33 セレジュの遺書①
「最初の遺書です」
そう言って、バルバラは読み出した。
「この遺書が見つかる頃には、私は既に亡いものと思われます。
さてそうなったからには、全てを白日のもとに曝しましょう。
まず今回の大目的は『この国がいつ隣国に襲われても破れる様に下ごしらえすること』でした。
そのために協力してくれたのは、私の昔馴染みのデターム子爵とセルーメ子爵です。
最初にこの計画を考え出したのは、私が第三側妃として王宮に納められた時でした。
何故なら、私はそもそも側妃にはなりたくなかったからです」
「……何だと……?」
国王の表情がさっと変わる。
セインも同様であった。クイデだけがそうでしょうね、と言いたげに目を伏せていた。
「国王陛下の夏離宮と伯爵領とが近かったがために、私は確かに陛下と昔馴染みでございました。
陛下も決して嫌いな訳ではございませんでした。
ですが、側妃となると話は別です。
まず、我が家が断ることはできません。両親は光栄なことだと思い、私も客観的に見ればそうだろう、と判ります。
ですが、私は当時、待っている二人が居ました。
それが、バーデン・デタームとカイシャル・セルーメです。
二人のどちらかを愛しているとかそういうことではありません。
その様な感情は、少なくとも私にはありませんでした。
ただ、彼等と複数参加将棋をもっともっと極めたかったのです。
あれは本当に素晴らしい競技です。
頭と体力をぎりぎりまで使って、最善の一手を考えだし、相手を叩きのめす。
その瞬間の喜びときたら!
父から教えてもらって以来、夢中になってしまい、母からどれだけ怒られたでしょう。
この将棋をするために、他の淑女のしなくてはならないことを全てマスターしました。
そうしなければ、私が本当にしたいことはできなかったからです。
できれば、私自身帝都へ行って本場のそれに参加したかった。
だけどそれは無理でした。
だから、幼馴染みであり、この将棋に関して、それこそ夜を日を徹して対戦してきたこの二人が戻ってきて、また私としのぎを削ってくれることをずっと待っていました。
ですが、そこに第三側妃になる様に、という依頼が来ました。
両親は踊り出すくらいの喜び様でした。
ですが私は、そこで全てが終わった、と思いました。
私の感情はそこで消えました。
側妃となったら、彼等と将棋はできない。
彼等を待つことを大っぴらにすることすらできない。
だったらもう生きていなくてもいいか、と思いましたが、そんなことをしたら両親が、伯爵家が取り潰しになると思いました。
でも、その一方で、浮かれる両親を見ながら、どうでもいいか、という気持ちにもなりました」
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