第5話 ある公爵令嬢の婚姻・その五


「失礼しまーす」

「レオンさん、靴を履き替えてください」

「上着はお預かりしますね」

「胸当てと肘当てと膝当て、持ってきましたよ」

「えっ、ちょっ、皆さん!」

 わらわらと集まってきた使用人仲間に、軽装ながら、闘えるように着替えさせられた。


「僕が立会人でーす」

 いつの間にか端に移動したダニエル様が元気よく、右手を上げた。

「自身で負けを認めるか、相手を戦闘不能にするか。顔は狙っちゃだめですよ。姉上とレオンの顔に傷がついたら、僕が二ルリナ嬢に怒られてしまいますからねぇ」

 そんなことは言われるまでもない。

「私、とっても強くなったわよ」

 お嬢様が剣を構える。

「そのようですね」

 ずっと見てきましたからね。

「レオンさん頑張ってぇ」

「お嬢様もお怪我に気をつけてくださいねぇ」

 侍女や、料理人やら、庭師の爺やまでが集まっていた。

 皆さん、今日は仕事が終わるまで、ひとりも帰しませんから、そのおつもりで。

「では、始めー!!」


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 ・

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 ・

 心臓の音しか聞こえない。

 どっちの音かも判別不能だ。

「もう、あと少しだったのにぃ!」

 悔しそうに、涙目になりながら叫ぶ。

「お顔が、ぐちゃぐちゃになってしまいますよ」

「あなただって、綺麗な顔が困っているわ」

 お顔が近過ぎるんですよ。

 バランスを崩したお嬢様を庇い、私の上に折り重なるように倒れた。

 今、息がかかる程近い。

「いつも言っていますが、男性に綺麗は、褒め言葉ではないですよ」

「知らないわ。レオンは初めて会った時から綺麗で、今日も綺麗で、ずっと目が離せないもの」

 こんなに間近で、見つめられるのは初めてだ。

 本当に美しくなられて。

「でも、負けてしまいましたよ」

「……そうね……私の勝ちね…………」


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