第4話 幸福感

耳かきすんごい極上級に気持ちいい。ヤバい。これハマるわ。次は耳クソ溜めて来ようかな。あのおばさん達に感謝だなこりゃ。俺の家おかんが綿棒派だったから耳かき怖いんだけどそんなことをかき消すくらいに心地いい。

それに耳かき屋さんってすごいんだな。見たことない機械がたくさんある。今俺は耳かきと小型カメラみたいなのを耳に突っ込まれてるからカメラで写ったのをモニターに写してる状態。うわぁ〜汚ねぇな。店員さん毎日色んな人の耳クソ見てるのか。俺だったら絶対無理だわ。

「痛くないですか?」と尋ねられる。

「あっはい、丁度良いです。」と答える。

こうして今リラックス出来てるのは本当に幸せなことなんだろうな。人間はこんな素敵なご褒美があるから日々頑張って生きてるのかもしれない。明日を生きる意味の答えを見つけるために俺達は生きていくんだな。

すると、

「何故ここに来てくださったのですか?」

えーっと、、ヤバい。コミュ障バレる。

「あっ、えっと、、バスの中でお年寄りの方がここの耳かき屋さんを噂してて」

なるほどと言われてその会話は終わった。

もう寝てしまおうかと思ったが寝るのは勿体ないと謎に強がってしまった。あのバスの中みたいに咄嗟に声が出れば良いのに。だが、俺は店員さんに尋ねた。

何故耳かき屋さんを始めたのかと───




質問してしまった私。いやぁ今までのお客さんの中で1番緊張したよ。イケメンと話すのは私にはまだ早いのか。笑

「あの、何故耳かき屋さんを始めたのですか?」

何故耳かき屋さんを始めたのか?か。

そういえばお客さんに質問されたことなかったから嬉しいな。




答えが帰ってこない。もしかして俺聞いちゃいけなかったこと聞いてしまったのか?

微かにニヤついてるようにも思えるが。

「えっとですね。あまり考えたことなかったのですが、、。実は私、最初から耳かき屋さんになろうとなんて思ってなかったんです。なので毎朝何故耳かき屋なんて始めたんだろう。と思っていました。毎日毎日色んな人の耳クソを見て嬉しいなんて思ったことないですし。笑それに大半はお年寄りで毎回ベトベト系かな?カサカサ系かな?と予想してました。笑なのでどうして貴方様のような若いお方がここに来たのか気になって先程聞かせてもらいました。」

うんうんと耳かきをしていて危なくない程度に相槌を入れる。

「私は昔占い師になりたくて。色んなタロット占いとか色々やっていたのですが、中々上手くいかず。人生上手くいくとは思っていませんでしたがやはり向いていないのかなと思い落ち込みながら家に帰ると、母が久しぶりに耳かきをしてあげると言ってくれて懐かしい気持ちにもなりながらしてもらいました。すると今まで溜め込んで来た思いが耳かきと共に掃除されてく気がして。一生こうしていたいと思ったんです。」

なるほどと思わず声が出た。

「だから決心して耳かき屋さんになろうと思いました。とりあえず家族の耳を貸してもらって練習を沢山しました。占い師を目指してたこともあって耳かきをしながら会話したりするとその人の事が少し分かったりもします。それは悲しいことや辛いこともしばしばありました。それについて同情はしませんでしたが人の癒しというのは寄り添うことだけは出来ます。でも1つ見えたのが嫌なことが半分ある代わりにちゃんと良いことや幸せだなと思う瞬間も半分あるんです。人生は嫌なこと、良かったことは半分こで出来ているのかな。とそう思いました。勝手な想像ですけどね。そしてある日、1本の電話がかかってきました。父が交通事故で他界した、と。聞いた時はさすがにショックで寝れませんでした。でも次第に私はきっと父はそういう運命だったのかなと思うようになりました。お母さんは泣き崩れ目をパンパンに腫れさせて頬が荒れていました。最愛の人が亡くなるのと同時に葬式でのストレスが重なり私は母の姿を隣で支えてあげる以上何をしてあげたらいいか分かりませんでした。ですが1つ思いついたんです。それが耳かき。耳かきをしていくうちに母は寝ていきました。起きた後はいつもの母に戻ってました。ホッと安心しました。母が壊れるんじゃないかと思っていたので。良かったです。今でもあの光景は頭に浮かびます。あとは、そうですね。寝落ちしてる母を見てたらなんか可愛いなと思いました。笑」

フフッと店員さんは笑う。こんなにも人を幸せな気持ちに出来るのってすごいな。幸せにできなくたって幸せな気持ちになってほしいと思えるのいいな。いいな。俺もこんな人になりたい。と少しだけ嫉妬心が生まれた。だがその嫉妬はある意味憧れなのかなとふと思う。

店員さんは人に安らぎを与え悩みや辛い気持ちを解放してあげるというのが、やりがいで耳かき屋を始めたらしい。仕事や何かに囚われて怯えた人生をそれ以上の極楽で癒してあげる。その考え、俺はとても好きだ。悪があってもそれ以上の善で包み込む、か。俺はじわじわと眠たくなるのと同時に胸が熱くなった。あ、バスの中で言ってた心の奥まで掃除してくれるとはこのことだったのか。頭がボーっとする。

そしてすべての溜まってた疲労や悪の感情が耳かきとともに外に流され気持ちよくなった。きっと今日の帰りのバスは自分が幸せ者っていうシチュエーションの妄想なのかもな。そのまま俺は知らない間に眠っていた。

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