夏の迷子

 冷夏だ水不足だと言われていたが、七月の台風以降はダムも満ちて、スイカのうまい猛暑が続く。

 ふと、昨年暮れの出来事を思い出した。


 二階の天袋からホットカーペットを出していた時、何かがひらりと落ちてきた。一センチほどの、ごく薄い紙のようなもので、厚さは一ミリも無さそうだ。屈んで拾い上げようとした俺は、その正体に気づいて背筋を冷やした。

 トカゲだ。色こそ褪せているが、緑の皮膚には人工では造り得ない艶がある。小さな手足には指が揃っていた。尻尾もある。

「理緒。これ、夏に迷い込んだ奴だろ」

 この年の夏に、理緒が一階のピアノ室で「トカゲが入ってきた」と騒いでいたのだ。

 ペラリとした遺体を見て、理緒が言った。

「南無三」

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