第14話 作戦
「状況を整理するぞ」
フランク・ヘイウッドは広げた地図を示した。場所は保安官詰所。イーノックを含む六人の他に、フランクの部下アンドレイ、町一番の腕っぷし男のリトルジョン、最年長炭鉱夫のバート・ハウ、借金まみれのダリルにこの間童貞を捨てたばかりのジョン・シュワード、銀行家のジェンキンスなど、有志の男たちが集まって会議を開いていた。
フランクが声を張った。
「スモールクリークの北にある教会。ここを拠点とする。銀行の次に頑丈な建物だからな。戦う意思のない女や子供なんかは銀行の地下金庫に匿う。そして野郎共、戦う意思のある女たちなんかは、教会の二階、屋根、鐘楼から、町に入ってきた敵を狙撃する」
「はい」
マジシャンのヴィクター・ガーフィールドが挙手した。彼は作戦を聞きながら、まるで母親が子供をあやすように即席の手品でウィルフレッドをあやしていた。
「すっげえ! その銃どこから出てきたんだ?」
「……ああ、これはそう、まずみんなの意識を右手に持っていった後左手に……じゃなくて、すみませんフランクさん。その作戦だと、教会と銀行以外は壊滅的な被害を受けてもいいということですか?」
ヴィクターの問いにフランクが答える。
「正確に言うと教会と銀行以外は攻撃に耐えられないだろうなというのが本音だ」
「ま、どうせ壊れるならよ」
ウィルフレッドが買ってもらったばかりの、そして今し方ヴィクターに手品で使ってもらったばかりの銃をふらふら弄りながら笑った。
「派手に壊してもらおうや。酒場はもう見る影もねぇが、この保安官詰所、宿屋に雑貨屋、それと馬小屋、売春宿にジェンキンスの家……壊すところがいっぱいあるなぁ」
「……敵の数は」
ケンゾウがつぶやく。フランクが答える。
「保安官仲間に聞いた話じゃ、アーロンが自分の町に抱えている軍隊の総数はおおよそ百五十だそうだ。連中は町を奪いに来る。力を見せつける意味でも、まぁ百人はスモールクリークに来るだろうな」
「……戦える町民の数は」
「二十七人か、八人」ジョン・シュワードの若い声が響く。
「俺たち六人を加えても三十人ちょっとか……」
ザカリー・グッドタスクが俯く。
「作戦がないと勝てないな」
「作戦がありゃ勝てるみたいな物言いだな?」
イーノックがザカリーをからかうと、ザカリーはうんざりしたように首を横に振った。
「作戦なしじゃどう考えても勝てないだろ。最低で三倍、最大で五倍の数が来るんだぞ」
「準備が要りますね」
ヴィクターが唇を噛んだ。
「僕、手伝いますよ」
「……だが準備には時間がいる」
ケンゾウのその言葉に、一同の間に重たい沈黙が流れた。しかしそれを、銀行家のジェンキンスが潰した。
「どうだろう。町を明け渡す振りをしないか。引っ越しに時間がかかるとか何とか言って、時間を稼ごう。それくらいの交渉権はあるんじゃないか」
「引っ越す振りをして町中で戦う準備をするってことか?」
ザカリーが訊き返すとジェンキンスは頷いた。
「どれだけ稼げると思う?」
イーノックの問いに銀行家は答えた。
「一週間……長くて十日……」
イーノックがため息をつく。
「町を武装するのには十分とは言えないな」
「そうだな」ザカリーが頷く。
「町民は銃の撃ち方も知らない。そこからだ」
「それに無視できない条件がひとつある」
フランクが指を立てた。戦争で傷んだ彼の腕は、人差し指一本を立てるのにも苦痛を伴わせた。フランクの顔が歪んだ。
「クラリッサだ」
フランクの言葉にイーノックたちが床を見つめる。
「彼女を助けに行く人間と、町を守りに行く人間、二つ必要ですね」
マジシャンのヴィクターがそうつぶやくと、いきなりウィルフレッドが椅子を蹴って立ち上がった。それからヴィクターに遊んでもらっていた銃をややもたついた手つきでホルスターにしまうと、小さく笑った。
「もっと必要じゃねーか?」
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