友情結婚の婚活をしようと思ったのは

 ある日、課長に『ちょっといい?』と呼び出されました。


 こういう呼び出し方をされるときは、むしろ重い話が多いということを経験上知っていましたから、私は気合を入れて会議室へと移動しました。


「ダイバーシティに興味ある?」


 椅子に腰かけると、課長は開口一番そう言いました。


「だ、ダイバーシティですか?」


 お台場のあれじゃないですよね、とは流石の私も言いませんでした。


 要は『あなたはダイバーシティを推進する箇所に次の春から異動ですよ』というお話でした。


 しかも、私の担当はLGBTQ+の支援とのこと。


 LGBTの単語の意味さえ正確に言えるか自信がない状態だったので、まさかそんなところに配属されるとは、というのが正直な感想でした。


 そんなわけで不安がないわけではなかったのですが、配属されるまで少し時間があったので、せめて基礎知識くらいは勉強しなければと思い、本を買って勉強を始めました。




 勉強を始めますと、本当に奥が深い分野なのだということに驚きました。


 LGBTというのはレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字なわけですが、この4つ以外にも、たくさんのカテゴリーが存在している。


 Xジェンダー、クエスチョニング、アセクシュアル等、とにかくたくさんの細分化されたラベルがあり、それぞれを自認されている方がいるという。


 勉強すればするほど興味深くはあったのですが、その中に、自分もまさにこれに当てはまるのでは、というマイノリティのラベルがあったのです。


 そして、今度はそのラベルに特化して調べてみることにしました。当事者の方のブログを読んだり専門書を読んだり。そして、『あ、自分、まさにこれだ』という結論に至りました。


 LGBTQ+の自認にそこで初めて至ったわけです。




 そりゃあ婚活なんてうまくいかないわけだよね、と妙に納得しました。後で知ったのですが、婚活をきっかけに自分がLGBTQ+だと自認した人は実は結構いらっしゃるみたいです。


 それはともかく、自分はLGBTQ+だから、もう結婚という道はないのかな、と思ったのですが、LGBTQ+の人で友情結婚を選択する人がいるということを知りました。


 お互い恋愛感情はないけれど、家族になることを選択する人。そこで改めて結婚するのか、しないのか、ということを考える必要が出てきました。


 友情結婚の道を模索するか、逆に自分はLGBTQ+だから結婚しません、とカミングアウトしてしまうか、私がとるならまずこの2つのどちらかだなと思いました。


 正直、後者の方が自分の性格には合っているような気がしました。冒頭にも書いていた通り、私には結婚願望というものがまるでなかったからです。


 ところが、ここで運命のいたずらのようなことが起きます。


 もし結婚しない道を選ぶなら、延期していたマンション購入を真剣に考えよう、と思ったのですが、なんとその考えに至った段階で、ちょうど部屋の更新ハガキが来てしまったのです。


 たった2か月で更新するのか、退去するのか決めなければなりませんでした。


 流石にマンション購入という大きな買い物を、仕事の片手間でたった2か月で決めるのはやめておこう、と思い、更新の道を選択しました。


 しかし、決して安くない更新料を払ってしまったからには、すぐに退去するのは貧乏根性が許しませんでした。


 そこで、この1年婚活の方を頑張ってみて、ダメなら諦めて生涯独身宣言をしてマンションを購入しよう、と思ったのです。


 こうして、友情結婚のための婚活を始めることになったのです。

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