所属初日、初任務②
グランティアの西側は、広い森と大きな川、点在する古代遺跡で構成されている。魔物も魔獣も多いので、基本的には立ち入る人は少ない。強いて言うなら、依頼を受けた人や私達のような国の人、もしくは古代遺跡に眠るアーティファクトを狙う探索者か盗掘者くらいだろう。
ローズ先輩に先導されながら、森の中を進む。私は腰に差した『アーティファクト』に目を向けていた。
タンザはそんな私の様子を見て、話しかけてくれた。
「大丈夫?」
「えっ?!あ、うん、大丈夫。いきなり任務でびっくりしたのと……どういう効果なのかなって思って」
「俺も思った。どう使うんだ、これ……」
タンザはタンザに渡されたその『アーティファクト』を眺め、首を傾げる。
はてなマークが場を埋めつくしかけていたのを、ローズ先輩の声が止める。
「はーいはい!アーティファクトについては後でね。任務についての詳しい情報、共有するからねー?」
そう言って、ローズ先輩がこれから行く古代遺跡について説明を始める。
「今から行くとこが見つかったのは、2年前。でも、なーんかそこから異音がしてるってさ。だから異音の原因を突き止めろってことだねー」
「2年前に発見……ってことは、探索し尽くされてるんじゃないんですか?」
タンザが疑問を投げかける。
『古代遺跡』はその名の通り、はるか古代の文明などの跡地だ。しかし、その中には『アーティファクト』とも呼ばれる、ロストテクノロジーやオーバーテクノロジーの遺産が眠っている。
なんでも、この大陸にははるか古代に栄えた「光の国」があったとかなんとか伝えられている。
実際に「光の国」が実在したかはともかく、強力なチカラを秘めた『アーティファクト』が実在することには変わりない。
『アーティファクト』のチカラは強く、そこらの高位魔術師が使う魔法や、様々な異能よりも強く、特殊だ。
『アーティファクト』によってチカラの種類や差はあれど、どの国も喉から手が出るほど欲しがるモノ。だからこそ、古代遺跡を多く保有する国は必然的に強い国となる。
そんなアーティファクトを扱えるアーティファクト部隊は、「グランティア軍の2大花形」だとか言われている。
閑話休題。
だから、古代遺跡は発見次第、大抵探索し尽くされている。2ヶ月前に発見されたものならまだしも、2年前となると探索し尽くさていないとおかしいほどだ。
「そーなんだよね。だから、今の今まで『調査は終わった』ってことで、管理と警備されてたんだけどさ、突然異音と……謎の魔力反応が見つかったんだって」
不思議だよねー?とローズ先輩は笑う。
謎の魔力反応。考えられるものなら、隠し部屋があったとか、何か仕掛けがあって不具合で作動したとか……?
「ま、ってわけでボク達がサッサと調査しろってことだって。……ちなみに、2人は魔法?異能?どっちか使える?」
あ、そういえばという感じで尋ねられる。
人々は、少なくとも魔法か異能の片方は使える。
魔法は魔力を利用し、術式を組んだり詠唱したり魔力を練ったりして様々な現象を引き起こす。
詠唱や式の組み方は人それぞれだし、中には異能で魔法を扱うとかいうややこしい人もいるとか。でも基本的に、自然に由来する力というのは共通している。
異能は魔法とは違い、各個人ごとの特殊なチカラ。中には
魔法と違って発動条件や発動する効果は多種多様。ただ、異能は先天的に与えられるものだから、みんなみんな使えるわけじゃない。
魔法と異能。魔法を極める人もいれば、己の異能を鍛え抜く人もいる。どちらも適性が関係する。だから、魔法だけ使える人、異能だけ使える人、どちらも使える人といる。どちらも使えない人は、かなり珍しい。
私には異能はない。もしかしたら目に見えて発動する異能じゃないだけかもしれないけど、今のところは無い。代わりに、魔法は使える。
「私、雷の魔法なら使えます!」
……雷系の魔法だけなら。他の属性?ギリギリ火で光を灯すくらいなら、まあ。
「雷魔法かー!いいねー。高火力広範囲高精度低燃費。魔法の中でも強いことが多いやつじゃん!空飛んでたら撃ち落とされかけたことあったなぁ。……で、タンザくんは?」
タンザは、えっ、俺?と言った感じの反応をした。いや、さっき「2人とも」と言ってたよ、ローズ先輩。
そう内心ツッコミを入れたのが聞こえたかどうかはさておき、タンザは答えた。
「俺はどっちもです。魔法は氷魔法で、
「なんというか?」
「こう、ドーン!って……俺もよく分かってないんです。スミマセン」
異能は魔法と違って様々あるが、その分、正確に自身の異能を把握することは難しい。
例えば、「手を触れずにものを動かす」とか「空を飛ぶ」とか、目に見えて発動するものなら判断がつきやすい。しかし、「高温・低温への完全耐性」や「毒無効」とかなら、そういう場面にならないと分からない。わざわざ自分から火に飛び込む人や毒物を飲み込む人はそういないし。
多分、タンザの異能は「一定条件下で発動する」タイプだと思う。ドーン!ってことは、ピンチになった時とか、そういう?
その事について考えこもうとしていると、ローズ先輩が立ち止まった。
「はい、到着!調査対象の古代遺跡だよー」
木々の中に紛れ込むように、崖の下の位置にその古代遺跡はあった。
半分崖の中に組み込まれた構造の古代遺跡で、見た目は廃棄された研究所か何かに見える。石材のようなもので造られている遺跡は、長い時が経っているためか、苔や魔法植物の蔦に覆われている。
「それじゃ、準備してはじめちゃおうか。出る時に渡された水晶は落としてない?」
ローズ先輩に言われ、ウェストポーチから手のひらよりも小さめサイズの、立方体の緑色の水晶を取り出す。
これは、魔力や異能に反応して光を放つ魔道具。ちょっと高価だけど、支給品だからありがたい。
「おーけーおーけ!じゃー、はじめよっか!アーティファクトはちゃんと持ってねー?」
◆◆◆
外観から連想した「研究所」というのはあながち間違っていないようで、埃をかぶったり分解されかけの瓶や機械の残骸が散らばっている。
中は思いのほか広いようで、手分けして探すこととなった。水晶の魔道具が、通信機の役割もできるらしい。
私はタンザと共に、部屋のひとつを探索していた。
「そっちはどうだ?」
「えーっと……こっちはないみたい。そっちは?」
「こっちも特に。せいぜい、魔力の抜けきった宝石の欠片くらいだな」
探索し尽くされたはずの古代遺跡だからか、案の定何も見当たらない。件の「異音」も今のところ聞こえてこない。
「やっぱり、俺は魔物が住み着いたとかだと思うんだけど……」
「でもそれなら、糞や足跡があるはずだよ?」
「あー、そっか」
変な音を出す魔物は結構いる。だから、私もタンザも魔物の痕跡がないものかと調べてまわった。
でも今のところ結果は、会話の通り。収穫はゼロに等しい。
「うーん。私、隣の部屋見てくるね」
「オッケー。なら俺は、もう少しここら辺探してみるわ」
「了解」
入ってきた扉と反対側の位置のカウンターテーブルの向こう側に、扉がひとつある。
私は『アーティファクト』をきちんと差していることを確認すると、鉄のような感触の扉を押し開ける。鍵はかかっていなくて、少し重く、経年からか軋んだものの開いた。
中はやはり無機質な部屋で、棚や床が埃をかぶったりしている。というか、棚が多い。ここが研究所だったと仮定するなら、薬品とか資料の保管庫だったのだろうか?
おそらく資料などは既に回収されているようで、そういうものが入っていそうな棚や引き出しには何も無い。
それ以外の棚は基本的に何も入っていない。若干、割れた瓶や、からのカゴがある程度。
水晶の魔道具も、反応はない。
「……無いなあ。戻った方が………ん?」
資料があったであろう棚を調べていると、ふと視界に違和感があった。
なんだろうと思って目を凝らすと、棚の隅っこに、本当に小さくこちら側を向いた矢印が彫ってあった。
なんだろう?と思いながら、その引き出しを引き抜いてみる。
「わっ?!」
すると、棚が突然床の中へと引っ込んだ。棚が隠していた壁には四角い窪みがあり、その中にモニターと操作陣が置かれている。
モニターも操作陣も今ではつくることの出来ないタイプのもののようで、動力がないのか触れても反応がない。どうやってもうんともすんとも言わない。
「とりあえず、2人に連絡した方がいいか」
一旦諦めて、連絡をとろうと水晶の魔道具を取り出す。水晶の魔道具は、光を放っていた。
「あれ?」
同時に、不審な音が聞こえることに気がついた。なんというか、機械が動くような、ブーンというような音。
見れば、どうやって動かなかったモニターが点いている。
「わわっ!?」
次の瞬間、地面が揺れだした。棚は固定されているのか、中にあった空の瓶が落ちて割れる。
私は突然の揺れに立バランスを崩し、膝をつく。
揺れは数秒でおさまり、棚を支えにしつつ立ち上がる。
「大丈夫か?!」
タンザが扉を開け、そう言う。
「タンザ!わ、私は大丈夫。そっちは大丈夫?」
「大丈夫。ちょっと棚が倒れたけど、全然違う位置だったからさ」
よかった。中身が入っていないにも等しい棚とはいえ、下敷きになってはたまらない。魔族は人間族よりも頑丈とはいえど、それでも、だ。
「とりあえず、ローズ先輩に連絡入れるか」
「うん。そうし───」
ピシッ。
「……えっ?」
足元から聞こえるその音。瞬間、バキッと音がして体が宙に浮く感覚がした。かと思えば、落ちる感覚。
理解するのに少しかかった。突然床が割れて、私が落ちているのだ。
あまりに突然の事で呆然としてしまい、声も出なかった。
「ラピス!」
タンザが叫んだ声はすぐに遠のく────つまり、私はそのまま落ちていってしまった。
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