ジャッジメント×ジャガーノート

偽禍津

プロローグ:所属初日、初任務①

  人と魔が別れて争って、勇者と魔王が戦ったのも昔々の話。いつしか人も魔も混ざりあって、大きな事件があった後に、6つの大陸に散らばって、国々に別れた。 


 剣も、銃も、魔法も、科学も、天使も、悪魔も存在する。そんな世界。


 私────ラピス・ラグドールは、そんな世界で暮らす者のひとり。

 5つの大陸のひとつ、『アノーゾ大陸』にある大国・グランティアに住む、17歳の人間だ。


◆◆◆


 アノーゾ大陸にある5つの国のひとつ、『グランティア』。大陸の東側の大国。白亜の壁に囲まれた首都の様子から、"白亜の国"などと呼ばれる。

 魔法が主な研究に据えられており、大陸で最も多くの『古代遺跡』を保有している。


 資源も多すぎでは無いが、それでも豊富。そんな国だからか、それとも過去からの因縁があるのか、はたまたくだらない小さな理由からか。分からないが、現在、西の大国である『フェルトリア』と戦争になりかけている。

 ……いや、もう戦争になっているのだろうか? 水面下では、もしかしたらもうなってるのかもしれない。


 でもそんな裏側の事情なんて、私にはまだ知りようがなかった。

 17歳のある日、私は、グランティアの軍部のひとつ、誰もが憧れる2大部隊のひとつである、『アーティファクト部隊』に所属することとなった。


 今日は、その初日。私は、集合場所である宿舎の部屋へ向かい歩いていた。


「えーっと、3階の、左側の4つめのドアドア……これかな? 」


 特殊な煉瓦のようなものでできた廊下を進むと、青色の塗料で塗られたドアの前に立つ。少しの間、どうしようか迷った。


 昔見たある人に憧れて、必死で勉強して学校を卒業して、やっと配属された憧れのアーティファクト部隊。今日からはじまるのか、と期待と不安を抱えながら、意を決して恐る恐るドアに手をかけようとした。


 その時、後ろから声がした。


「開けないの?」

「ひゃあ?!」


 振り返ると、同い年くらいで同じ軍服を纏った紫を帯びた黒髪の少年がいた。人間に近い姿だが、尖った耳と髪の間からはえた黒い片角を見るに、多分魔族か悪魔かその辺の種族だと思われる。


「あ、ご、ごめん!驚かせるつもりは無かったんだけど……大丈夫?」


 少年は私を驚かせてしまったことを謝った。けれども、何も気にしていない。


「大丈夫。寧ろ、ちょっと緊張していたのが解けたから、助かったよ。ありがとう」

「そっ、それなら良かった。ところで、君もここに配属になったの?」

「あ、うん。もしかして、キミも?」


 同じ軍服を着ていてここに来ているのだからそうな筈なのだけど、つい聞いてしまった。

 少年は、嫌な顔などせずに笑って頷いた。


「ああ!俺はタンザ・ベルベット。同期……ってことになるんだよな?タンザでいいぜ」

「うん、そのはず。私はラピス・ラグドール。私もラピスでいいよ。よろしくね」

「よろしくな」


 タンザが差し出した手をとり、握手する。それからタンザは一息ついてドアを見た。


「それじゃ……腹括って行くとしますかね」

「うっ……そうだね。行こうか」


 改めて覚悟を決めてドアに手をかけ、開く。



 思い切ってドアを開くと、思いのほか広い空間があった。壁には掲示板のようなものがかかっていたり、カウンターテーブルがあったり、片隅には木箱と袋が積み上がっていたりしている。


 その部屋のカウンターテーブルにもたれかかっている女性と、椅子に座っている人物が1人ずつ。

 カウンターテーブルにもたれかかっていた女性は私達に気がつくと、スタスタとこちらに歩いてきた。


「……今日から配属になる奴とは、お前達のことだな?」


 綺麗な緑色の髪をした、エルフの女性。理知的な光を湛えたライムグリーンの瞳が、順にまっすぐに私達を見た。

 

「どうした。配属になる奴ではないのか?」


 そう問われて我に返り、慌てて返事をした。


「は、はい!今日より配属になります、ラピス・ラグドールです!」

「同じく配属になる、タンザ・ベルベットです!!」


 私達が答えると、女性は「ほう」と言って視線をはずした。それから、咳払いをして。


「お前達が今日から配属になる新人か。私は、このアーティファクト部隊第5小隊、『Niflheimrニヴルヘイム』の隊長、リド・ペードットだ。これからお前達の上司になる者だ。よろしく頼もう」


 リド隊長は、ハッキリと凛とした声でそう自己紹介した。切れ長の目が少し怖い。


「……返事は!」

「「は、はい!」」


 タンザと返事をハモらせる。出会って数分だけど、この時ばかりはお互いに「この人、怖い」と思っていた事が分かった。


「よろしい。それと、お前も自己紹介しろ、ローズ」

「えー?ボクもやらなきゃなのー?」

「当たり前だ。これから共にやっていくならば、最低限名前くらいは知らねばなるまい!」


 椅子に座ってこちらを見ていた人物が、若干不満そうに立ち上がった。

 その人物はサーモンピンクの髪をした、鳥の獣人だった。大きな翼は、室内だからか畳まれている。


「ってことで、ボク、ローズ・クォーツァー。キミたちの先輩にあたるよって……んんん?」


 ずいっと私達に顔を近づけ、じぃっと私達それぞれの顔を眺めたかと思えば、すっと離してから、ローズ先輩は笑った。


「なーるほどね!ラピスちゃんとタンザくんだったよね?うんうん、よろしくねー?」

「よ、よろしくお願いします……?」

「ローズ、新入りが戸惑っている。落ち着け」

「はあーい」


 リド隊長に諌められながら、ローズ先輩は笑った顔のまま椅子に座りなおした。

 それを見てから、リド隊長はため息をついた。


「本来は副隊長を含め、他にも数名いるのだが……生憎現在任務中でな。帰還次第彼等については紹介しよう。本日は初日だ。先ずは荷物を部屋に置いてこい。部屋はこの部屋の奥の通路にある扉だ」


 それぞれ何番目の扉かを指定される。そういえば、荷物を持ったま間だったことを思い出す。

 それでそのまま行こうとしたが、リド隊長の視線にハッとして返事をした。


「は……はい!」「はい!」


 リド隊長は無言で頷くと、「行ってこい。荷物の整理は後ほどしろ」と言って、荷物を置いてくるよう促した。


◆◆◆


 数分して、荷物だけ置いてから戻る。部屋には、リド隊長だけがいた。ローズ先輩の姿は見当たらない。


「リド隊長、荷物、置いてきました」

「うむ。今の時間は……大丈夫だな。では、本日はこの拠点の案内を────」


 リド隊長がそう言おうとした時、バターン!と音を立てて入口のドアが開いた。ドアを開けたのは、ローズ先輩だった。


「たーいちょっ!緊急だよー?」

「せめて扉は丁寧に開けろ!……で、緊急か。2人とも、少し待っていろ」


 ローズ先輩が持ってきた紙をリド隊長は受け取ると、内容を読み込む。なにやらローズ先輩と話し合いながら、苦虫を噛み潰したような表情をしている。

 私とタンザはお互いに顔を見合わせて、首を傾げあった。


 それから少しして、リド隊長は額を抑えて大きなため息をついてから、こちらへ振り返った。


「すまないな。来て貰って早速だが、任務だ。ローズと共に、西の古代遺跡へと赴いて欲しい」

「えっ、おっ、俺達がですか?!」


 リド隊長は微妙な表情をして頷く。


「ああ。本来なら他にも数名いるとは言ったが、今はいなくてな。諸事情あって私も動く訳にもいかなくてな」

「そーそー!ボク1人だと色々やれない事があるからね。突然の実践だけど、研修代わりってことでね!」


 先程からため息の連続のリド隊長と、対象的にニコニコ笑顔のローズ先輩。テンションの差で、風邪をひきそうな気分だった。

 私達に拒否権……というか、断る理由がない。とはいえ、突然も突然すぎる気もしていた。


「無論、不安はあるだろう。だから、後程渡す予定であったアーティファクトを今から渡そう。それを持って、行ってきてくれ」


「りょっ、了解しました!」


 リド隊長は頷くと、私達に必要なものと、『アーティファクト』を渡してくれた。

 そこから少しだけ準備し、ローズ先輩に連れられて出発した。




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