第3話 2人の秘密と1人の統制
2年女子トイレにて。
「ねぇ、美咲お前がやりなよ」
「…………」
「やんないならルカちゃんがやっちゃうよ〜」
「…もうや…」
「あぁ!?何か言った?あ、それともコイツみたいになりてぇの?」
「っ…!」
「ルカちゃんやだよ〜美咲は傷つけるのいや〜」
私八代美咲は最悪の窮地に立たされていた。遡ること中学時代。私はとても内気な性格でいつも1人だった、そんな姿を相原さんと被せていたのかもしれない。だからほっとけなかった、この子を1人にさせたくないそんな思いは逆効果だった。高校に上がり1年生になる前、今まで美容室など行ったこともなかった私だったがその日イメチェンをした。女子にモテるショートカットにバッサリと。これは俗に言う高校デビューというものなのだろう。普通は異性に好かれたいと願うが私は違うのだ…それは同性に興味があるわけではない。私がクラスのカーストを上げる…ただ、それだけの為に。そして私は本としか向き合ってこなかったその目を人に向けた。たくさんの人に…。私はソフトボール部に入った。私はそれまで運動はあまりしていなかったけど人並みには運動神経はあった。徐々に知名度が上がっていくのを感じた。私はそんな時、紺野さんに声を掛けられた。学年のアイドルとまで言われる彼女はこんなことを言った。「ルカちゃんあんたの過去知ってんだけど。何でそんなに頑張るの〜?」そんな言葉を聞いて私は血の気が引いていくのを感じた。私は何も言い返せなくなった…気づけば視界がぼやけてきて倒れそうになる時だった。
「ルカちゃんさ、家族いないの。だからさ家族になってよ。あんたのカーストなんてルカちゃんにかかれば上位間違いなしだと思うんだ〜」
そうそれは提案だった。それは2人のひみつごとなんて言い方もできる。
私はすがる思いで口を開いた。
「な、なるから…言わないで欲しい。何でもするから」
それは後先など考えない、今の自分を守る防衛策だった。それから私はずっとこの紺野瑠花という女の後ろを常にキープしていた。
そんな姿はまるで金魚の糞のようだった…。
私はそれからというものカーストはみるみる上がっていった。最初の印象は少し怖かったがこの紺野瑠花という女は根は優しかった。私はそんなある日学校の放課後あることを聞いてしまった。
「ルカはさ…家族がいないってほんとなの?」
ルカはこれまでその事には触れようとしなかった。だから私も触れられずにいた。そういう私は恐る恐る顔を見る。その時の光景は今でも忘れない。
彼女はその時…泣いていたのだ。
私はその時やってしまったと思った。1年積み上げてきたことが崩れたような音がした。でもその時はそんなことより罪悪感が勝ってしまっていて
「ご、ごめん!き、聞かないから!」
「…うわぁ〜〜ん…」
そして彼女は泣き出した。大粒の涙が彼女の目から流れる。そんな彼女はまるで捨てられた子猫のようで今まで強がっているみたいで、それが何故か偽っていた自分に被さって私の目頭が熱くなった。そこから私は瑠花のひみつを知った。それは6歳の頃に両親を事故で失ったこと。金持ちだった彼女は執事と2人で暮らしていること。
そんな私たちの2人だけの秘密事はここで強くなった。
そこから何もかもが本音だった。天野さんと出会うまでは…。
高校2年が始まって私は紺野さんと同じクラスになった。そして2人で話している時、天野さんに声をかけられた。
「あんた2人ってなんか条約かなんかで仲良くしている感あるよね」
そんな天野さんの言葉に私はすぐに否定を入れようとした。その反応は自分でも早かったと思う。でもそれよりも早いものがいた。
「ルカちゃんさ〜?テメェ見てぇなクソギャル嫌いなわけ」
「っ!はっ!?今なんて」
今にも殴りかかりそうな天野さんをケラケラ笑うルカ。それは嬉しかったけど止めないとと思った。
「ルカ。やめて、天野さん何か提案があるんですね」
それには既視感があった。
「美咲っ。どういうこと?」
「そんなんでしょう?山中出身天野るるさん」
山家中学校、それは私の母校でここまで話せば理由はわかるだろう…。
「理解が早いねぇ〜楽だよ〜。てことで早速私もその枠に入れな。そんでこのグループのリーダーにしろ」
はぁ何でこうも運に弱いのだろう敢えて遠い高校を選んだのによりによって中学時代、問題を起こしていたコイツは嫌でも覚えていた。そこから私の秘密を使い一方的に統制という形でグループが確立した。
それからというものみるみるうちにルカは性格が変わり始めていった。
それから今に至る。
目の前に広がる光景、私と趣味が合い始めてちゃんと本当の自分として友達になった相原さん。でも私は弱みを握られていて何もできなかった。
「ねぇ、美咲お前がやりなよ」
そんな姿は本当に統制で
「やんないならルカちゃんがやっちゃうよ〜」
それはまるで使われている駒のようで
「もうや…」
もうやめてというその声は簡単に打ち消された。
そして私は包丁を持っていた。相原さんに向けて…
「ほらやりなよ」
そう投げかける天野さんを横目に私は相原さんを見る。その顔は痩せ細っていて自分たちがここまで追い込んだのだと痛いほど伝わってくる。
そして目があった。その相原さんは理解ができなかった。
それは………なぜか?
笑っていたのだ。こんな事をされても彼女は笑顔だった。それはルカが天野さんに出会う前のあの弱くて脆い今にも崩れそうな…そんな笑顔だった。
そして彼女はボロボロの体で枯れた声で必死に声を紡いだ。
「わ…たし…いいよ。八代さんが生きていくためなら…」
その言葉を聞いて全てを理解した。最初から知っていたのだ。
私が本当は死に物狂いでこの立場をとったことを
「‥だってさ」
そこで相原さんがむせた。食べ物を吐いている。
「だ…だって八代さんは私の唯一のと…」
そして相原さんは倒れた。その瞬間、ルカは呪いが解けるようにハッとなり、すぐさま何処かへ走っていった。その後天野さんは事の重大さに気づきその場を逃げそれに目もやらず立ち尽くす…。私はその後担任の先生とルカが来るのを見て先生に事情を全て明かした。
私とルカの秘密以外を。
そして2年生の後半から相原さんは学校に来なくなった…。
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