第7話 2人のひみつと1人の少女
朝の目覚めは悪くはなかった。部屋中に広がる酒やらタバコの混ざった匂い。部屋中に食べ物のゴミやらが散らかっていたがもうこれにも慣れたものだ。僕はゴミを避けながら顔を洗い学校に行く準備を始めた。
「父さん…ちゃんとベットで寝ないと」
床に倒れるように大きな鼾をかきながら眠る父を移動させようとする。
「はぁ…ちゃんと食べるんだよ。それとおばあちゃんのお金、もう無くなってきてるから」
僕はそれだけ伝え、まだ眠ったままの父を横目に携帯の電源をつけた。そこには先輩からのメッセージが来ていて
『秋くん!おはよう!今日も放課後図書室で待ってます。』
僕はそのメッセージで少し元気をもらえて少しハイテンションに返してしまう。
『おはようございます!!先輩早起きですね!勿論です!!』
取り消そうかと思ったが学校に行く時間まであまり無いのですぐに家を出た。出る際に見えた父が寝返りしているのが見えた。
「バイト始めないとだなぁ」
今日は青空が綺麗だった。雲一つない晴天でもし先輩に出会わなかったらここに居ないのかと思うとこれは感謝すべきなのかは今は分からなかった。僕は電車に乗って学校の最寄りを待っていると近くに座っていた女子生徒2人の話し声が聞こえてきた。
「てかさ美月保健室登校してるらしいよ」
「え?ほんとに?ルカちゃん謝った方がいいよね?」
そう話す三年生の生徒は1人はツインテールであまり先輩には見えない感じでもう1人はボーイッシュのカッコいい感じだった。その2人はまさに理想のカップルみたいな身長差だった。
「今日保健室行ってみようかな」
「でも先生には近づかないように!って言われているよね」
その言葉で僕は確信はできないが僕よりは美月先輩の言ういじめを知っているに違いない。僕は勇気を振り絞った。
「先輩方。相原美月さんの事知ってるんですか?」
僕は少し怖くなる。もし、もしも目の前の2人が主犯だったらと思うと何をされるか分からない。
「え〜もしかして美咲の男〜?ルカちゃん許さないぞ〜」
「違うよ違うよ。私知らないよ?君は誰かな?」
「でしょうね〜美咲にはルカしかいないもんね〜」
「あ…すみません。自分は今年から入学した一年の水城秋って言います。その美月先輩の…あのその…従弟です!」
嘘をついた、一番ここを怪しまれずに済む方法で
「従弟〜?ルカちゃん従弟に先輩なんてつけないよ〜?」
「ルカいいでしょそんなの…。水城くんここじゃ人目につくし連絡先だけいいかな?」
「なぬ!ルカちゃんいるのに美咲!」
そういうとルカちゃん先輩は小さな身長を大きく見せたいのか背伸びをして
「ルカ誰のせいでこうなったと思ってんの?」
「はい…」
今度は逆にシュンと小さくなった。
僕はその後連絡先だけ交換した。あまり会話をするのは好きじゃないので最寄りに着くと「じゃあ先に失礼します」とだけ言い走って学校に向かった。教室に着き自分の席に着くと後ろの席の男子生徒と目があった。
「お!秋だっけ?今日は顔色いいな」
「あ…はい。今日はご飯食べたんで」
「あははっ!なんだそれ!昨日食べてねぇみたいじゃん」
「あ…確かに…」
するとまた元気に笑いだす。昨日は全くクラスに関心などなくて勿論名前なんて覚えてなくて、
「その‥よろしく。凄い元気って感じだね」
僕は少し濁したようにそう言うと男子生徒は少し困ったような顔になっていた。
「ごめん…なんか悪いこと言ったか?」
「いや名前覚えてたのが意外だったから」
僕は体ごと?を浮かべたような顔になる。
「いや〜俺名前通りよく元気って言われっからさぁ。なんかそれって何も考えてねぇみたいじゃん?苗字も田中で普通だしよ〜」
僕はそれを聞き一安心。自然に名前を聞き出せた嬉しさに声のトーンが上がる。
「そんなことないよ!ほらほら覚えやすい名前だし僕はいいと思う」
すると田中元気くんは分かりやすい感じで元気になってみせる。
「そ、そうか!?そうだよな!やっぱ秋はわかってんな〜。ってことで俺のことは元気って呼んでいいからな」
そう言う元気は拳を胸に当てている。どこの少年漫画の主人公だよ‥(笑)
それからというもの僕と元気は意外と話が噛み合い仲良くなれた。
「ほら〜!席につきなさ〜い!」
そこでこの1年1組の担任木原先生が入ってくる。その先生は優しそうな栗色の髪に顔は少し子供っぽい20代前半の女性の先生だ。どうやら新任らしくどこか緊張しているみたいで、でもそれが可愛いと元気は言っていた。
「ほら!田中くん!ちゃんと席に座りなさい!」
「はい!木原先生!」
そんな元気は注意がまるでご褒美であるかのように喜んでいた。
「じゃあ朝の会を始めますね〜今日は委員長とか決まってないから私が言います」
すると先生が朝の会などを終え授業が始まった。早速後ろから話しかけられた。
「なぁ現代文の教科書貨してくんね?」
「お前早速かよ」
「いやぁ現代文ってあんま主要って感じしないじゃん?だからよ〜それに木原先生だし」
「いやいやめちゃめちゃ主要教科だろ。あとそれ僕が忘れたことになるだろ?」
「お願いだよ〜今日昼休みジュース奢るから。ね?ね?」
そんなふざけた事を言っている元気は隣の席から声が掛かった。それはまるで天使のような優しい声で。
「あの田中くん。良かったら私のを一緒にみませんか?水城くんにも迷惑ですしちゃんと先生には言いましょ?」
「そ!そうだな!ありがとう!七瀬さん!じゃあ木原先生に言ってくんべ」
すると元気はまるで別の女に浮気するように走っていった。
「あ…あの…水城くん」
それは七瀬さんという斜め後ろの女子生徒で大人しそうな声や話し方とは裏腹に凄くスポーティな感じの女の子で高校1年生離れしたその容姿は見るものをどきりとしてしまうだろう。
「昨日…は大丈夫でしたか?」
「へ…?」
「い…いや違うんです。そんな変な意味とかじゃなくてなんか元気なさそうでしたから」
「あ…う、うん。昨日はちょっと親と喧嘩しちゃってね…もう問題ないよ」
すると彼女は少し嬉しそうに小さく胸を撫で下ろした。
「水城くんって優しそうですね!」
彼女は楽しそうにあくまでスポーツを楽しんでいるようにそう言った。
「ありがとう‥そんな事言われたの初め‥てだよ?」
そこで先輩に言われたような気がしたのであまり自信が持てなかった。すると彼女は目を細めあれ〜?っとこちらを見ている。
「ま‥いいです。水城くん急で悪いんですけど放課後空いてますか?」
その言葉にどう返せばいいのか分からなくなる。そしてその地獄は始まった。
放課後…いつもの図書室にて
目の前で僕を睨む美月先輩と僕と先輩を交互に見る同じクラスメイトの七瀬さん。これはよく恋愛漫画でみるあれだ…修羅場ってやつ。先に口を開いたのは先輩で、
「で、どういう事なの?」
いつもの先輩の優しそうな笑顔は一切なく。
「その今日仲良くなって悪い人ではなさそうだったか‥」
「しかも可愛かったからだもんね?あ〜くん!」
何故か食い気味に七瀬さんは僕の言葉を遮った。それも…勝手なあだ名付きで。
「ふーん可愛かったからか〜」
すると先輩は何故か七瀬さんの胸の方を見る。
「せ…先輩。七瀬さんふざけてるだけだから」
「いや〜入学して2日目で先輩だけでは飽き足らず同級生にも手を出すか〜」
僕の言葉など一切聞く耳を持たず自分の世界に入っている先輩、そして何故か顔を真っ赤にしている七瀬さん。
「手を出したって本当ですか?先輩。あーくん変態さんなんですか?」
「いや違うわ変態さんではないけれど…」
そこは庇ってくれるのかさすが先輩…。すると先輩は付け足すように
「ど変態よ!!!!」とキメ顔で言った。
で、話は一歩的に進み何故か僕が二股をしている。という結論になった。もういいですそれで…。
こうして水城秋は犯罪者みたいな扱いになった。
一方ある少女は密かに悩んでいた…
そう私七瀬ことりは迷っていた。私が昨日この図書室で目の前に座る2人だけの会話を聞いてしまった事を言うべきなのか言わないべきなのかを…。
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