第4話 私の唯一の光

 私はあの日以来、家に引きこもっていた。それはずっと霧の中にいるような何もない暗い山奥に来たようなそんな感覚だった。

「美月〜お母さん仕事行ってくるから。何かあったら言うんだよ」

 その声に小さく相槌をし布団に蹲った。そして今日も中身のない1日が始まる。私には2つ上の大学生の姉が1人とお母さんとお父さんの4人家族でこれといって変わった事はない。父と母どちらも共働きで帰ってくるのが遅く姉が学校の日は常に1人だった。でもその1人は私が望んでいるもので苦痛ではなかった。


      八代美咲という女の子に出会うまでは……


 私はそれまで1人は気軽でいい物だとばかり思っていた。でも友達と趣味で語る楽しさを知り、今1人でいる時間は決していいものでは無かったのだ。


「あぁ。本でも読もう…」

 私は虚無のままそう呟くと、大好きな飯田吾郎先生のミステリー小説を手に取る。そして1ページ2ページ進めていく…だが…入ってこなかった。

 読めば読むほどストーリーよりも八代さんとの思い出が脳を支配する。

 その時出てきたあの笑顔…色んな種類の笑顔が私の目の前に映画のフィルムのように流れる。



 私はいつの間にか眠ってしまっていた。そして時計を見ると既に18時。これといって今日も何をしたのかわからない。私はあれからというもの自分から親とまともに口を聞いていない。


 そう私はあの日以来、まともに生きていないのだ。ただ体はこの世界にあるものの中身を持ってかれたように私の心には空白の2文字だった。そんな日が2ヶ月も続き遂に年が明けた。先生からは「2年生の単位は足りているので心配しなくて大丈夫です。3年生から初めは保健室スタートでもいいので来れると学校側は全力で支えます」そう書いて「じゃあみんなはどうなの?」なんて身勝手なことを考えてしまう。そこで私は捻くれたなぁ、と思った。それから学校には3年生になるまで一回も行けなかった。それから3年生になる4月1日からは保健室登校が続いた次の日もその次の日も…私は一度も生徒と話す事なく。そしてある日の休み時間誰も使わないトイレを使っている時だった。隣の男子トイレから音が聞こえた。私はドキッとした。何故か逃げ出したくなり、急いでトイレを抜け出そうとしたがその時男子トイレから聞こえた声に足が止まった。


   その声は喋り声などではなく鳴き声だった…。

   

   どんな理由で彼は泣いているのか…

  

 その声は何故か言葉であるかのように私には痛いほどに伝わってきた。それは私が親に毎晩内緒で声を殺しながら出す枯れた声にそっくりで、だからかそれが光に感じてしまった。そう彼の声を勝手に自分と同じものだと決めつけた。私はその子が欲しくなった。それはただ恋をした…などではなく、ただの自己満足に過ぎなかった。そして彼が出てくるのを待った。それから15分ほどして彼が出てくるのがわかった。そしてこっそり物陰に隠れた私は靴とそこに書いてある名前を見た。水城それは私の名前と平仮名表示で似ているため益々気になった。でも不可解な点もあった。何故か…それは彼が1年生であること。もし私と同じ境遇ならまだ入学して間もない彼がそうなるのは少しおかしいからだ。でも私はそんな事は全く考えなかった。だってそれは彼が私の


          ……唯一の光だから 


 私はそれから家に帰ってもずっとあの1年生が頭から離れなかった。あの子を考えてる度にドキドキする胸が締め付けられるようなチクチクする痛み。これが恋ならなんて一方的で重い恋なのだろう…。私はその時少し霧が薄くなり視界がクリアになった。そしてその日、興奮して眠ることができなかった。そして私は眠たい瞼を擦りながら2つの目標を掲げた。それは正しさを伝えるための復讐と彼という光を手に入れること。私はそれから保健室で1日を終える。そして帰ろうとした4月11日。一つの目標に兆しが見えた。



    

 


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