12 ランサム侯爵を名乗っていた男の告白②

「手紙。それは、過去の知り合いからですね」

「そう。ただ誰からか、というものではなかった。名は記していなかった。だが、当時を知っている者であることは確かだった。そいつから、流刑地からの脱出を示唆された時、俺は乗ったよ」

「その時の手紙ですが」


 バルバラは資料を繰る。


「六人。貴方以外の五人全てがこの十年のうちに帝国司法省によって逮捕されております。彼等にも皆、手紙が来た、ということでした。となれば、手紙を出したのは、ラルカ・デブン、貴方ではないか、と言われていたものです。ところが貴方は、貴方自身がそれを受け取った、と言った。つまり貴方が出したものではない」

「回りくどいな。そうだよ。俺のところには差出人の判らない手紙が来た。そして返答の仕方もあった。ただし基本俺等に外から来る手紙は検閲されることを前提としていたから、暗号だったがな」

「底本を先に示唆した上での、数字指定ですね」

「そう。あんたの親父は流刑地にすら図書館を作る気前の良さがあった。だからそこを利用していた。共通の底本はそこに確実にあった」


 どういうことなのか、とセインは国王にそっと問いかけた。

 本当にお前は何も知らない、とつぶやいた後、父王は彼に小声で告げる。


「同じ本を持っていた者同士が、何ページの何行何文字目、と指定する。するとその者同士のみに、どんな文字が指定されているか判る、という方法だ」

「何故それが暗号なのですか?」

「底本が何であるか判らない限り、それは解けない。だからこそ秘密文書を扱う時に、それは有効になる。これは王族でも、よく行う方法だ。私も時々活用している。お前も知らなかったなら知っておいた方がいい」


 父王の言葉はセインに突き刺さる。

 一体どれだけお前は物事を知らなかったのか、と無言で突きつけられているかの様に。


「となると、六人以外の首謀者が居るこということになりますね。その人物に関しては」

「残念ながらそれに関しては、俺は知らない。ここまで来て嘘をついても仕方がない。失うものなど何も無くなったのだからな」


 マリウラはやや心配そうに彼を見上げた。

 この男に関しては、本当に何も知らぬ小娘に対し、たった五年で令嬢の顔を仕上げた、やたらに切れる男だ、という印象しかなかった。

 だがその裏にはその様な感情があったのかと。


「ではランサム侯爵になりすますこと自体も指示だったと」

「そうだ。ただ、本来のランサム侯爵一家を殺害したのは俺ではない」

「証拠は?」

「無い。だから信じなければそれはそれで良い。ともかく俺は空になったランサム侯爵の屋敷にやってきて、指示された様に、領内から王子の好みそうな娘を見繕い、王宮に送り込める様に貴婦人教育を叩き込み、後は領地を屋敷以外売り払って王都に来た。そろそろ領民も怪しんでいたからな」

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