S区

 この街には猫が多い。

 噂には聞いていたが、越してきてびっくりした。仕事の行き帰りに転々と佇む猫々々。やっべー、たまんねー。

 そんなことを話していたら、呆れ顔のそうに「ガンジは野良猫を可愛がっても、引き取りはしないだろ。やめた方がいいよ。そういうの」と云われた。

「餌はやってないぜ」

「そういう問題じゃなくてさ。猫に期待させるなってこと」

「何か喰えるかもって?」

「そう」

 俺は云い返す言葉もなく黙り込んだ。見かける猫全匹を救えないなら、一匹たりとも手を出すな。草が云っているのはそういうことだ。

「だったら、お前は何なんだよ」

 いつだって、誰かれ構わず助けようとするくせに。草は猫のような溜め息を吐いた。

「うるさい」

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