第2話夏の始まり

7月下旬:県立葉見高等学校


「おい、カネヒロ随分としんどそうだけど大丈夫か?」


「死にそう」


38℃この炎天下の中体育館に並べられ長期休みに入るための儀式。これを乗り越えられず熱中症という最悪な夏休みのスタートをきる生徒も少なくはない。


全国の高校で行われているらしいが自分達が通ってるこの学校も例外ではないらしい。


「そこ!先生の話の最中に私語をするな!」


「「うぃーっす」」


おそらく体感39℃風邪である自分が何故死にかけながらたって聞いているのかというと時は少し前に遡る。


「目が痛いから寝かせてくれ?」


昨日家に帰還した後玄関で寝てしまい一限目に間に合うべく走って学校に向かってなんとか間に合ったのだったのだが、眼の周りが熱すぎてとうとう頭痛まで起きたのだ。


「はい…ほんとに…辛いんで…そこで寝ても構いませんよね?」


「いつもあんなに元気に寝に来るのに今日は本当に辛そうだな。寝てもいいぞ」


「ありがとうございます」


そう言って俺はポロシャツを脱ぎ白い布団に入ろうとしたのだが


「あっ忘れてた。今日終業式だからそれだけは出ろよ」


「」


「なんだその死にそうな顔は。まあ終業式には死んでも出ろよ~」


とまぁ、保健室の先生とそんな感じのやり取りがあり必死こいて立っているのである。


「であるからにして~川に生徒だけで行かず~これで校長先生からのお話は終わります」


パチパチパチとまばらな拍手が主に教師陣が立っているところから聞こえてくるが生徒が固まってる方からは少ししか聞こえない。


皆早く終わってくれと願っているばかりで誰も聞いてはあるまい。そんな中1人で10人分程の拍手をするようなふざけたやつ数人いた。


「では次に生徒会長からの一言。生徒会長望月希香、壇上へ」


進行役の先生が彼女を名指し、堂々と壇上に上がる。彼女はどこか涼しい顔をしながら汗ひとつかかない華麗で綺麗な顔立ちや佇まいをしている。


キーン


寝てたやつ

気を張ってたやつ

近くの人と話してたやつ


皆彼女の方に集中した。

Schlaf.Und vergessenねむれそして忘れろ


よく聞き取れなかったが何かを声で発したのだけはわかった。それを聞いた者は次々と倒れた。


俺は眼がマグマのように熱くなり片手で頭を抑え下を向いた。なんとか痛みを堪えながら前を向くと自分と彼女以外は床と顔を触れ合わせていた。


そう壇上の上からこちらを見てくる生徒会長望月希香と俺以外は


そして一言


「あなただったのねカネヒロくん」


「ハァ…ハァ…何をしたんだ!生徒会長!」


なんとか声を振り絞り彼女に食いかかる勢いで叫んだ。


それに呼応するように生徒会長はコツコツと壇上から膝を手で抑えながらなんとか立っている俺の前まで降りてきた。


「ふーん。どうやって覗いたかは知らないけど外からきた魔術師ではないことだけは確かのようねその身体もしかして突然変異でもしたの?」


俺の顎を二本指で彼女の顔の前まで持ち上げキスでもするのかという勢いだった。


「俺の…質…質問に…答え…ろ!」


「話す気力程はありそうね。そうね…カネヒロくん。ただの視力が良いだけの貴方がどうして今朝私達の結界の中を見れたのかしら?もしかして目が良かったのってその眼のおかげ?」


やばい…俺も…倒れ…


「仕方ないわね。『血は馴染みあるべき姿に戻る』」



望月が指を噛み血を数滴俺の頭にかけた後もう一度「何か」を発すると俺の身体は軽くなり眼の熱さは残ってるが頭痛も消え去った。


「身体が軽い?」


「回復させてあげたのよ。貴方程度であれば体力程回復させてあげても問題ないと判断したからよ。とりあえず落ち着いたかしら?」


「落ち着いたも何も他のやつらになにをした!」


周りで倒れてる生徒や教師を指さし元凶である彼女に詰めよった。


「それを答えたら私の質問に答えてくれるかしら?」


「ふぅー……分かった」


俺は一旦深呼吸をして息を整える。


「交渉成立ね。じゃあ答えてあげる。他の生徒や先生方には私の声を通して眠る魔術よ。この事は皆には記憶は残ってないはずだわ。これでいいかしら?」


「魔術?意味がわから」


「答えたわよ、次は貴方の番。今朝私を見たのはあなた?」


「それは……」


俺は訳が分からず記憶を探る。しかし思い当たる節はなく黙っていた。


「その沈黙は肯定と受け取るわよ」


答える暇もなく彼女は息付く暇もなく


「なら殺されても文句は言えないわね」


そう言うと彼女は指先に黒い点を生み出し心臓を撃ち抜いた。



息は出来なくなり、吐血し、走馬灯すら見させてもらえず、ただ殺されてくという実感を感じながら苦しみ、彼女を見上げたまま息絶えた。



そして俺の日常はこの時をもって肉体とともに殺されたのである

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