第4話 着られない服

     〝血染めのブティック〟

 この場所がそう呼ばれ始めたのは、客に訪れた小さなハプニングからだった。


「見ろ! こんなに跡が着いたんだ!」


「サイズが合わなかったんでしょう?

間違えてご購入されたんじゃ...」


「洗濯したら急に縮んだんだよ!

それまでは普通に着れてたんだっ!!」

物凄い剣幕で罵られた。

初めは言い掛かりを付けて来たのかと戸惑ったが、似たような苦情がその後多く届いた。


「嘘でしょう、どうしたのかしら?

前までそんな事は無かったのに。」

洗濯して縮む服を自ら販売する訳も無い。誰かが悪戯をしたのか、だとすれば一体何の為に


「意味が分からないわ」

その後もトラブルが続き客の苦情は更に増していく、そして遂に死者が出た。


「…え、どういう事?」


「おたくの服を着たお客さんが腹部を裂かれたんだ、服に付いてた金具でな」


そんな...ウチにそれ程危険な服は..」


「うるさい、言い訳をするな。

現にこうして被害者が出てるんだ!」

店に来た警察はろくに話を聞いてくれなかった。仮に起きた事故にしても不自然だというのに、言いがかりにも程がある。


「..その後はどうなったんですか?」


「知らないよ、これから確かめにいくんだ」

依頼主はパン屋を営むキリヤム

潰れた服屋の建物を使って二号店を出す事になったらしく服を回収してほしいとの事。


「でもおかしくないですか?

わたしたち裁縫屋ですよ、何で空き店舗の掃除なんてしないといけないんですか」


「..まぁたまにいるんだよ、便利屋かなんかと勘違いしてる迷惑客がね。一応は回収した服を使い回したいなんて魂胆があるらしいから修繕も兼ねて頼んでるんだろう」

〝曰く付き〟という事で誰も近付きたがらず中の洋服もそのままで閉鎖されている。要は掃除のついでに使えそうな服を直してよこせという事だ、迷惑な客もいいところである。


「そもそも入れるんですか。そういう場所って勝手に入れないようなってるんじゃ..?」


「器用にも依頼書に鍵が入っていてね、脚はくれてやるから後はやれってさ」

試しに貰った鍵を入り口の鍵穴に挿してみた。案の定鍵は開き、廃れた店への誘いを示す


「‥暗いね、誰もいないなら仕方ないか」


『バタンッ』 「ひっ!」

扉が閉まり外への逃げ道を塞ぐ。

無理にでも内側の闇は客を歓迎したいらしい


「まったく老い先短い女をそんなにも怖がらせたいのかい?」

愛想なしから表情を引き出すのは至難の業だがどうしても恐怖を煽る方針のようだ。


「くいたきゃ喰えばいいさ、その前にバラして直して素敵に仕上げてやるけどねぇ!」

針は剣よりも強し、糸は盾より硬し

売られた喧嘩は買う前に不良品に変える。


「下手な通販じゃアタシはつられないよ」

不平不満は彼女の専売特許、潰れた店を潰す程クレームを付ける事には定評がある。



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