京橋駅前

「てっちゃん」

 田村は子供のように両手を上げて俺を呼んだ。

「バカ。目立つだろ」

「ひひ」

 嬉しそうに喉の奥を鳴らす。

「どしたん? 元気あらへんな」

「お前が元気過ぎるんだよ」

 白に近い金髪が風に揺れている。「茶髪禁止の現場多かってん。せやから、目一杯弾けよ思うて」という理由で脱色したらしい。ブリーチ剤650円也。

「すっかり自由業に染まっちまったな」

 羨ましいなどとは、口が裂けても云えない。

「てっちゃんは、おれとちゃうくて立派やから」

 少し苦さの混じった声で云う。

「お袋さん、まだ怒ってるのか」

「そらー怒るやろう」

 あっはっは。田村は高く笑う。その横顔に見え隠れする覚悟と誇りに目を奪われる。


「俺はお前が羨ましいよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る