UENO

「今、平気?」

「うん」

「上野来ない?」

「遠いよ」

 私の最寄り駅は東海道線の辻堂駅だ。

「いいから。お願い」

 電話越しの声が震えている。

「上野で何があるの?」

「知り合いの刑事さんの結婚式」

「私他人じゃん。やだよ」

「そう云わずに。二次会だから、身内だけだし」

「余計だめじゃん!」

「実は……。探偵のバイトで依頼人だった方がいらしてて」

 はっとした。艶めかしい女性の声がマクロに話しかけている。「早く行きましょ」だの、「フミちゃん」だの。

「す、すみません。僕もう」

「ほら、早く!」

 雲行きが怪しくなってきた。

「たすけて、ゆっこちゃん」

「分かった」


 私が携帯と財布だけを手に持ち、夕暮れの街へ飛び出したのは云うまでもない。

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