二人のひみつごと

美波

第1話 終わりから始まりの一歩へ

 少し肌寒くなり夕日が沈み出し始めた頃…。

その夕日がよく見える…ここ桜の宮高校の屋上に僕は立っていた。

そして僕は深く俯き、深呼吸をする。

 僕、水城秋はこの生涯を終えようとしている。もし次があるのならもっと楽であることを願いながら…。

 さようなら…

僕は目を瞑り、揃えた足を一歩前に…

 それは———

僕が選んだ一歩であり…

恐怖の一歩でもあり…喜びや快楽や解放への一歩でもあった。

そんなすごく重くて思いの詰まったその一歩は終わりを意味する一歩だと…

 

そう思っていたはずが…


「赤色の上履き…君は一年生だ!」

 その声は僕の思考を遮るように聞こえてくる。僕は覚悟を決めていたはずなのに安堵で倒れそうになる。乱れる呼吸、ボサボサになった髪、シワだらけのブレザー。その声の主は夕日に似合う上品な笑顔で僕の返事を今か今かと待っている。そんな彼女は学校指定の制服にロングコートを着ていて、髪はセミロングの可愛いより綺麗めでとても目を奪われるほどだった。僕は普段から人と話すのに慣れていない、ましては青の上履き…二つ上の三年生、それに加えて異性なのだ。それでも無視じゃあんまりなので文字通りの死への一歩から彼女への淡い期待へ踏み出し、体ごと彼女に向けることにした。

「そんなところで何してるの?」

 そんな質問をする彼女はそれでも笑顔を取り繕っていた…奇妙なほどに。

 彼女のその質問に見て分からないのか、と思いながらもできるだけオブラートに包みながら答えることにした。

「楽しい世界に行くんです」

 その直接的な言葉を聞き彼女はここで初めて怪訝そうな顔になる。少しの沈黙の後、彼女の手が震えていることに気づいた。そこで気を使われていることが伝わり無性に腹が立った。そんな僕を前に一度も目を逸らさない彼女はまたクシャッとした笑顔になって何やら深呼吸をしている。

「…お!いいじゃん私も連れてってよ」

 そんな意外すぎる言葉を投げかけてくる。だがそれと同時に軽々しいという言葉への怒りが芽生え膨れていくのをグッと噛み殺した。

「…どういう意味ですか?」

 あからさま拍子抜けた声を出してしまう、彼女の言葉に動揺して思考が完全に停止してしまっているのだ。すると、彼女は慌てるように言葉を付け足した。

「ほらほら!その前にさ、これが心残りになっちゃうとかないの?」

 心残りは思い付かなかった、思い付かないというよりそんなもの無いと願うしかないのだろう。

「無いです…」

 小さな嘘で返した。ひよこのような小さな声に自分でも驚いたがこれが僕だとすぐに自己解決した。

「そっか。奇遇だね。私もこんな世界飽き飽きなんだぁ…」

「?」

 僕はその言葉は明らかに嘘をついているようにしか思えなかった。僕より遥かに容姿に恵まれている彼女。人を容姿で判断するな、なんて事を言う人もいるが容姿が悪い僕からすると容姿の良い人には悩みは少ないという偏見を持ってしまっている。多分第一印象があまり良くなかったからかもしれないが…。それ程に彼女の容姿が美しいのかもしれない。

「一つ先輩の頼み聞いてくれない?」

 そこまで笑顔だった彼女が真顔になるとそれに合わせるように風やあらゆる物そして、音全てが無いものだったと思えるくらいに、彼女以外の全てが。

無い…いや消えたのだ。僕は息を呑み、深呼吸をする。

「最後くらい人の役に立たせてくれるんですね」

 それは泣き寝入りみたいなものだった。何を言っているのか馬鹿馬鹿しくなったが、僕はそれでも最後にこの人に賭けてみようと思えるくらいに彼女は真剣なのだ。

「私の…」

 その時僕は彼女に魅了されていた。何が起こるのか分からないこの世界で何かがまた起ころうとしている事へ、心や体の運動神経、感覚神経全てで感じ取りながら

「私の復讐に付き合って?」

 ここで僕の思考は本日二度目の停止をする。思っていた内容とは遥かにかけ離れていたからだ。でもそこにあまりの衝撃に期待が膨れ上がっていくのを感じるのであった。

 今日4月11日僕は初めて出会った2つ上の先輩にここ夕日が綺麗で少し肌寒い桜の宮高校の屋上で命を…そして、

終わりではない

始まりの一歩をも貰った。

 

























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