第6話 誘拐
第二の襲撃は二日後にあった。
スモールクリークの皆が恐怖に慄きながらも事態を収めようとしていた頃、つまり破壊しつくされた酒場をどうにか片付けようと気持ちが整った頃を見計らったかのように奴はやってきた。雇ったのだろうか。それともお抱えなのだろうか。最新式のライフルを持った騎兵を二十は引き連れて、あの男、アーロン・コールドウェルがやってきた。
アーロンはいきなり空に向かって自慢の拳銃を撃った。酒場の片づけをしていた人々がみんなそっちの方を向いた。
「スモールクリークの諸君、それは引っ越しの準備かな?」
固唾を飲む住人たち。男たちは咄嗟に腰の銃に手を伸ばしたが、そんなのは虚しい抵抗だと分かっていた。アーロンはその様子を気取りほくそ笑みながら町の通りの真ん中を進んだ。彼の馬の足音が間抜けな調子で聞こえたが、誰も笑いはしなかった。
「忠告はしたが?」
アーロンの手には変わらず銃があった。
「諸君も挽き肉になりたいならそう言ってくれれば準備してきたんだが」
「こんなひどいことをしたのはあなたなの?」
唐突に、本当に唐突に。
一人の少女の声が町中に響いた。手にしていた荷物を地面に放り投げ、抗議の意思がこもった声をアーロンに投げかける。
それはあのクラリッサだった。酒場のウェイトレス。この町の保安官の娘にして、町のみんなから可愛がられている女の子。
クラリッサ・ヘイウッドだった。
「どうして……どうしてこんなひどいことができるの?」
恐れ知らずの少女は、アーロンの馬の近くへ平然と近寄っていく。
「この人たちがあなたに何をしたって言うのよ!」
少女は酒場でずたずたにされていた人たちを示して叫んだ。アーロンは少しの間、この少女を撃ち殺すかどうか迷うような顔をしていたが、やがて少女の青い目、白い肌、そして服の上からでも分かる美しい曲線とに目を止めると、にやりと小さく笑った。それから騎兵の一人に合図をした。
「それについてお話ししよう」
騎兵の一人が馬から降りてクラリッサの腕をつかむ。と、すぐにその様子を目に止めた一人の男が駆け寄ってきた。イーノック・エイムズだった。
「そいつから手を離せ!」
イーノックは銃を抜いた。しかしすぐさま騎兵たちがイーノックの十倍以上の数の銃口を向けた。
「おいおいおい」
アーロンが首を横に振った。
「頭の悪い奴がいるな」
騎兵たちが撃鉄を起こす。すぐさまクラリッサが叫んだ。
「何をする気よ!」
「そこの間抜けを始末するんだ」
「やめて! やめなさいよ!」
少女が騎兵の腕を振り払いアーロンの脚につかみかかる。アーロンはその様子を面白そうに見つめると、やがて少女に銃を向けた。それから彼女に向かって囁いた。
「お前が俺の女になるなら少し考えてやってもいい」
クラリッサは目の前の悪人から唐突に女として見られたことに戦慄した。しかしアーロンは冷徹に告げた。
「今から私の屋敷に来い。おい、いいか。スモールクリーク諸君!」
少女を救うべく銃を抜いたイーノックはそのまま、ただ間抜けに立ち尽くしていることしかできなかった。アーロンが続けた。
「私は慈悲深い。たった今、諸君にチャンスを与えてやることを思いついた。この女性……あー、失礼、名前は?」
「あなたに教えるものなんてひとつもないわ!」
するとアーロンは少女の額に拳銃を突きつけて笑った。
「じゃあ、それも悪くないな。お前がこれを怖がらなければ、の話だが」
そういうことだ! アーロンが叫ぶ。
「選べ。この女か、この町か。どちらかを寄越せ。まぁ、考えるまでもないか。私はフィアンセができて嬉しいよ。金があればもっと嬉しいが」
と、アーロンが馬から降りていた騎兵に合図を送った。騎兵はすぐさまクラリッサを担ぎ上げた。
「離しなさい! 離しなさいよ! やめて! やめて!」
少女が叫ぶ。町の人間は、ただその様子を見ていることしかできなかった。
少女は誘拐された。
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