火を掴む
明け方。田村からのメールを見た。
「魂の喜びて、なんやろ?」
変わり者で通っている友人は、先月仕事を辞めて漫画家になった。夜勤明けの研修医にとって、田村は眩しい。
文章を書いていたことがあった。遠い昔のことだ。燃える手で文字を綴った。夜も朝も昼も。
今はもう、何も書いてはいない。
小説を「天帝に捧げる果物」と記した偉大な先人のようには、俺はなれなかった。だから俺は炎を捨てた。唯一俺を生かす炎を、俺は自ら吹き消したのだ。
だが俺は知っている。俺は人々の喜びのために医学を志したのでは毛頭無く、ただ安定を得るために魂を売ったのだと。
かすかな予感がある。
俺は、いつか再び炎をこの手に掴むだろう。そんな気がする。
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