祖先の住まう山
少年はいつも山を眺めていた。晴れの日も、雨の日も、いつでも眺めていた。村には狩りや採集、家事と仕事はいくらでもあった。しかし少年は、そのどれもになじむことが出来なかった。やらないわけにはいかなかったが、手を止めて、ぼーっと山を眺めていることがしょっちゅうだった。仲間からは山憑きと呼ばれ、常々からかわれるようになった。
彼の見つめていた山は、部族にとって霊峰だった。頂上は常に白く染まっており、彼らはそこに先祖が住まうと考え、固く侵入を禁じていた。
少年はなぜ自分が山を見ているのか、なぜ山に目を向けてしまうか考えた。どうして自分は他の人と違うのだろう。なぜ同じように出来ないのだろう。考えたが、原因はわからない。きっと山に取りつかれているのだ。皆がいう通り、山にいる祖先の霊が、自分に何かを語りかけようとしているのだと思うことにした。そう考えると、自分が特別に感じられたからだった。
少年は毎日その山を見ていた。そのおかげか、彼の目は村で一番遠くまで見渡すことができた。その視力で山を見ると、それは少しづつその姿を変化させていることに気づいた。ずっと同じだと思っていたが、山は色を変え形を変え、生き物としての息遣いを少年に感じさせた。調子のよい日は、そこに動物がうごめいていることも認識することができた。
ある日、彼は狩りに連れ出された。彼の優れた目は狩りに役立つと皆が気づいたからだった。
結果として、狩りは大成功だった。同行した仲間は皆彼を称えた。彼は初めて皆に認めてもらえたと思った。彼はうれしかった。山を見続けたおかげだと思った。あの霊峰が自分に幸せをくれたのだ。山に目をやると、一瞬だけ、キラリと何かが光るのが見えた。
その探検隊は、巨大な山脈を乗り越えその地を見つけた。本国では労働力の不足が重大な問題であり、彼らの任務は植民地並びに奴隷の確保だった。
「隊長、前方に先住民族のものと思われる集落を発見しました」
双眼鏡を持った若い隊員が伝える。
「よし。これで本国への土産ができたな。奴らも光栄だろう。我が国で先進的な生活ができるのだから」
そう言って隊長は笑った。
ショートショート集 @tanaka_itirouR
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