気になる。

「どうしたらいい?」

「科島は頭がいいはずだ。そう、俺よりもね」

 私は雪の皮肉なのか考えなのかを見抜こうとしていた。

 雪は机に人差し指をトントンと置いては、ニコニコしている。

「どうするの? 私は今から小熊を助けるのは難しいと思う。町の人々は電子書籍の方がいいって、判断したのだから。それが正解じゃないかしら」

 雪はニッコリして、こう言った。

「明日は金曜日だよね。都合がいい。早朝に新宿駅の東口へ来てくれないか?」


 新宿駅の東口へと改札口を抜け、道路へと息を弾ませて走るころには、ようやく考えがまとまってきた。

 

 雪の考えに賛成だ。

 

 そう、本を広めるんだ。

 

 時代遅れな本だが、電子書籍のように広められれば。

 良さを知ってもらい。そして、いつも読めるようなものなら。

 町の人々も考え方が変わるはず。

 ただ、膨大な文字の羅列の電子書籍には、本が勝つのは難しいのかも知れない。けど、ちょっとした何かがあればそれでいい。

 その答えが雪と共に目の前にあった。

 雪は軽トラックの脇で缶コーヒーを振っていた。

 軽トラックの運転席には小熊がいる。

「これなら、便利だろ。小熊が「是非、俺にやらしてくれ」といってくれてね。今のところは勝率は五分五分だ」

 本が時代に対抗した。

 人の手によって。

 人の繋がりによって。

 私たちはこれから毎週金曜日に方々の家に向かう。

 本の押し売りではなく。

 ただ、知ってもらいたいだけ。




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古書塔の店員 主道 学 @etoo

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