第6話 二人のひみつごと
放課後の学校の図書館にて
私の目の前に座る後輩の男の子。女の子みたいな綺麗な髪にちょっぴり見えた寝癖が可愛くて直してあげたくなる。
「水城くん。さっきはごめんね〜復讐しよ?何て物騒なこと言っちゃって。私ね?色々あっちゃって‥そのね…いじめを受けたの」
私は少し軽い感じで言葉を丁寧に紡ぐ。
初めて会った先輩から いじめを受けてるの、なんて言われたら困ってしまうかもだけど私はそれでもこの人には言いたくなった。それは他でもなくこの子は私を受け止めてくれる…いや受け止めて欲しいと思ったからだ。
「嘘だ…」
そんな言葉は唐突に耳に入ってくる。それは鋭く私の脳を貫くように冷たい声だった。
「…ご、ごめんね。急にこんなこと言われてもだよね…。アハハっ困ったなぁ」
私は必死に自分を取り繕う。私は次の言葉を必死に探していても簡単には見つからなくて
「あの…先輩…僕、やっぱり良いですよ。先輩可愛いですし僕なんかに構わず。なんか同情してくれただけで嬉しいっすよ」
「ち、違うよ?」
唐突に出た可愛いで頭が更にまっさらになったが同情という言葉で凄く胸が苦しくなる。
「…先輩に出会った時はなんか雰囲気がすごくて信じてみようって思えたんですけど。多分それってただ自分に死ぬ勇気が足りてなかっただけて…」
パシっ!私は言葉を遮るように頬を叩いてしまった。でも私は止まらない。
「何で…何でそんなこと言うの?私水城くんの死にたいって気持ちも凄くわかるって言ってるのに信じてもらえないの?」
「わかるわけないじゃないか!!!!!!!!!!」
ドンっ!と机を叩くように水城くんが叫んだ。それは水城くんの初めて見る表情で同時に二度と見たくない表情でもあった。唸る猛獣のようなでもどこか空っぽなそんな表情。
「大体いじめ?!いじめなんてする方も悪いけどされる方も悪くないすか?それで僕の気持ちわかったなんて揶揄うのも大概にしてください!」
私はいくら年下とはいえ男の子に叫ばれるのには耐性がないので一歩後ろに後退してしまう。
私はこの言葉を聞き、一つ確認しときたいことと、提案をすることにした。
「あの…さ…水城くんっていじめを受けてるわけじゃないの?あの…そのごめんね?勝手になんか頭で決めつけちゃってて…それで一つ提案なんだけどさ…
私とひみつごとしない?」
「…ひみつごとですか」
私は前半をフル無視されて辛かったけど相手に言えない事情があるのはしょうがない。
「私と水城くんだけで助け合うにあたって、そうだね…条約?みたいな感じかな。例えばほら!私が復讐をもし手伝ってもらうとしたら…水城くんにもそれ相応の対価が必要でしょ?ほら人生は等価交換ってやつ!」
私は少しずつ元気を取り戻した。それは水城くんが少し興味を示したようにこちらを見ているから、まるで瞬きを忘れたように。
「良いですけど…確認なんですけどホントにいじめは受けたんですよね…?後さっきはすいません。いきなり怒鳴っちゃったりして」
「ん!いいよいいよ人には話せない秘密ってのが一つや二つあるもんだよ!うん!自慢じゃないけどね…。それに1人は私が初めてできたと思ってた友達でね〜まぁ向こうは違ったみたいだったのかなぁ…」
私は親友だと思ってたっていうのが怖かったから友達と伝えた。それは相手にダサいと思われたくない私の甘えだろう。
「わかりました。信じます…先輩はその人のことが好きだったんですね」
そう言われ否定できなかった。いやむしろ肯定する気持ちが昂って何から話すか迷うくらいで。
「そうなの…だから余計にね。でも向こうにも色々事情があってね…まぁ人間関係難しいわよね」
「ですね…自分もよくわかります。見た目からでもわかると思いますがそんなに友達も多いわけじゃないですし」
「…か、かっこいいよ?」
私、何言ってるの?!もし時間を戻せる道具あるならポケットからお願い。私は顔が熱くなり逸らしてしまう。
「先輩は優しいです。でも嘘はやめてください。僕また信じなくなりますよ?」
そういう彼は少し笑いながら言う。
「もう!(違うのに!)」
私は口を膨らまし不満を露わにする。よく考えたらこんなに女の子っぽいことしたの初めてかも。私は恥ずかしさを紛らわすように手を叩き本題に戻る。その音に水城くんがビクッとなった。可愛い…保管したい。
「そんなことより!私の復讐してくれるの?してくれない?」
「…しますけど。じゃあ僕も一ついいですか?」
「やった!うんうん!勿論だよ!」
「…お父さんに会ってくれませんか?」
そんなことでいいの、?なんてことは言えない。だってそれは私の光が提案した条件なのだから。
「れーてんご!私の復讐が一としたらその半分!もう一つくらいいいよ!」
私も強引にしたのは自覚がある。このくらいの事は常識だろう。
「え…でも悪いですよ!」
「れーてんご!」
「じゃ、じゃあそうだな…先輩としてみたいです」
ドキッ!え?意外と草食に見えて肉食?ギャップやばいんだけどこの子。なんてハレンチなことを想像しながらほっぺに手を当ててると。
「復讐をですよ?」
「え?どういうこと?」
「言葉の通りです。残りの0.5に僕の意思を使うんです」
「ふぁい?」
あら何言ってるのこの子お姉さんわからない。
「先輩の対価の半分を僕の意思が帳消しにしたって訳です」
そ、そんなのあり〜?てかいい子すぎて母性本能出ちゃう。
「え、好き」
「はい?!ちょ!揶揄わないでくださいよ。僕はあまり借金とかが嫌いなんですよ」
「そうなのね!じゃあ仕方ない!と言うわけで2人だけのひみつごとの完成だね!」
こうして小さな小さな約束事がまた一つできた。
その日私と水城くんは一緒に帰る途中連絡先を交換した。
夜10時
ブルブルブルブルブルブル…
画面に映る美月という先輩の名前が大きく表示されている。今日の帰り道先輩と夜電話することになったのだ。僕は異性と電話するのは初めてだったので緊張したが少し置いて電話を取る。
「…はい」
「…あ!水城…くん?こんばんは…」
先輩も歯切れが悪く緊張しているのが伝わってくる。電話越しの声は普段の先輩の可愛らしい声がもっと可愛く聞こえた。
「こんばんは…」
それから沈黙。沈黙。沈黙。
「「あの」」
言葉が重なり慌ててしまう。
「せ、先輩からどうぞ…」
「…ごめん。忘れちゃったからお願いします」
「あ、じゃあ…その教室には行けそうですか?」
これは先輩が保健室登校をした、ということを聞いていたから気になっていた。
「…ご、ごめん今日明日ってのはきついかも。でも水城くんがいるから頑張る!」
電話越しから、ガッツポーズをしたような声が聞こえてくる。階すら違うんだけど大丈夫なのかななんて事は口が裂けても言えない。
「分かりました。先輩の方が解決してからで僕のはいいですよ」
どうせ父の様態はさほど変わらない。それにこれで迷惑をかけてしまうなら先より後がマシだろう、色々考えちゃうと悪いし。
「え?でもそっちの方が早く終わりそうじゃない?」
「いや大丈夫です。ぶっちゃけいつでもいいんで。先輩は対価なんてないと思って僕を頼ってください」
「あら?そう?じゃあいいけど。あと急なんだけど敬語じゃなくていいよ?」
「いえいえ今はこれでいかせて下さい。距離感が大事だと思いますんで」
「くっくそー」なんて小さな声が聞こえてくる。くそは違うだろ(笑)。
「じゃ、じゃあさなんて読んだらい?」
「んー別にそのままでいいですけど」
「なんて読んだらい?」
「え?」
「なんて読んだらい?」
あ、またこれか。
「先輩に任せます」
「…うんわかった」
そうして僕らは世間話やドラマの話などくだらない事で盛り上がった後。
「じゃあまた明日です!先輩!」
「うん!おやすみ!」
そう言って切るのを待ったが一向に切る気配がない。
「先輩。切っていいですよ」
「やだ」
「切っていいですよ」
「やだ」
あ、またこれね。
「じゃあ切りますね。おやすみなさい」
そして電話を切って2分後。
それは先輩からのメッセージだった。
『電話では恥ずかしくて言えなかったから今言うね!おやすみ秋くん!』
それは先輩らしくてあまりに卑怯で可愛かった。
『ずるいです。美月先輩』
僕は少しからかう。絶対文字でしかできないだろう。すると2分くらい既読がついたままで
『明日。直で聞いてやる!(うさぎの照れたスタンプ)』
それに僕は無理無理ってしてるうさぎのスタンプで返すと眠ることにした。そして僕はあること考えていた。
それは僕はまだ肝心なことは何も伝えていないということ。
僕には不治の病があってもう時間がないということ…それはつまり先輩と交わした約束はまだ大きな秘密ではなく小さなひみつに過ぎないということを意味していて…。僕は先輩の笑った笑顔と笑った声を思い出す度に罪悪感が襲ってくるのを必死に堪え今日も酔って寝ている父を見る…。
「真由美…」
そう呟いて涙を少し流しているようにも見える父をみて僕はもう一言先輩にメッセージを送った。
『先輩。2人のひみつごと絶対成功させましょう!』
そう強く願うように送った。すると1分もしない内に返事が返ってきた。
『あったりまえだよ!絶対成功させる!』と。
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