第2話 金脈

 ゴールドは夢だった。何せちょっとの量で金になる。金脈には夢が詰まっていた。何せそこからゴールドが取れる。

 先の東西戦争の理由になったのがこの金脈だった。金脈は合衆国の西、シェラ山脈の近くに集中していた。東の都会人はこれを羨み手を伸ばそうとし、西へ西へと延びる鉄道を敷き続けていた開拓者たちはいち早く手を付けた自分たちにこそ金の所有権があると主張した。かくして合衆国は西と東に別れ戦争になった。それが十年前のことだ。

 戦争は西が勝った。だが傷は大きかった。合衆国大統領はこれを「分裂の傷」と呼び、国民が再び団結することを願った。スモールクリークにいる男たちは政治や経済に敏感で、そういう国の方針はすぐに生活に取り入れる傾向があった。

 町のスローガンもそれで決まったのだ。この十年。町のみんなは団結して、辛抱強く生きてきた。町の近くに流れる小川からは僅かに砂金がとれたのでそれを生活の足しにしていた。そこに来て、ようやくの吉報だ。スモールクリーク近くの山から金鉱石が取れた。坑夫たちはもちろん、町のみんなが喜んだ。

「これで生活が楽になる!」

「これでこの町も潤う!」

「これで新しい馬が買える!」

 皆それぞれの夢を持っていた。ゴールドは夢だった。


 しかし、この一帯に金脈があることはもう分かりきっていた。事業家のアーロン・コールドウェルはその辣腕で各地の金脈を押さえ、事業を成功させていた。成功の秘訣は暴力だった。

 金脈が見つかった町にいち早く赴き、投降か、さもなくば死かを選ばせる。大人しく「採掘された金の七十%」を支払うならばよし。そうでなければ体の風通しがよくなる。アーロン一派に射殺された人の数は多かった。アーロンは金脈に夢を見た人間に死を運ぶ堕天使だった。

 アーロンの家は元々武器商人だった。つまり、暴力の種に囲まれて育ったということだ。アーロンは八つの時、いつも仲良くしていた原住民の女の子を銃で撃った。理由は銃が何だかかっこよかったから、だ。

 それからアーロンの暴力の歴史が始まった。十六の頃にはすでに七人殺していた。どれも市民権のない原住民や奴隷だった。日差しが熱いから。そんな理由で奴隷を三人まとめて撃ち殺したこともあった。

 だがアーロンは非情な決断を下すことが得意だった。事業の損切や転換には非常に敏感だった。父親はそれを気に入って、早い段階でアーロンを西の方に派遣していた。父の予感は的中し、アーロンは西部各地の金脈を押さえた……ご自慢の暴力で。

 そんなアーロンがスモールクリークに目をつけた。

 町の受難はここから始まった。

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