第3話 部屋で待ち構えるのはズルいと思う
――霧の塔3階――
「よーし、この階も頑張るぞー!」
私はそんなことを言いながら階段を駆け上がった。
階段を駆け上がった先は、広い部屋で魔物が居た。
「うわ、いきなりゴブリンだ!!しかも3匹も!!」
2階ではゴブリンは必ず単体で出てきていた。
3匹同時に相手にするのはこれが初めてだ。
しかも、大声をあげてしまったので、うち2匹に気付かれてしまった。
『ギャアァ』『ギィイ!!』
「ひぃ!?怖いからこっち来ないで!!」
私は慌てて盾と剣を構えた。
ゴブリンは私から見て右側の一体が突進してきた。
『ギャッ』
「くぅ!!」
ゴブリンの攻撃をバックラーで防ぎ、何とか防いだ。
「くっ……腕が……!」
しかし、防ぎ方が悪かったのか、バックラーで防いだ手が痺れてしまい上手く盾を握れなくなった。次に攻撃が来たら盾で防げない。
「こっのぉ!!」
私は右手の剣を振り上げて、ゴブリンの左肩を袈裟斬りで大きく抉った。
『ギャアアアアッ!!』
ゴブリンが大きく悲鳴を上げて後ろに一歩よろめいた。
私はその隙を見逃さず、ゴブリンに追撃を掛ける。
「やああああっ!!!」
振り上げた剣をそのままゴブリンの頭に叩きつけ、
更に踏み込んで横薙ぎに払った。
「ハァ、ハァ、やった……」
しかし、私は目の前のゴブリンに気を取られ過ぎていて忘れていた。
もう一匹気付かれているゴブリンが居ることに。
『ヘヘヘッ』
背後から聞こえた気持ち悪い笑い声にハッとして振り返ると、
もう一匹のゴブリンが迫ってきていた。
「えっ、嘘っ!?きゃああ!!」
咄嵯に前に出した左腕をゴブリンの棍棒に叩かれ、
私は後ろに吹き飛ばされてしまう。
「痛いっ!いったぁい!!」
私は痛みで涙目になりながらも急いで立ち上がろうとするが痛みで体を抑える。
見ると、左手に力が入らず、盾をうまく構えられない。
「うう、ダメだ。これじゃ………!!」
これじゃあ戦えない……って言いそうになったのを食いしばって耐える。
この程度の痛みで挫折してたんじゃ冒険者なんて務まらない。
そう思い、私は盾を捨てて立ち上がる。
そして、目の前に棍棒を振り上げようとしていたゴブリンに右の剣を投げつける。
『グアッ!?』
突然剣を投げつけられたゴブリンだが、棍棒で剣を弾き剣は横に飛んでいった。
今の私は無手だ。武器もなく、左手は棍棒で殴られたせいで鬱血して盾も握ることが出来ない。だけど絶体絶命では無い。
「<マジックアロー>!!」
無事な右手の人差し指をゴブリンに向けて私は魔法を発動する。
この魔法は指から魔法の矢を飛ばして敵にダメージを与える魔法だ。
しかし、その威力は非常に低く、この至近距離からでは威力が十分出ずに当ててもせいぜいゴブリンを怯ませるくらいだ。
「当たれぇ!!」
しかしそれでも私はマジックアローを連発し、ゴブリンを少しずつ押していく。
そしてゴブリンが僅かによろめいたところで、
「<マジックボックス>!!」
私は右の方に黒い渦を出現させ、そこから武器を引き出す。
引き出したのは相手の得物と同じ【ゴブリンの棍棒】
「たあぁぁぁぁ!」
よろめいたゴブリン相手に私は飛びかかり、
とにかく相手が倒れるまで右手の棍棒で敵を殴打し続けた。
やがてゴブリンが力尽きて倒れたところで棍棒を床に落とした。
「ハァ、ハァ、やった……倒した……」
戦いに勝利した喜びよりも先に疲労感がドッと押し寄せてきた。
「ふぅ、これで少しは……」
と、安心したところで目の前の光景を見て、咄嗟に最後の魔法を発動した。
「<ファイア>!!」
私の右手から火の玉が飛んでいき、迫っていたもう一匹のゴブリンに着弾した。
たまたまだけど棍棒を手放していて良かった。剣や武器を持っていたら魔法を使用することが出来なかった。
炎はゴブリンの弱点らしく、悲鳴を上げながら倒れた。
そう言えば最初に居たのは3匹だった……。
あれだけ騒いでたら気付かれて当然だよね。
「はー……疲れた……」
戦闘が終わったことで緊張の糸が切れ、私はその場にへたり込んだ。
すると、急に全身から汗が出てきて、目眩がし始める。
「あはは、ちょっと無理し過ぎたかな?」
……左手の鈍い痛みと、魔法の連発により私の体はほぼ限界を迎えていた。
「……<オープン>」
私は絞り出すような声で、自身の状態を確認する魔法を使用する。
【名前:サクラ 職業:冒険者見習い】満腹度25/100
レベル 4 HP 5/42 MP 0/25 攻撃力19(+7) 魔力 18 素早さ 16 防御力8(+10)
状態異常:目眩、左手骨折
「あはは……MPスッカラカンだ……イタタ……」
今にも痛みと目眩で意識が遠のきそうだ。
MPは魔法を使うだけじゃなく体にも大きな影響を及ぼす。特に今のような完全な魔力切れの状態だと、私の場合は体がまともに歩くことすら出来ない。
お酒でベロベロに酔ったような状態になってしまう。
「……そ、そうだ……回復アイテムを」
私はマジックボックスから回復ポーションを取り出し、
何とか動く右手だけで蓋を開けて飲み干した。
「うぅ……不味い……」
回復ポーションははっきり言って美味しいとは言い難い。これが中級ポーションなら果物が入っていてそこそこ美味しいのだが、初級の回復ポーションは苦いだけだ。
だけど、これで体は大丈夫。
左手もジンジン痛むけどポーションの痛み止めのお陰で少しマシになった。
少しだけ休憩して痛みがマシになったところで、
私はもう一つのアイテムを取り出す。
「魔法の霊薬……こっちが本命なの」
私は楽しみにしてた霊薬の蓋を開けてゆっくり飲む。
「んっ、んぐっ……ぷはぁ、やっぱり美味しいっ!」
今ので一気に酔いが醒めた感じだ。
甘いジュースのように飲めるので、私にとって大好きな飲み物だった。
この霊薬だけど、MPを回復させるものだ。
味は果物のジュースと殆ど変わらない。甘くて美味しいし、体に魔力がみなぎるお陰か体もポカポカあったまる。今は他に魔物も居ないので、お腹も空いていたことだしここで一緒にパンも食べることにした。
そして、食べ終わる頃には体の痛みもほぼ消えていた。
私は改めて自分の状態を<オープン>の魔法で確認する。
【名前:サクラ職業:冒険者見習い】満腹度85/100
レベル 4 HP 30/42 MP 20/25 攻撃力19(+7) 魔力 18 素早さ 16 防御力8(+10)
「ふぅ……よし、もう大丈夫!」
私は立ち上がり軽くストレッチをして体をほぐす。
左手はまだ痛むが、我慢できないほどではない。
「さて、まずは落とした装備を拾って……と」
私は落とした剣と盾と棍棒を拾い上げ、棍棒だけマジックボックスに仕舞う。
「それから探索だけど……うーん」
さっきみたいにゴブリン複数が同時に来るとかなり厳しいことになる。
不意打ちなしだと今の私にとってゴブリンはそこそこ手強い魔物なのだ。
開幕<ファイア>を使用して一匹を速攻倒す手段も難しい。
魔法の霊薬は今ので使い切ったため、これ以上のMP回復は自然回復以外の方法が無い。まだ3階だ。この後4,5階を一気に攻略するなら魔法は温存しないといけない。
「となると、剣と棍棒で戦うしかないんだけど……」
剣はともかく棍棒はリーチが短く、ゴブリン相手だとどうしても懐に飛び込む必要がある。つまり、危険が一杯ということ。
「一対一に持ち込んで戦うしかないよ……」
その状態に持ち込めば剣と盾で戦える私の方が有利だ。
最悪、一撃貰っても<ファイア>がある。
「ま、なんとかなるよね?」
私はそう言い聞かせながら部屋を再確認する。
すると、ゴブリンが倒れて消えていった場所に石ころが転がっていた。
しかしそれをよく見ると、石ころでは無く……。
「これ、魔石だ……!」
魔石とは、魔力が込められた石の事である。
基本的に魔石は世界の何処かにある魔力の純度の高い場所から掘り当てて入手できるものなのだが、霧の塔とか一部に生息する魔物も落とすことがあるって聞いたこともある。さっきのゴブリン達が一つずつ落としていったようで合計3つ転がっていた。
「純度は低いからあんまり価値は無さそうだけど……」
もしかしたら、これは投擲武器として使えるかもしれない。持って行って損はないだろう。私は魔石3つをポーチに入れて先に進むことにした。
◆
通路を進み、単体で現れるゴブリンともふちゃんを倒しながら進むと通路に分岐があった。どう進めばいいか分からず適当に進んでいると、小さな小部屋にたどり着き、そこからのぞき込むとゴブリンが2匹居た。
片方は若干離れたところにいるが、仮に近くで戦闘が始まればすぐに近寄ってくるだろう。
「……どうしようかな」
さっきと違って2匹だから正面突破も出来なくはないと思うけど……。
私はさっき入手した魔石を一つ手に取り、
「……出来るだけ、声を抑えて…それっ!」
私は近くの方のゴブリンに向けて魔石を投げつけた。
投げつけた魔石はゴブリンには当たらなかったものの、何事かと思い片方のゴブリンは入り口に近寄ってきた。
私は咄嗟に身を隠して、剣だけ構えておく。
『………ギィ?』
そして入り口付近まで来たところで、
私はゴブリンの目の前に飛び出して剣を振るった。
「やぁっ!」
ゴブリンは私の攻撃に反応しきれず、
胴体を斬りつけられて血を吹き出しながら倒れた。
『ギャッ!?』
残り1匹のゴブリンも仲間が斬られてたことに気付いてこちらに駆けてきた。
大丈夫、一匹相手なら正面からでも倒せる。
「てややぁっ!!」
私は一気に駆け寄りもう一度剣を振るった。ゴブリンは慌てて棍棒で剣をガードするけど、今の私の勢いならそのまま押し切れる。
「はぁぁぁ!!」
そのまま体重差でゴブリンを押し込んで、
ゴブリンが尻餅を付き、そこで一気に追撃し剣で叩きつけた。
『ギャァ!!』
最後に断末魔を上げて、ゴブリンは黒い煙になって消えた。
「ふぅ、勝った……!ふふん、私だってやるじゃない」
私はゴブリンが落とした魔石を拾い集めてから、投げた魔石に目を向けた。
「あっちゃあ……砕け散ってる」
敵に当たらなかったし、色々散々だ。
売れば銅貨数枚くらいにはなっただろうに……。
まぁ、いいか。また新しいの拾えば良いだけだし。
部屋を探索すると、宝箱が2つ置いてあった。
片方は銀貨20枚と毒消し草、もう片方は杖が一本入っていた。
「おぉ、当たりだ」
これでいざという時の毒対策が出来た。しかし、もう片方の杖はどうだろう。私は魔法使いじゃないから杖の扱いは上手くないんだよね。
「<ルック>」
私は魔法で杖の詳細を調べた。
【名前:雷の杖(5)】
効果:使用するとライトニングの効果を発揮する魔道具。回数制限あり。
魔法が使えない人でも()内と同じ回数使用することが出来る。
「……え?なにこの性能……凄い……」
魔道具というのは文字通り魔法効果が付与されたアイテムのこと。
<ライトニング>は<ファイア>と同じく攻撃魔法だが初級攻撃魔法で特に威力の高い魔法だ。でも特筆すべきは「魔法が使えない人でも」という点、消耗品のようだが十分過ぎる性能だと思う。
「よし、次に出会った魔物に使ってみよう」
私はそう呟いて、小部屋を出る。次に私は行かなかった方の道を進んだ。
そしてそのまま進むと部屋が見えてきた。
「なんだろ、あの魔物」
部屋の中には見たことのない魔物がいた。私は<ルック>で魔物の詳細を調べた。
【名前:コボルト】種族:コボルト族 Lv1
説明:獣の姿をした二足歩行する魔物、
足が速く一気に接近して攻撃してくる。爪による攻撃に注意。
「あれがコボルトか……」
見た目は完全に犬のそれだけど、能力を見る感じ結構強そうだ。
ここは慎重に行こう。
私はまずは部屋の中を覗き込んだ。どうやらコボルトが二匹いるようだ。
「よし、じゃあさっきみたいに……」
私はゴブリンと同じように魔石を投げつけてみた。
するとコボルト達は何事かと振り返り、魔石が床に転がっているのを見つけた。
『キャイン!』「あっ、見つかった」
コボルトはすぐに私の方を振り向き凄いスピードで迫ってきた。
しかも厄介なことに両方同時にだ。
「うわっ!?」
私は慌てて剣を構えるけど、こんなの防ぎきれるのか分からない。
いや、ここはさっき拾った杖で……!
「か、雷の杖よ――!!」
私はとりあえずアイテム名を叫びながら振れば大丈夫だろうという精神でさっきの杖を振り上げる。
すると、杖から電撃が飛び出して片方のコボルトに直撃した。
『ギャンッ!?』
電撃を食らったコボルトは激しく感電し、
プスプスと煙を立てながら倒れてそのまま消滅した。
「す、すごい威力……!?」
調子に乗った私は怯んでいたもう一匹のコボルトにも杖を振り、
そっちも杖の一撃で倒れた。
「やった、倒した!」
ひとまず魔石を拾い上げてコボルトの感想を言った。
「すっごい動きが早かったなぁ……
体感私の2倍くらいスピードで距離を詰めてきたよ」
あの魔物は距離が遠くても警戒した方が良さそうだ。ゴブリンより強敵だと思う。
「それにしてもこの杖凄い……」
今回は咄嗟に使ってしまったけど、これは十分切り札になる性能をしている。
「杖で使用したライトニングの威力、
格上の魔法使いくらいの攻撃力だったかな」
例えるなら、私が今使用する<ファイア>の威力はダメージ10~12くらい。
<マジックアロー>は直撃で3~5ダメージだ。だけど、この杖の<ライトニング>はダメージ25くらい与えてたと思う。
「これは良い武器を手に入れたかも」
私は嬉しくなってぶんぶん杖を振り回す。すると、
「あ、あれ?」
杖をよく見ると、先端が少し焦げていた。
回数制限だから少しずつ壊れていくようだ。
「これ、使う時は気をつけないと……」
私は改めて杖の性能を確認した。
「消費無しで多分威力固定、回数制限あり、誰でも使用可能。うん、良いね」
残り回数はあと3回だ。強力な武器だから慎重に使おう。
そうして私は慎重に立ち回りつつ、次の4階の階段を見つけて上がっていった。
――現在の状態――
【名前:サクラ 職業:冒険者見習い】満腹度60/100
レベル 6 HP 35/50 MP 24/32 攻撃力26(+7) 魔力 23 素早さ 21 防御力10(+10)
装備:ソード+1(+7) 皮の服(+5) バックラー(+5)
所持技能:剣の心得Lv3 盾の心得Lv1 挑発Lv1 New投擲Lv0
所持魔法:マジックアロー、ファイア、ファーストエイド
特殊魔法:霧の魔法(ルック、マジックボックス、オープン)
所持アイテム:7/20 銀貨34枚 魔石5個(低質)
【霧の魔導書】【ショートソード】【回復ポーション2個】【ゴブリンの棍棒】
【雷の杖(3)】【毒消し草】
【投擲】武器や石などを投げて攻撃する技術。
レベルが上がると命中率が向上する。Lv0なのでロクに当てられない。
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