35 セレジュの遺書③

「正妃様に意見を求められた時、教師がデタームかセルーメになる様に条件をつけました。

 結果的に私はデタームにまず再会できました。

 彼はまず手土産として、六角盤を持ってきてくれました。

 私達は侍女や小間使いの居る中で、将棋を指しながら教育方針を話しました。

 侍女達は私が変わった盤で指しているとは思っていたようですが、そもそもそれが何なのか判らないので余計なことは聞いてきませんでした。

 そしてその終わり都度手紙を渡しておりました。

 将棋は対戦でもありますが、一種の会話でもありました。

 私は言葉の上でそらぞらしく教育方針について述べながら、指す手の上で、それは本当、それは嘘、と常に彼に言い続けていました。

 そしてやがて、セルーメにも手紙で連絡がつき、私の現状をデタームが詳しく教えてくれました。

 彼等は私とまた一緒に居たい、と願っていました。

 私も無論そうでした。デタームと再び指した時、どれだけ嬉しかったことでしょう! 

 死んでいた心が生き返ったのです。

 セルーメとも手紙打ちを始めました。

 手紙一つに一手を指していくというものです。

 それでも彼の帝都での研鑽は判りました。

 ですから今度は彼にも会いたい、実際に指したい、という気持ちが膨らみ、二年後、クイデの教師にと指名しました。

 前回がデタームであったことから、彼の起用は簡単でした。私達はようやく、三人顔を合わせることができました。

 そして様々な手を打ち、ようやく三人だけになる時間を時折取れることができました。

 それはこの盤上遊戯と同じです。

 王宮及びその予定においてつ何処で誰が、ということを完全に把握しておくこと、そして離宮へ行く計画等、その辺りを周到に組み合わせ、隙を作らないことで、本当に僅かな時間、私達は三人で至福の時間を過ごしました。

 決して男女の関係ではありません。

 それは誰も望んでおりませんでした。 私達はただ、思う存分に腕を奮いたかっただけなのです。

 もし、私があのまま伯爵令嬢のままでいたならば、どちらかと結婚して片方と友人関係を続けていくことができたでしょう。

 そしておそらくその場合には白い結婚になったでしょう。

 そんな関係が信じられないとしたらそれは仕方がありません。

 私達はただもう、同等に盤上遊戯に憑かれた者だったのですから。

 しかし、一度その至福の時間を過ごしてしまうと、そこで幾つかの思いが生じました。

 何故こうなってしまったのか、です。

 国王陛下にぶつけても仕方ありません。そういう話がくれば断れないことは皆よく判っておりました。

 だから、断れない体制と国に目標を据えて、それらを相手に将棋を指すことにしました。

 傍から見れば子供めいている理由でしょう。

 でもそれが最大の動機でした」

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