第5話 何の為に
――霧の塔5階――
「ふぅ……ちょっと疲れたけど、なんとか辿り着けたかな」
ようやく目標としてた5階だ。この階をクリアして目的のアイテムを入手してポータルに戻れば晴れて冒険者になれるはずだ。
「ここには一体何があるんだろう……」
と、その前に一応回復しておこう。
私はマジックボックスから回復ポーションを取り出して1本を飲み干す。
「んっ……ぷはっ……さて<オープン>っと」
魔法で自身の状態を見てHPがほぼ全快になったことを確認する。
「それで、5階はどうなってるんだろ?」
5階は今までより少し広い空間になっていた。通路ではなく部屋みたいだけど、一体何があるのだろう? 私は部屋の中央まで進み周りを見渡す。すると壁際に宝箱が置いてあるのを見つけた。
「やった!あれってきっと報酬の宝箱かな?」
私はすぐに駆け寄った。しかしその時、後ろから何かの気配を感じ取った。
「――えっ!?」
振り返るとそこには……。
「―――誰?」
よく知らないお兄さんが立っていた。
『………』
人……だよね?
見た感じ、20代後半くらいの男の人だけど……。
何処となく人とは違う雰囲気がある。
腰には剣を引っ提げており、皮鎧を着た冒険者のように見える。
「あなたは一体……」
『問おう、貴様はこの塔に何を求めてきた?』
「えっ?」
……そんなの決まっている。
「――私は冒険者になるためにここに来ました」
『では続けて問おう、貴様は何故冒険者になりたいと思った?』
―――それは。
両親が冒険者だったから。
私の大好きな先輩が冒険者になったから。
街の冒険者さん達はいつも街を守ってくれててカッコよかったから?
思い当たる理由はいくつもある。
『――ふむ、それが其方の気持ちか?』
――先ほどとは別の声がすぐ近くで聞えた。
そちらを振り向くと、美しい褐色肌の女性の姿があった。
「――あ、貴女は?」
『何、新しく有望な冒険者が生まれると訊いておるのでな。
儂は少し見学に来ただけに過ぎぬ』
「見学――?」
『ふむ、忘れよ。何にせよ其方はここで最初の試練を受けることになろう。
――では、後は任せたぞ』
『仰せのままに――』
その女性は最後に男に全てを任せると光の中へと消えていった。
男性がそれを見届けると、こちらを振り向いた。
そして、腰の剣を抜いてこちらへ構えた。
『剣を抜け――』
「っ!!」
私は奇妙な感覚に襲われて、剣を抜いた。
『ゆくぞ』
男は私に向かって剣を振るう。私はそれを剣で受け止める。
そして、男は一歩下がり、再度剣を構えた。
「―――?」
男の太刀筋は何処か見覚えがある。
『では、もう一度』
男は先ほどよりも早く剣をこちらに打ち込む。
「くっ!!」
私は咄嗟に剣で受け流し、こちらからも攻勢に打って出る。
「やぁあああっ!!!!」
上段からの一撃。相手の剣がそれを受け流すために動く。
私はそのまま斬りかかるように見せかけて、
バックステップを踏みながら剣を引いた。
――フェイントだ。
「――ッ!」
男が僅かに動揺した隙を狙って私は全力の突きを放つ。
――ズドン!!
重い手応えと共に男の身体が大きく吹き飛んだ。
「はぁ……はぁ……」
今の感触……間違いなく決まったと思う。
しかし、大丈夫だろうか。多少加減はしたものの下手すると致命傷では……。
と、そんな心配は不要なようだった。
男は何事もなく立ち上がった。
「だ、大丈夫ですか?」
『――おかしなことを言う、今貴様がやったのだろう?
何にせよ心配は不要だ』
そう言うと再び男はこちらへ向かってくる。
先ほどのようにフェイントを混ぜながらこちらも攻めるが……。
『その手は最初に見た』
「くっ……!!」
こちらの剣の軌道を見切られてしまったのか、小細工が通用しない。
こうなると純粋に技術と力の勝負だ。
「ぐっ!強い……」
今度は明らかに実力の差を感じる。
こちらの剣はあちらの剣で防がれ、あちらの剣は防ぐことが出来ない。
少しずつ、私は切り傷を負ってしまう。
だが、不思議だ。実力差を感じるというのに男の太刀筋に覚えがある。
『――ふむ、何故だと思う?』
「……」
心を読まれているのだろうか?
男は別に馬鹿にしたような様子では無く、こちらを黙って見据える。
『実力差を感じるのは、何を為したいかを明確にしていないからだ』
「それはどういう?」
『言葉通りの意味だ。貴様の迷いが見える』
「……迷い」
確かにそうだ。冒険者になりたいとは思っていても明確な理由なんてない。
『――貴様に問う。冒険者は楽しいか?』
「えっ?」
『冒険者になりたかったのだろう?ならば答えろ。
冒険者が楽しくなければ、何故なりたいと思ったのだ』
…………。
「私は」
――母は冒険者として、一つの国を救ったと訊いた。
――父も同じく冒険者として旅をして、
歴史、文学、魔法、そして人の在り方を学んだ。
――先輩は、冒険者になってから王宮の依頼で様々な戦いに赴いて、
多くの人を今も救っている。
――街に入る冒険者さん達は、
普段は酔っ払いだったり、たまに喧嘩したりするけど……。
「――私にとって冒険者の皆さんは、憧れの存在です」
『――それが貴様の気持ちか』
「はい」
『なるほど、よく分かった』
そして男は再びこちらに剣を向ける。
『ならば、それを証明してみせよ』
「はい!!」
私は剣を構えなおす。そして、目の前の男を見つめる。
「いきます!!」
それから数分、私は男と剣で語りあった。
そして少しずつ分かってきた。
「(この人の太刀筋は私だ……)」
見覚えのある太刀筋だったのはそれが理由だ。
では何故実力差があったのか、私は曖昧な理由のまま剣を振るっていたから。
でも今は違う。
私は明確な意思を持って剣を握っている。
私にとって冒険者は憧れ。
だが、それだけは無い。
冒険者になって何を為すか。
「―――私は」
『……!?』
もう、私の腕も体力も限界だ。
だからこれは最後の勝負、私の気持ち、そして実力を素直にぶつける。
「私は、冒険者になってお母さんや先輩みたいに、
沢山の人を救ってみせるんだから――!!」
言葉と同時に、私は男に全力で斬りかかる。
フェイントも何もない、愚直な一撃。だが、それでも私の全力だ。
「うわああああぁぁ!!」
男は剣でそれを受ける。
――ギィン!!
男の剣が折れた。
そしてそのまま剣は弾かれ、私達の剣は交わる。
『見事だ』
「はぁ……はぁ……」
『其方を合格と認めよう』
「………やった」
そこで私の体力は尽き、そのまま気を失ってしまった。
◆
………ここは?
気が付くと、私は塔で寝転がっていた。
「あれ?私どうして……」
確か、私は冒険者になるために霧の塔に登って……。
「登って……確か、試練を受けたような……」
……駄目だ、よく思い出せない。
だけど、それでも何か大事な決意をした気がする。
『私は、冒険者になってお母さんや先輩みたいに、
沢山の人を救ってみせるんだから――!!』
―――そうだ、私は冒険者になって人を救う。
「あこがれだけじゃダメなんだ、強くならないと……」
私は手を握りしめる。
そうだ、ここからが始まりなんだから。
ふと、横を見ると宝箱が置いてあった。
「こんなの初めからあったっけ?」
私は部屋の中にあった宝箱を開いた。中には青い鍵が入っていた。
これを取ればいいのだろうか?
私は何となくそれを手に取ると……私の後ろが光り輝いて光の柱が出来あがった。
「これが……ポータルかな?」
私はその光の中に入っていった、すると声が聞こえた。
『冒険者見習いサクラ、5階のポータルを登録しました』
「これで……合格なのかな」
これで私は試験をクリア出来たことを確認出来た。
そして光に包まれ、気が付いた時にはサクラタウンの広場に居た。
「あれ……ここは」
そっか、ポータルで霧の塔から脱出できたんだね……。
「この鍵をギルドに持っていけばいいのかな?」
私はかなり疲れていたけど、その足で冒険者ギルドに向かうことにした。
◆
私はギルドに着くなり、受付のお姉さんに青い鍵を見せた。
「あ、あの!これを!」
「はい、確認いたします。…………ポータルキーですか!
まさかこんな短時間でクリアしてくるとは……凄いですね、サクラさん!」
「い、いえ……そんな……えへへ」
褒められたのが嬉しくてつい笑ってしまった。
「おおー、サクラの奴1日で試験クリアしちまったぞ……!」
「へぇーやるなぁ、流石サクラタウンのお転婆娘だな!!」
「ははは!!その辺りも母にそっくりだな!!」
周りにいた人たちも私を見て驚いているみたいだ。
少し照れくさいな……。でもお転婆娘は余計だ。
「では少し待っててくださいね。担当のミライを呼んできますから」
「はーい、待ってます……」
暫くして、担当のミライさんが出てきた。
「はいはい、お待たせしましたー。貴女の担当のミライですよー。
サクラさんおめでとうございますー!!数日は掛かると思ってたんですが、まさか1日とは!」
「ありがとうございます、頑張った甲斐がありました!」
「ではサクラさんのポータルキーとギルドカードを一時お預かりしますね。
また明日ギルドに来てもらえますか」
「は、はい!」
こうして私は試験に合格して、
ついに念願の冒険者になることが出来た。
◆
ギルドを出て私は真っ先に家のお母さんに報告した。
「お母さん、やったよー!!私試験合格したよー!!!!」
「あら、本当に?それは良かったわねぇ~。今日はご馳走にしましょうかね!」
「わーい!」
私は飛び跳ねるように喜んだ。
「これで私も明日から冒険者だね!依頼をいっぱい受けるぞー!!」
「ふふふ、サクラったら……でも、そうねぇ……」
お母さんは何かを思案しながら言った。
「サクラはもう少し霧の塔で鍛えた方がいいんじゃないかしら?」
「えー!?何でなの!」
「冒険者になったと言っても、サクラはまだまだ未熟だもの。
きっと今だとゴブリン討伐の依頼も一人でこなせないんじゃないかしら?」
「うっ……確かに……でも、
ゴブリン討伐って元々一人で達成する依頼じゃないもん!」
ギルドで受注できる<ゴブリン討伐>の依頼は大体パーティを組んで3~5人で攻略するのが殆どだ。それもそのはず、殆どの場合はゴブリン10体以上倒すか、ゴブリンの巣の全てのゴブリンを殲滅が依頼達成の条件になるからだ。
新人冒険者がソロでそれが出来る人なんて殆ど居ない。
それこそ、私の目の前にいるお母さんくらいだ。お母さんは冒険者になったその日に一人でゴブリン討伐の依頼を1日で三件達成したという。
これはお父さんから聞いた話だけど、本当の事だと思う。
「だから、私はもっと強くなりたいから依頼を受けるの!」
「まあまあ、落ち着いてちょうだい。
何もずっと霧の塔に籠れと言っているわけじゃ無いのよ?」
「むぅ……本当?」
「勿論。ただ、サクラには魔法を覚えてもらいたいのよね。
今のサクラは、殆ど剣技だけで戦っているでしょう?
これから先、強力な魔物や沢山の冒険者と渡り合うなら、
魔法の一つ二つ覚えた方が楽だと思うの」
「んー、そうかもだけど……でも、どうやって?」
「簡単よ、霧の塔は冒険者の修行には最適の場所だもの。
サクラが今回攻略したのは最下層だろうけど、上層はもっと色んな魔道具や魔法の知識が得られると思うわ。
本格的に冒険者として活動するのはそれからでもいいんじゃない?」
「……お母さんの言う通りかも」
「よし、良い子ね!そうと決まれば、お母さんと組手でもしましょうか!」
「え、待ってお母さん!もうすぐご飯だって!」
疲れ切った今、お母さんと組手なんてしたら私死んじゃう!
「いいのよ、お母さんに任せなさい!さぁ行くわよー!」
「ひぃ~!ごめんなさーい!」
こうして、私は冒険者になるための第一歩を踏み出した。
ちなみに組手は私のボロ負けだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます