鈍行列車

 あの頃、私たちは旅をしていた。


 五枚綴りで一枚の青春18切符を三人で分け合い、西へ向かっていた。沢野はしきりに頭を振り上げて伸びすぎた前髪を目の前から消そうとしていた。

「あと少しで京都だぞ」

 川嶋は半笑いだ。

 私は「古寺百名鑑」に夢中なふりをしながら二人の会話に耳を澄ませていた。

「今日はホテルに泊まろうよ」

 沢野が甘ったれた声で云う。

「馳に云えって」

 川嶋が無責任なことを云った。

「ホテルだって? バカなことを」

 私が云うと沢野は悲しげな顔になった。

「学生って貧しいな」

 沢野が云った。

「高校生だからな」

 川嶋は相変わらず半笑いだ。

 車窓の外を流れ去る見知らぬ街の灯り。地を這う流星たち。


 光はやがて去り、私は年を取った。

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