第15話 宣戦布告

 ローズクリーク。

 アーロンの手配でこの日、昼間なのにこの町は静まり返っていた。町から女や子供、老人は退去させられていた。しかし建物の影や、屋根、ガラス窓の向こうには屈強な男たちがいた。アーロンの軍隊だ。

 そんな中、一人の男が町の真ん中の通りを歩いてきた。町の中央、銀行の前で男は立ち止まった。三名のガンマンが男を止めたのだ。

「スモールクリークから来た。今日が約束の日だな」

 男はイーノックだった。イーノック・エイムズ。クラリッサの幼馴染のガンマン。

 スモールクリークの町民たちはアーロンに対して「引っ越すための時間を十日間欲しい」と申し出た。アーロンはそれを承諾し、町民たちに時間を与えた。そして今日が十日目だった。

「引っ越しは済んだか」

 ガンマンの内の一人が訊ねた。イーノックはふらりと横に目線を投げた。それが合図だった。

「ああ、町のみんなで考えたんだ」

 これで二秒。

「取引についてだ。町か、女か、だったよな」

 これで三秒。

「女を取るんだろう? だから町を譲る」

 これで三秒。

「ああ、そうだな。まぁ、確かに女を迎えには来たんだが……」

 するとイーノックは告げた。残り二秒。

「やっぱりどっちも守りたくなった」

 爆発。町はずれの駐屯所が爆破された。アーロンの軍が寝泊まりする場所だ。爆発は連続で起き、一棟、二棟、三棟、次々に建物を破壊していった。

 どうも建物に爆薬が仕掛けられていたようだ。それも生半可な爆薬じゃない。鉱山を採掘するのに使うような、強力な火薬サイナマイト……。

 爆発はイーノックのいる通りでも起こった。物陰に潜み、イーノックを狙っていた軍の一部が、建物と共に吹き飛ばされる。それを合図にイーノックは銃を抜いた。立て続けに発砲し、目の前にいた三人のガンマンを地に伏せる。

 一瞬で地獄と化したローズクリークの一角、町の外れの丘の上に、佇む男がいた。ショットガン。斧。ロープ。そして手元には……導火線の束。フランク・ヘイウッドだった。彼は再び数本の導火線に火をつけた。火種は一気に線上を駆け抜け、またもイーノックの近くにあった建物を吹き飛ばした。炎と爆発に炙り出された軍隊を、イーノックが立て続けの射撃で始末した。混乱した軍隊は一時撤退を余儀なくされた。

 イーノックは地面に倒れたまだ息があるガンマンの一人を引っ張り起こした。ガンマンが訊ねた。

「こ……こんなのいつ仕掛けたんだ」

「この町に流浪のマジシャンが来てなかったか? 地主のジェフ・ランドルフを見かけたらしいから奴がアーロンと話をつけてた頃だな」

 イーノックはガンマンを放り投げると短くこう告げた。

「これは宣戦布告だ! ……野郎を、アーロンを連れてこい! クラリッサを迎えに来たってな!」

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