第2話 私の唯一の友達
私はいじめを受けている。私高校3年になった相原美月は2年生の後半から執拗な嫌がらせを受けていた。それは2年生が始まってすぐに遡る…
その時私は小説を読むのにハマっていた。小さい頃から一人が好きでとても内気な性格だった私はそれ故に友達がほとんどいなかった。でもそれは何ともなかった、自分の趣味に周りが気づいていないという優越感が良かったかもしれない。私はその日いつも通り学校の昼休みの時間一人で本を読んでいた。私はその日大好きな作家さん飯田吾郎先生のミステリー小説を読んでいた。そして昼休みの時間が終わる頃その小説は丁度、ミステリーの種明かしというラストスパートだった。この後の5限は体育で私はあまり体を動かすのが得意では無いので休んで読みたいくらいだった。皆が女子更衣室に移動し始めたので渋々そこでしおりを挟み本を閉じ体操服の袋を持って移動しようとした時だった。
「これ!飯田吾郎先生の新作じゃん!私も読んだよ」
その声に驚くよりも前に私は身を寄せていた。
「ほ!ほんと?!私大ファンなの!」
そういう私は声の主である同じクラスの八代さんに片方の手を両手で握ってしまっている。
その八代さんはショートカットで大人びたルックスで女子男子問わず人気者という私とは正反対で、でもそれが私は余計に嬉しかった。そして八代さんは少し困っているような表情になってしまっていて
「‥あ、すみません…私こんなの初めてでしたので…」
「いやいいよ?あと敬語じゃなくていいよ。ほらタメなんだし」
そんな優しい言葉を投げかけてくる彼女になんの感情よりも純粋にすごいなと思った。
「あ、そうだ!飯田先生の作品他にもオススメ教えてよ!部活あるからすぐにとは言えないけど読むからさ!」
「わ、分かりました」
「また敬語になっちゃってるよ?」
「あ、すみませ‥あ!ごめん」
そんな様子の私に嫌味一つなくクスクスっと笑う彼女はとてもボーイッシュでかっこよく見えた。
「じゃあ、それじゃ楽しみにしとくね」
そう言って八代さんは仲のいい天野さんと紺野さんに「待った?」と言いながら女子更衣室に向かった。
それが彼女との出会いでそれから色んな作品を通して彼女と話す機会が増えていった。そして事件は起きた。ある日の昼休みご飯を食べいつも通り八代さんが天野さんと紺野さんの元から私のところへやってきた。
「昨日借りたやつめっちゃおもしろかったよ〜ヒロインの女の子可愛すぎね?」
沢山本を紹介していくうちにちょっとずつ表紙も少しオタクっぽいのも紹介できるようになっていてその日は表紙が少し幼女で可愛らしいものだった。そして暫く会話をしていると天野さんと紺野さんがやってきた。
「ねぇ。美咲あんた二人でいっつも何の話してんの?」
そう八代さんに聞く天野るるさんは厚化粧で性格は外交的といったとても私とは違う彼女でその隣にいる彼女はこの高校のアイドルなんてことも言われるくらい可愛らしい紺野瑠花さんだった。もちろん二人とも話したことがない。
「そうだよ、そうだよ〜ルカちゃんもいーれて〜」
いーれて〜という発言にクラスの男子が騒いでいて「おい、やっぱアイドルヤベェよ」なんて事を言ってる。丸聞こえだよ!女の子は地獄耳だよ!
「美月は小説が好きでね。オススメ聞いてたまーに感想話してるんだ〜」
そして八代さんは今日返しにきた少し可愛らしい表紙を二人に見せようとする。そこで私は
「だ、だめ!」
そう口に出してしまっていて…
しかしその抵抗はもう手遅れでみせてしまっている。そこで二人の表情が変わった。天野さんの上手なメイクで書かれたパチパチした目が薄目になり、紺野さんの顔が地下アイドルの裏の顔のような表情になる。
「あのさぁ前々から思ってたけど、私たちの八代独り占めしようとしてね?うざいんだけど…ていうかテメェみたいなオタクがなんで私の友達と喋ってんの?」
天野さんに続けるように紺野さんも口を開いた。
「あのさぁ〜ルカちゃんこういう2次元に走る人って3次元で楽しめてないっていうかさ…
そして耳元で囁くように、
どっか違う世界にでも行ったら?」
そして本をビリビリと破いていく。先ほどの男子が「お、おいこれやばくねぇか?あれ相原さんのだろ?」と言いながら何やら騒いでいる。
表紙をグシャグシャにして私の机の上に投げるよう置きながら「あぁースッキリした」と言いながら私を見下すようににやけている2人。私は天野さんと紺野さんのそんな行動に目元が熱くなるのを感じた。それは八代さんとの関係を言われたからでもなく人生を謳歌できていないと決めつけられたことでもなく私の趣味自身を根本から否定されていることにだった。
「私にはこれしかない、私にはこれしかない、私にはこれしかない、私には‥」
私は息がしにくくなった。はぁはぁと今にも倒れそうな荒くなる息に周囲の目が増えたのを感じる。
「…美月、だ、大丈夫?」
そういう八代さんの顔は初めて見た。今までどんな時も笑顔を崩さない彼女。これが八代さんの本当の顔なんだと思ってしまった。それは他でもない天野さんや紺野さんのせいなのだろう…。
「ちょっと!二人とも流石に言い過ぎだよ!その表紙の子だってめちゃめちゃ可愛いんだから!」
そう言ってくれる彼女の優しい言葉は今は同情にしか聞こえなかった。
「美咲そいつに変なものでも吹き込まれてんじゃない?」
そこから罵詈雑言が続く。そこからの記憶はほとんどなかった。
私は震える手を頑張って止めるだけ。
叫び出したくなる気持ちを抑えるだけ。
それから八代さんは暫く庇っていたくれていたが私が「ひとりにして」というと彼女は一人にしてくれた。そして次の日の休み時間から八代さんがくる事はなかった。
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